エンターテイメント、誰でも一度は憧れる。

PCグラフィック、写真合成、小説の下書き。

刻塚-(NO-34)

2010-01-23 22:40:17 | 小説・一刻塚
刻塚-(NO-34)

「勿論よ。そしたらね、去年の2月10日の法要に馬場と辻本が来たんですって。
それで、教授の遺品で奥さんや子供さんには何が何だか分からないからって、馬場と辻本の二人に遺品の整理を手伝って貰ったって言うの。
その時に、長い表みたいな書類と分けの分からない写真が出て来たんですって。
馬場がそれを見て懐かしいとか言って、形見に欲しいって言うから渡したんですって。それが一時塚の地下探査のデーターだったらしいのよね」。
「間違いないだろうな、教授は大変な物が埋もれている事を知って家に持ち帰ったんだろう。それを明かさないまま死んでしまったと言う訳か。
それを偶然馬場たちが見付けて悪い虫が騒いだってことか。馬場たちは女子大生を目隠しに使ったと言う筋書きか。
それで、その女子大生達は馬場から分け前を貰っていたのか?・・・」
「ええ、皆な200万円貰ったって供述したわ。それがあったから口が堅かったのね。でも厳重注意と言う事で不問にしたけどね」
「そうか、それは良かった。山田さんも被害届けは出さないと言ってくれたからね。これで馬場と一時塚の拘わりが分かったけだ、後はあの白骨が誰か分かれば二人を追い詰められる。本庁も動き出したんだろ」。

「勿論よ、あの白骨死体の大きい方の一人はA型で馬場信男と見られていたけど。馬場のマンションから検出された馬場の髪の毛のDNAとは一致しなかったわ。
仁科は0型だけど、仁科の実家の部屋から採取された仁科の髪の毛のDNAと一致しなかった。二人は全くの別人と言う事がハッキリしたわよ。
それで、馬場と仁科の二人がかかった歯医者だけど、都内と大坂の看護婦と医者が二人の顔を覚えていてね、写真を見せたら別人だと証言したわ。
いま大坂府警と本庁でモンタージュ作っているから。でも、猿渡君の言う様に浮浪者やホームレスだったら見付けるのが難儀よね」。

「いや、ホームレスだったら見付けるのは簡単だぞ。彼等は縄張りがあってな、公園や駅事にグループを作っているからな。モンタージュが出来たら上野公園にいるホームレスのボスの通称ジキル博士に聞け。俺の名前を出せば教えてくれるから」
「エ~ッ!なんでそんなホームレスのボスなんか知っているの、ジキル博士ってジキル£ハイドのジキルなの」と、手島加奈は驚いたが、麻代はもっと驚いていた。
「うん、俺が本庁にいた頃に暴走族に絡まれている所を助けた事があってさ。それから中良くなってさ、時々情報を貰っていたんだ」。

「エ~ッ!・・猿渡君情報屋なんかいたの」と、目を白黒させる手島だった。
「そんなの敏腕刑事なら誰でも使っているだろ、都内のホームレスの事ならノートパソコンに入れて、何処に誰がいてって、区役所みたいに分かるぞ。
ジキル博士は医者だったらしくてな、暴力団も診て貰っている人だ。善い人だよ」
「そう、じゃあお世話になろうかな。上野のジキル博士か、でもなんでホームレスなんになったの?・・・」
「うん、内緒にしてくれと言われているから加奈でも話せない。約束だかなら、信頼を壊したくないから、悪いな」。
「ううん、それって大事なことだから。もう訊かない、それとあの女性の事が分かったわよ。名前は向坂幸江30才、原宿にある特種メイクの専門学校の先生だった。先月の15日に学校から原宿署に捜索願いが出てた」。
「そうか、特種メイクの教師か。それで、殺しの現場にいつもいた老夫婦の事は」

「その事だけど、それが変なのよね。四県の所轄は事件があったその日に事情聴取して、後は携帯電話に電話して直接有って聞いてないの。
貴方に言われて、あれから帰って直ぐに手配したんだけど、警察に話した住所にはそんな老夫婦は住んでないの。
それに、所轄の調書に控えてある電話は携帯電話でね。調べたらプリペード用の携帯電話で登録者は不明。四県ともね」。
手島加奈はそう話すと何気なく部屋の隅に目をやった。洗濯物が干してあり、麻代の下着と猿渡のトランクスが下がっていた。そして目を閉じて視線を変えた。
「じゃあ私は帰るね、帰ればモンタージュできていると思うから。この事を直接報告したかったの。麻代さん、また寄らせて頂いていいかしら」。

手島加奈はどうしたのか急に落ち着かないそぶりを見せた。
啓太と麻代は同棲しているのかと、手島加奈は動揺している様だった。
「手島さんならいつでも歓迎です」。麻代もまた心にもない言葉を口にしていた。「加奈、そんなに急いで帰らなくてもいいだろ。まだ八時じゃないか。それに、モンタージュだって出来れば電話が入るだろ」。
NO-34-65

刻塚-(NO-33)

2010-01-17 13:02:47 | 小説・一刻塚
刻塚-(NO-33)

「そうなの・・・じゃあ帰る?・・・」
「うん、レポートも書きたいしさ。だからって家に帰れなんて言わないよ」。
「うんッ!だったら帰る」。麻代は嬉しそうにキスすると部屋を片付けていた。
「麻代、おれは支払いを済ませて来るから」。猿渡はそう言うと手荷物を持って部屋を出た。そして事務所をノックした。そして帰る事を告げた。
「エッ・・・お帰りですか。分かりました。では此れをお持ち下さい」主は金庫を開けると和紙だろうか、包んだ薄平たい包みを差し出した。
何だろうと受け取るとズシッと重かった、大判だ、直ぐに分かった、包みを開けた。大判と小判、二朱銀が数枚包んであった。猿渡は呆然と主を見た。

「これは貰えませんよ、この村の宝ですから」
「いいえ、まだ沢山あります。此れも猿渡さんの助言がなければ分からなかった事です、記念と言っては変ですが。どうぞ受け取って下さい。それから、宿泊費は警察の方へ回してくれと聞いていますので」。
そこへ麻代が降りて来た。そして部屋の鍵を差し出した。そして小判を見た。
「凄いね、私も欲しくなっちゃった。なんか犯人の気持ち分かるな」。
「麻代、これ頂いたよ」
「エッ!・・・ほんとに頂いたの。おじさん、ほんと!」と、キョトンと主を見た。

「はい、ちゃんと奥さんのもありますよ」と、金庫から同じ包みを出して渡した。
「奥さんのご両親にどうぞ」。麻代は驚きながら両手で受け取った。
「有り難うございます、でも本当に頂いていいのかな」。
「せっかくだから頂こう。それから宿の支払いは警察が払ってくれるそうだ」「エッ・・・なんかこんな凄いお土産まで頂いた上に。困っちゃう」。
そこへ後藤公子が手提げ袋を二つ下げてやって来た。

「お父さん此れでいいですか」。と手提げ袋を二つ抱え来た。
「うん、猿渡さん、此れは信州の土産です。奥さんのご実家にもどうぞ」二人は戸惑いながら受け取った。
「猿渡さん、いろいろ有り難うございました。お陰様で山田の家の娘になれました。落ち着いたら静岡へ遊びに行っても良いですか」後藤公子は嬉しそうに二人を見た。「ええ。ぜひ来て下さい。その時は山田刑事と一緒にね」

公子は真っ赤になって頷いた。そしてタクシーを呼ぶと上田市に向かった。
赤田村から一時間三十分、上田駅18時18分発長野新幹線あさまに乗り、東京へは僅か1時間足らずで着いた。
そして待ち時間も差ほど無く、20時17分発名古屋行きひかり291号に乗り込んだ。車内は混み合う事もなく、空々だった。窓際に向かい合って座った。
二人は早速きよすくで買った幕の内弁当で夕食を済ませた。麻代は満腹になったのか疲れたのか、幾分シートを倒すと眠ってしまった。
そんな麻代の膝が開き、ミニの隙間から真っ白な下着が露になった。こん盛りとした股間が覗いていた。猿渡はジャケットを脱ぐとそっと掛けた。
そして、静岡へ着く直前に計った様に麻代は目を覚ました。
21時27分、遅れる事もなく定刻通りに静岡に着いた。静岡は長野と違って蒸せ返る程暑く感じた。

「ワア~ッ静岡は暑いわね。こうしてみると長野は涼しいんだね」。
「うん、日中はそうでもないけど朝夕は涼しいよな」
猿渡は麻代の荷物を持ち、改札を出た。ムッとする暑さに額と体にジワッと汗が吹き出た。そしてタクシーに飛び乗ると安東のアパートへ帰った。
部屋はたった三日留守にしただけなのに、ムッとするカビ臭い空気が二人を迎えた。

「暑いわね」、麻代は窓を全開にエアコンのスイッチを入れた。
「ねえ啓太さん、家のお土産どうしようか?・・・」
「今から届けに行こう、歩いても10分だろ」。
「うん、じゃあ歩いて行こう」二人は窓を閉めてエアコンを付けたまま部屋を出た。そして土産と麻代が貰った小判を持つと歩いて実家に向かった。
パッパッ、とクラクショクが鳴って真横に車が停まった。「もうっ危ないわ・・・」麻代は驚いた様に言葉を飲み込んだ。窓がス~ッと下りた。
「麻代。啓太君、長野じゃなかったのか」。それは麻代の父親の車だった。
「お父さん、ビッリするじゃない。用事が出来ていま帰ったばかりなの。ちょうど良かった。これお土産、届けようと思っていたの」。

「そうか、じゃあ乗りなさい」と、父はドアロックを解除した。
「いいよ、行くと長くなるからさ。洗濯しなくちゃならないから、この中に大変なお宝が入っているから楽しみに見てね。じゃあお母さんに宜しく」
「おいおい、仕方ないな。じゃあ頂いて行くよ、あまり銀行休むんじゃないぞ」。
と、父親はクラクションを鳴らして走り去った。
NO-33-63

刻塚-(NO-32)今年最後の更新です。

2009-12-25 02:55:29 | 小説・一刻塚
今年最後の更新です。本年はお世話になりました。

来年も宜しく御願いします。

良いお年をお迎え下さい。

刻塚-(NO-32)

「手島、Y大の辻本教授を調べてくれないか」。
「猿渡さん、済みません。さっき言うのを忘れていました。辻本教授は三年前に病気で亡くなっています」。
「エッ・・・そうですか。じゃあ十年前の研究生と学芸員を調べてくれ」。
「分かった、電話借ります」と、手島加奈は受話器を持つと本庁に電話した。その口調は命令形でてきぱきと端的に指示していた。
「猿渡さん、手島警部はどんなお立場なんです」と、主は小声で訊いた。
「私の肩書は警視庁生活安全課捜査一係りデカ長です。山田さん、そんなこそこそ訊かない」。と手島はキャリアを露に見せた。

「はい、失礼しました。凄いですね女性でデカ長さんとは」。
「それが偏見って言うの、女性でとは失礼よ。ねえ麻代さん公子さん」と、笑った。二人はどう答えていいのかただ笑ってごまかしていた。
「そんなんだから嫁の貰い手がないんだよお前は、話さなきゃ良い女なのにな」。
「まあっ失礼しちゃうわね、そんな女・・・」と、言いかけて言葉を飲み込んだ。
「じゃあ私はお先に失礼します」と、出で行った。
やっぱり、啓太さんと付き合っていたんだ。と、麻代は手島加奈が出て行ったドアを見詰めていた。そして思い返した様に猿渡を見ては靨を作った。
周りを見ると雰囲気的に暗くなっていた、何をどう話したよいのか誰にも分からず、茶を啜る音があちらこちらから聞こえていた。
リリリリ~ンッと静けさを破る様に電話が鳴った、ビクッと誰もの肩が動いた。
電話に近い猿渡が取った。その猿渡の頬が笑った様に見えた。

「太一さん、娘さんの若子さんからですよ」。太一は小躍りする様に駆け寄った。
「いま何処にいるんだ、心配させて」。そして太一の声は涙声に変わった。
そして、分かったと言うと受話器を置いた。涙を拭うと苦笑いを浮かべていた。
「済みませんでした。娘のやつ家から電話が来たら帰って来いと言われるからって、友達に帰ったと言う様に頼んでいたそうで。ハリウッドにいるそうです」。
太一は体裁悪げにペコペコと頭を下げまくっていた。
「まあ、太一よ、嘘でも何でもええ。生きいてたんならそれでええ。のう皆」主の父でもある長老は、そう言うと甲高く笑った。
リリリリ~ンッとまた電話が鳴った。太一が取った。娘の若子の事を話していた。
その話の内容から、山田刑事からの様ようだった。
チラッチラッと皆を見ながら受話器に向かって何度も頭を下げて切った。

「政男からで、出入国管理局で調べたけど帰国してないと行って来た。事情を話したら笑っていたよ。本当に心配かけて済まなかった」。
そして話は終え、部屋に戻った。麻代は手島加奈との関係を訊きたくて仕方なかった。そして訊く事もなくベッドに入った。
麻代はいつになく激しく悶え、絶叫するとグッタリと体を横たえた。そんな体を密着させ、何も語らず猿渡の腕を枕に眠った。
そして翌八月六日日曜日、その日は筒井警部補と南田刑事、山田刑事も戻る事もなく連絡もなかった。
「猿渡君、私は帰るよ。辻本教授と当時の研究クルーの事が分かり次第連絡するから」と、手島加奈はタクシーを呼ぶと夕方の新幹線で東京へ帰った。
明日は麻代も仕事だ、筒井警部補は仕事で帰れそうもないし。と新幹線の時刻表を見ていた。「啓太さん、もう二~三日いちゃだめ?・・・」麻代は甘えた様に背中に抱き着いた。「でも明日から仕事だろ、そんなに休んだら首になっちゃうぞ」。
猿渡はそう言うと背中の麻代を抱える様に膝に座らせた。麻代はウフッと笑うと首に抱き着いた。「アッ・・・もう電話したな?・・・」
「へへ~ッ当たり~ッ!だってこのままじゃ中途半端じゃん。ねえいいでしょう」。「仕方ないなもう、でももう着替えないぞ」。すると麻代はニヤッと笑った。
「ヘヘ~ッ、啓太さんが社へ行ってた午前中に洗濯機借りて洗ったもん。もう乾いてるよ、それにアイロンかける物はないから」。
「分かったよ、家にも知らせたのか?・・」
「うん、啓太さんと一緒ならいいって。事件のニュースで見て驚いていた」
「そうか、でも俺達はここにいてもする事ないぞ。白骨はDNA鑑定するそうだし、さっき聞いたんだけど、女性は全裸で身元を確認できる物は何一つ身に付けて無かったって言うからさ、身元は簡単に分からないだろうからな」。
NO-32-61


刻塚-(NO-31)

2009-12-23 02:11:54 | 小説・一刻塚
刻塚-(NO-31)

「はい、写真を撮ってつい今し方帰りました。それより女性の死体が見付かったそうですが、馬場達の仲間でしょうか」。
その問いに猿渡は首を振った。「分かりません」、
ガチッ・・・鈍いその音に塚を見た。捜査員はスコップを置いて手で掘り始めた「山田刑事、スコップが埋まってました。ここまで掘ったんでしょうか」。そう言うと現場写真を撮らせた、そして手で土を掘り返していた。そして、錆びたスコップが出土した。表に運びだし、ビニールシートで包んでいた。
「山田さん南田さん、俺も帰るよ。筒井先輩にそう言っといて下さい。麻代帰るぞ」猿渡はそう言い残すと麻代の腰に手を添えた。
「もうっ・・・」麻代はポッと頬を染めた。手島加奈は追う様に二人の後を追った。
そして駐車場に着くころには応援の警察車両が到着した。
ワゴン車から鑑識班と制服警官が手に手にチエンソーや担架、長い棒を持って続々と降りて来た。そして整列し、警備の巡査の誘導で山道に向かった。

「啓太さん、応援ってこんなに来るの?・・・」麻代はゾロゾロと社に向かう捜査官の後ろ姿を見ていた。
「それだけ大事件って事だよ。帰るぞ」すると、オートバイの音がして宿の主と後藤公子が乗った三輪のバイクが下って来た。
後ろの荷台にはダンポール箱が積まれていた。「どうも、いま大勢の警察が上って行きましたけど。あんなに必要なんですか」。
「ええ、外にも穴があると困りますからね。警察は総動員ですよ」。

その晩、社と雑木林の中には灯光機の明かりが煌々と照らされ、捜査は続けられていた。雑木林は警察の手で切り開かれ、閑散としていた。
そして、雑木林の地面は捜査の為に積もった枯れ葉は長い棒で弾かれ、真っ黒な扶養土が露出していた。
そして午後八時、食事を済ませ、シャワーを浴びてくつろいでいると電話が鳴った。主からだった、猿渡は麻代を連れて部屋を出ると、向かいの部屋の手島加奈へ声を掛け、三人で事務所に向かった。
行くと、山田一族の親戚が一同に顔を揃え、主の横には後藤公子が座っていた。
「どうしたんです、また何か問題でも」猿渡はクーラーの効いた事務所の椅子に腰を降ろした。

「猿渡さん、地下室から特種メイクの道具が見付かったと言っていましたね」。
宿の主はそう言うと暗い顔をして分家の山田太一を見た。
「ええ、確かにあれは特種メイクに使う薬品と化粧品ですが。それが何か」。
「あれから戻ると息子から電話がありましてね、若子は何処にいるかと訊いてきたんです。若子と言うのは分家の太一の娘でして、映画の特種メイクを勉強したいとハリウッドへ行っているんです」。

「エ~ッ!・・・太一さんの娘さんが特種メイクの勉強?・・・」。
「はい、それで太一叔父に話して連絡を取る様にと。そしたら、アメリカで勉強している友達が一年も前に帰国していると言うんです」。
「それで、自分は訊いてないんですが。山田刑事はなんて?・・・」
「はい、息子が言うには、腐乱がひどくて女性としか分からないそうです。それでつい先程電話があって、帰国しているか調べて連絡してくれるそうです」。
「そんな事どうしてもっと早く言わないの!私は警視庁の刑事よ。そんな事私に言えばすぐに手を打ったのに。そう言う風になんでも一族でって言う閉鎖的な考えがこうなったんでしょう。貴方たち、外にまだ何か隠してなんかないでしょうね」と、全員を睨む手島だった。

「いえ、事件に関係する様な事は何も」。主は神妙な赴きで静に語った。
「山田さん、皆さん。もし遺体が若子さんだっとすると、若子さんは一時塚の事を知っていたんですね。と言うより小判が埋まっている事を知っていたんですか」。
「ええ、若子は知っていました。十年前に改築した時にいて、柱の下に大判が埋もれていたのを見ていましたから。でも塚の中がどうなっているのかは知りません」。「山田さん、あの塚を地質探査したのはどこの会社ですか」。
「はい、会社ではなく東京のY大学の考古学研究の権威ある辻本学教授にお願いしました。そうか、若子の出た大学だ。なあ太一さん」。

山田太一は目に涙が光っていた、そして頷くとポタッと涙が畳みに落ちた。
「まだ若子さんと決まった分けじゃありませんよ。その地質調査の時に何か言っていませんでしたか。あれだけ古銭が埋まっていたら計器に出る筈ですがね」。
その言葉に一族は驚いた様に互いの顔を見ていた。
「いいえ、ただ数枚の古銭あったとだけで、今日聞いて驚いている所です。誰か聞いているかね」。主は一人一人確認する様に分家を見ていた。
NO-31-59

刻塚-(NO-30)

2009-12-19 03:03:38 | 小説・一刻塚
刻塚-(NO-30)

なんの為にです。それに二人の免許証だって出ているんですよ、そんな不便な事までする必要があるんですか」。増井は部下の前にも拘わらず冷静さを無くしていた。
「これはどうも熱くなり過ぎました、失礼」と、苦笑いを浮かべた。
「増井さん、塚から出た大判や小判はかなり掘り下げてから出土していますよね。
馬場と仁科は去年の五月に簡単に見付けています。と言う事は、下部にも埋もれていたと考えるべきです・・・分かりませんか?・・・」猿渡は増井を見詰めた。
「お金があれば身分なんか無くてもいいってことですよ」・・・身代わりだ。
麻代は小声で言った。猿渡はニヤッと白い歯を見せると頷いた。
「うん、東京や大坂には大勢のホームレスや浮浪者がいますからね。二人や三人ホームレスの男が居なくなっても誰も気に留めませんよ」。
「しかしですね、二人の歯の治療の跡も一致しているんですよ。血液型も」。
「増井さん、話し巧みに話し掛けて血液型が同じ浮浪者を見付け、歯が悪いならと親切に自分の保険証を使わせて治療を受けさせる。そうさていたとしたらどうです。
仁科は大坂出身、馬場は東京出身、好都合だと思いませんか」。
増井は呆然と仁科と馬場の旅行バックを見詰めていた。
「それに、二人のジャケットが掛けられていたにしても。免許証だけなら分かりますよ。保険証まで入っていたなんて不自然ですよ。
私たち二人は歯医者にかかっていますって、教えてる様なもんでしょう。これがアパートから出て来たなら俺も気が付かなかったかも知れませけどね」。
「では猿渡さんは保険証の事を聞いた時から疑っていたんですか」南田刑事は顔を覗き見る様に猿渡を見て居た。

「ええ。それにもう一つ、手島が来て、二人が大坂のコインショップにも行っていると聞いて余計そう思いました。
確かに二人が歯医者にかかったのは去年の事で時期もずれていますから不思議じゃありません。ただ、仁科は何も実家のある大坂へ帰ってまで歯科医にかからなくても。そうでしょう?・・・細工しすぎたんですよ。奴等は老夫婦です」。
「エッ・・・猿渡さんそれは幾ら何でも無茶ですよ。どうして馬場と仁科が老夫婦になれるんです」。増井ばかりか、筒井も麻代も呆然と顔を上げた。
「南田さん話していたでしょう、森川さんが殺害される直前に目撃した老夫婦に会って事情を聞きに行ったときの話し。
老人が話してお婆さんは頷いてばかりで二人は殆ど顔を上げなかったと。それと、このカバンの中身です。特殊メイクって知っていますか?・・・」

「ええ、エ~ッ!・・・」南田刑事は屈むとバックの中を覗いた。そしてゆっくり立ち上がった。「フェイスマスクを被っていたんですか?・・・」
「それはどうか分かりませんけど、今は凄い技術を持った人がいますからね。それに今は特種メイクを教える専門学校まであるぐらいですから。
その証拠にバックの品物が何より物語っています。もう一人メイクする仲間がいますよ」すると、ガサガサと雑木林を走って来る巡査がいた。息を切らせて敬礼した。

「発見しまた、この先にも穴がありまして中に女性の死体があります。こちらです」と、夏の制服を汗でびっしょりに濡らして走って行くのだった。
すると、巡査からきつい臭が漂っていた。猿渡は巡査の足元を見た。
「どうしたんです、穴に落ちたんですか?・・・」
「はい、木で穴を覆ってありまして気が着かなくて死体を踏んでしまいました」
その言葉に麻代と公子は驚き、足元を見た。そして両手で鼻を覆っていた。

「こちらです」。巡査は困った様に自分の足元を見ると雑木林の中へ駆け出した。
増井は鑑識を一人連れて後ににつづいて駆けて行った。筒井は穴に飛び下りた。
「鑑識さ~んッ!、二~三人来てくれませんか。死体が見付かった!」と、その声が足元を揺らす様に反響した。「ハ~イッ!いま行きま~す」。
麻代と後藤公子は眉間に皺を寄せて青ざめていた。そして宿の主は刑事の走る後ろ姿を見ては困った様に額の汗を拭っていた。
「麻代、後藤さん達は帰った方がいい。手島はどうする」
「私も帰るよ、暑いし腐った死体なんか見たくないしね。それに管轄外だし」。手島加奈は麻代達と社に戻って行った。

「先輩、これじゃ応援を呼んだ方がいいですよ」。
「そうだな。南田、私は増井さんの所へ行くから山田刑事に死体の事を話して応援を呼んで貰え。社にいるから」筒井はそう言うと雑木林に向かった。
猿渡は南田刑事と社に戻った。行くと数人の捜査員が塚の発掘を始めていた。そして県教委の二人の姿が見えなかった。麻代達は社の回廊で休んでいた。
山田刑事は携帯を持つと応援を頼んでいた。
「山田さん、あの二人は?・・・」
NO-30-57

刻塚-(NO-28)

2009-12-06 16:41:49 | 小説・一刻塚
刻塚-(NO-28)

そんな二人の姿に警備の巡査は笑いながら所定の位置に戻った。
一方、社に戻った猿渡たちを待っていたのは驚きの品の数々だった。
麻代は猿渡に駆け寄った「凄いわよ、あれ見て!・・・」と、麻代は庭先の端を指さした。そこでは鑑識班が数名が、出土品を分けていた。
猿渡たちは麻代に引かれる様に歩み寄った。

「凄いじゃない、これ本物なの?・・・」
捜査員は手を止め、プラスチック容器を差し出した「たぶん本物だと思います」
その中には黄金色に輝く楕円形の大判が何枚も入っていた。そして銀だろうか、丸とも言えない様な小粒と言うのだろうか、古い貨幣がころがっていた。
そして、時代劇で見る様な長四角の二珠銀などが多数入っていた。猿渡は社に上がった。相撲の土俵程もあった塚は半分に削られていた。山田刑事が歩み寄った。
「凄いですよ、見ましたか」と、手にした大判を差し出した。
「ええ、まだあんなにあったんですね。大判小判がザックザクって、童話ですね。
増井さん、教育委員会の人間には出土品は見せない方がいいでしょう。見せると厄介な事になりますから」。

「そうですね。皆聞いてくれ、今から県の教育委員会の人間が二人来るから。来たら出土した物は見せないで欲しい。来たら一服しよう」。
猿渡は外で篩をかけている捜査員に視線を向けた。捜査員はプラスチック容器にシートをかぶせると上に篩いを置いた。そしてOKと言う様に手を上げるのだった。
そして時計を見ると十二時を五分ほど過ぎていた。
「増井さん、もう昼過ぎですから休憩にしましょう」と、時計を見せる猿渡だった。「休憩にしよう!時期弁当も届くから」と、増井は満足そうに回廊に腰を降ろした。ピ~ッ、ピ~ッと突然笛が鳴った。麻代は驚いて笛の鳴る方を見た。捜査員の一人が雑木林に向かって笛を吹いていた。
「あれは雑木林の中を捜索している捜査員からです。何か出ましたな、集まれって言う合図だよ。でも昼だからな」

「なんだそうなの、突然吹くんだもん驚いちゃった」。すると、バイクだろうか、エンジンの音が次第に近付いて来た。
それは宿の主と後藤公子の二人が乗った二台の三輪オートバイだった。荷台には大きなダンボール箱が幾重にも積まれていた。
「どうも、遅くなりました。お弁当をもって来ました。お茶もありますから」。
主は荷台のロープを解くと周りに来た捜査員に渡した。
「猿渡さん、途中で男性二人と擦れ違いましたけど刑事さんですか?・・・」
「あれは県の教育委員会の鈴木さんと剣持と言う人です。見たいなら勝手にって、
手島警部殿が許可したんです」。

「まあっ、警部殿だなんて嫌ね。いまどの辺りでした?・・・」
「まだ随分下です、革靴で草で滑って転んでいました。あれじゃここへ来るにはまだ二十分位はかかりますよ」。主は荷物を降ろすと公子と二人で社に向かった。
ヘルメットを取ると両手を合わせて一礼した。
「随分はかどっていますね、捜査後は埋め戻していただけますよね」。
「勿論です、その為にもちゃんとVTRで撮っていますから。それより凄いですよ、大判や小判がザクザクです。後でお見せします」。

増井はさも自慢気に話すと弁当を手に「頂きます」と、弁当のを開けて腰を降ろした。猿渡たちも回廊に席を取って主を交えて昼にした。
「後藤さん、もしかしたら山田刑事を好きなんじゃない」麻代はそっと耳元で訊いた。ポッと頬を染めて赤くなっていた。「麻代、そんなこと訊くのは野暮だぞ」
猿渡は聞いていた。すると主は笑って頷いているのだった。
すると、教育委員会の二人がようやく上がって来た。猿渡と手島は思わず笑った。
背広を脱ぎ、ネクタイを緩めて額には汗が流れていた。
「どうぞ、お昼ありますよ。冷たいお茶も」猿渡は弁当を二つ持つと寄って来た。
ハアハアと息をして階段に腰を降ろす二人だった。
「どうも、頂戴します。運動不足が祟りますな、しかし凄いお社ですね。噂では聞いていましたが、実に立派なお社です」と、鈴木は冷たいお茶を口に運んだ。
もう一人の剣持は塚の事が気になるのか、社の中へ踏み込んだ。

「勝手に入るんじゃないッ!」と増井は怒鳴った。捜査員たちは一斉に振り返った。「あんたね、殺人事件の現場に勝手に入る奴がいるか。見るだけならと手島警部が許可したのを忘れたのか」。
「済みません、申し訳ありませんでした」剣持はペコペコと頭を下げて戻って来た。「増井さん、どうも済みません。遠くから見させて頂きますので」鈴木は困った様に流れ落ちる汗を拭っていた。
NO-28-53


刻塚-(NO-27)

2009-12-04 03:30:09 | 小説・一刻塚
刻塚-(NO-27)

五分ほどで社に着くと、社の回廊と階段にはビニールシートが敷かれ、四方の扉が全開に開かれていた。太陽の日差しで塚の全容が姿を現していた。
「大きい塚ね、これが一時塚なの?・・・」手島は呆然と額の汗を拭った。
「ああ、分かっているだけで四百年は経っているそうだ。社は十年前に新しく建立されたらしいけどね。でも使える柱なんかは昔のを使ったそうだ」。
「ふ~ん、まるで文化財を修復する時の様ね。これが連続殺人の源なのね」。
すると、社の中で指示していた山田刑事が猿渡たちが来た事に気付いた。
「御苦労様です。猿渡さん、つい先程教育委員会から電話がありまして、一時塚は貴重な文化財だから発掘を中止してくれと言って来ました」。
「そんなこと何処から聞いたんだろう、誰かリークしたのか?・・・」
「分かりません、でも私有地ですし文化財にも重文にも指定されていませんから発掘します。一応発掘する所はビデオに収めますが」。

そうこう話していると鑑識班の手で発掘が始められた。猿渡たちは回廊に上がると作業を見詰めていた。
そして、少しずつ土を一輪車に乗せられた。そして、庭に敷かれたシートに運んではジョレンで土の中に異物は含まれていないか確認され、別のシートの上に移されていた。まるで埋蔵品の発掘調査の様だった。
そこへ増井警部補が無線を持って現れた。
「いま警備の者から無線が入って、駐車場に県の教員委員会だと言って二人程来てるそうですがどうします」。
「そんなの放っておいて作業を続けて下さい。これは殺人事件の捜査なんです。私が話して来ますから」と、手島は猿渡を見た。
その顔は一緒に来て欲しい、と言う事は猿渡に直ぐに分かった。

「手島、俺も行くよ。麻代も行くか?・・・」
「ううん、私が行っても分からないもん。作業見ている」。
「分かった、行って来るから。バイクで行きましょう」と、猿渡は警察のバイクにまたがるり、ハンドルに掛けてあるヘルメットを手島に渡すと自分も被った。
「エッ・・ここは私有地だからメットはいいでしょう」と、手島は嫌った。
「駄目だ、被らないなら歩け」と猿渡は突っぱねた。ムッと膨れながら手島は仕方なく被った。「これだから、麻代さん旦那様を借りるわね。はい、出発」
そして増井警部補と二台で戻って行った。
五分ほどで戻ると駐車場には背広姿の中年男が二人、巡査と話していた。
その前にバイクを止めるとヘルメットを取った。

「なに、県教委がなんだって言うの。これは殺人事件の捜査なのよ。誰の権限で中止を申し出たの」と、手島はのっけから怒鳴り口調で言うと警察手帳を提示した。
唖然と額の汗を拭く中年男は返す言葉も無く、手島の警察手帳を見ていた。
「殺人事件の捜査ですか、私は県教委の鈴木康孝といいます、隣は同じく剣持裕次といいます。電話を貰って一時塚を警察が掘り返していると」。
「それで、誰の権限で中止を申し出たの。教育委員長、文化財保護委員、どっち」
「あ、はい。それはまだどちらにも。私達の独断で参りました」と、少し年配の鈴木は困った様に言葉がしどろもどろだった。
「そんなんで私達を来させたの、捜査妨害よ貴方たち。殺人事件の捜査と文化財とどっちが大事なの。ちゃんと発掘する様子はビデオに収めてわ。こちらは警視庁の元警視正の猿渡さん。文句あるの」。

「いえ、失礼しました」。と、グーの根もでず鈴木は頭をさげた。
「ただ、発掘現場を見たいなら許可しない訳でもないけど。どうしたいの」。その言葉に二人の目付きが変わった。
「はい、ぜひ拝見させて下さい。お願いします」。
「増井警部補、いいわね」。
「はい、警部がそうおっしゃるなら。でも邪魔にならない様にお願いしますよ。それから、その電話は何処から入ったんです」。
「はい、電話の声はまだ若い男性の様でした。電話を録音してあります、此れです」そう言うと鈴木は脇に抱えた使い古したカバンを開き、マイクロカセットを取り出して差し出した。

「では拝借します。しばらくお借りします」と、増井警部補は手にすると。ポケットから透明なビニール袋を出し。入れるとポケットにしまった。
「現場はこの道の奥です、歩いて三十分先ですから。警部行きますか」。
そしてまた三人はヘルメットを被った。そして戻って行った。
「やれやれ、おっかない女性警部さんだ。三十分も歩くのか、仕方ない、歩きますか」鈴木はバイクが走り去った雑木林に続く小道を見ては溜め息を付いた。
NO-27-51

刻塚-(NO-26)

2009-12-02 02:21:55 | 小説・一刻塚
刻塚-(NO-26)

「ほんとうだ、儂は最低な男だった。公子さん猿渡さん。本家は平野さんを殺したのは自分だと言って、警察に自首すると言ったんだ。それを止めたのは儂だ、儂等七人なんだ。本家は悪くない、皆には迷惑を掛けて済まなかった。この通りだ」。
山田太一は一人一人に頭を下げ、公子に向かって頭を下げたままだった。
すると、表が騒がしくなった。猿渡は来たかと部屋を出た、後に麻代や手島加奈が追って全員が表に出た。
筒井警部補を先頭に鑑識班が入って来た。
それを見た宿泊客が騒いでいたのだ。

「皆さん、この宿の事ではありません。ご存じと思いますが、この下の一時塚を調べに来ただけですから」と、主は客を宥めていた。
そして主は事務所に走り、社の鍵を手に戻って来た。「ではお願いします」と、筒井警部補に渡した。隣には篠ノ井署の増井警部補が浮かない表情を見せていた。
「増井さんお願いします」筒井警部補は増井の顔を立てて鍵を渡した。
納得した様に鍵を手に「さあ、調査に向かう」と、鑑識班を従えて下った。

「どうする、猿渡も来るか」。
「ええ、後から行きます。それと雑木林の中も調べて下さい。何処かに出入り口かなんかある筈ですから」。旅館の主や親戚たちは目を見開いて猿渡を見た。
「それはどう言う事でしょう」主はキョトンとした顔をして訊いた。
「アッ!十年前に地質探査した時に計器に出た放射状の空洞の事ですか」。
「ええ、ともかく発掘すれば何も可も明らかになりますよ。推理通りならね」。
「じゃあ先に行っているから、山田さん、お社の周りの雑木林を切り開く事になりますがいいですね」

「はい、あの一帯は私共の私有地ですからお好きにどうぞ」。
筒井警部補は頷くと額の汗を拭い、南田刑事と小走りに下って行った。
「さて、麻代着替えて俺達も行くか。手島、君も着替えた方がいいぞ」。
「私着替えなんかもって着てないわよ。こんな事になるとは思ってなかったもの」。「手島さん、私のがありますから良かったらどうぞ」。
「そうしろ手島、背丈も体系も麻代に似ているから貸して貰え」。
手島加奈は頷くと麻代と二人は部屋に戻った。間もなく二人は着替えて戻って来た。麻代は猿渡とペアのトレーナーの上下を着て来た。手島加奈はジーンズにピンクの長袖のポロシャツに着替えていた。

「なんか学生の頃に戻ったみたい、若過ぎないかしら」と、手島は照れていた。
「そうだな、おばさんには若いかな」と、猿渡はニヤッと笑った。
「そんな事ないよ、啓太さんと同い年とは思えないもん、若いですよ」。
「エッ・・・じゃあ俺はオジンってか」。麻代は世事の積もりだった。ペロッと舌を出して笑ってごまかした

「猿渡さん、私達も公子を連れて後から行きます。それから、お昼も用意させますから、警察の方々にはそうお伝え下さい」。
こうして猿渡は麻代と手島を連れて一時塚に向かった。宿の駐車場は警察車両で一杯になり、道路に停められ、巡査が五人が警備していた。
社へ通ずる山道に入ろうとすると制止された。
「失礼、ここは立ち入り禁止ですので」と、外の巡査も集まって来た。
手島加奈はジーンズのポケットから警察手帳を出し、頁をめくって掲示した。

「警視庁捜査一係りの手島です。聞いてないんですか」と、ムッとした顔を見せた。「失礼しまた警部殿。元警視正の猿渡さんご夫婦ですね、失礼しました。どうぞ」全くもうっ、ムッとした顔を見せた手島加奈は立ち入り禁止のテープをくくった。
「そう怒るなよ、ここは東京じゃないんだから。それに、その恰好じゃ警部殿には見えないから。アッハハハハ」
「それはそうだけどさ、制止する前にまず訊くのが当たり前でしょ。教育が成ってないからよ。あの巡査長いい年じゃない」。
「そう言うな、ああ言う警官がいるからお前がいるんだろ。警部さんよ」。
「もうっ、はいはい。何言われても二階級も上の警視正さんには逆らえないわね」
この二人、元は親密な間柄だったんだ。女の直感と言うのか、そんな二人の屈託のない会話で麻代は感じて取っていた。そして麻代は猿渡の手を握った。
猿渡は気にもせず、麻代の手を握り返した。そして肩に腕を回すと林の道を進んだ。「猿渡君、まだなの。なんて遠いんだろう」と、手島は足を停めて首に下げたタオルで額の汗を拭った。

「都会育ちには疲れるよな、後五分くらいだよ。頑張れ、直ぐだから」。そう言うと猿渡は左手を延ばし、手島の手を取ると少し上り勾配の道を歩き出した。
手島加奈はポッと頬を染めた、「ああッらくちんらくちん」と、手島は引っ張られる様に踏み固められた雑草の道を歩んだ。
NO-26-49

刻塚-(NO-25)

2009-11-29 00:07:13 | 小説・一刻塚
刻塚-(NO-25)

「そんなのまだ分からないさ、それより馬場達はどれぐらい稼いでいたんだ」
すると手島加奈はバックから書類を出して広げた。そして渡した。
「それに書いてあるけど、貴方に言われた様に都内や大坂のコインショップや骨董業者、ネットのオークションを調べたら出て来る出て来る。
何だか知らないけど大判とか言う小判や二朱銀とか言う古銭を売って、総額で一億二千万円以上稼いでいた様ね。その小判やなんかは彼女が話していた一時塚とか言う所から盗み出したの?・・・」

「うん、らいしよ。所で山田さん、どうです」。
「ええ、怖いもんですね。どうぞ、発掘して下さい」。
「猿渡さん、犯人はどうして馬場と仁科の二人の死体を埋めなかったんです。二人は盗掘していたんだから塚には穴が掘られていた筈ですよね」。
南田刑事は麻代にも分かる様な質問し、冷ややかな目で見られていた。
「お前はいままで何を聞いていたんだ、祟りとか悪霊に取り憑かれたと言う絶好な隠れ蓑があるだろう。だから塚を埋め戻して死体は放置しておいたんだよ。
悪霊が人を殺して埋葬するか」。筒井は呆れた様に苦笑いを浮かべた。
「皆さん、ここでの話は一切他言しないで下さい。先輩、今から塚の発掘をさせてくれませんか。祟りなんか絶対にありませんから。でも埋葬されてる死者に敬意を表して発掘して貰いたいですけどね」。

「分かった。長野県警に頼んで来る」。筒井はそう言い残して南田刑事と出て行った。すると、入れ代わる様に山田刑事と後藤公子が戻って来た。
「親父、俺も警部補と署へ戻るから姉さん頼むよ」と、公子を残して出て行った。
「後藤さん、この家の人間になったら。山田さんもそれを望んでいますよ」。
その猿渡の言葉に宿の主は公子を見詰めて頷いていた。公子は嬉しそうに目に涙を溜めて頷いていた。
「公子、その前に大事な話がある。それを訊いてから返事して欲しい」。
「お父さん、兄の事でしょう。それと母の?・・・」
「公子・・・お前?・・・」と、主は呆然と親戚たちを見渡した。
「私知っていました、あれは小学校六年生の冬に里子で来た時でした。太一おじさんとおばさんが話しているのを聞いてしまったの」。すると、左上座に座る山田太一は声を出せないほど驚いていた。そして両手を着いた。
「その時に思ったの、お母さんを谷に落としてしまって、その責任を感じて私を可愛がってくれてるんだって。私に双子の兄がいたなんてそれまで知りませんでした。

私はお父さんが来てくれるのが嬉しかった。
実の父でさえ一度も会いに来てくれないのに、山田のお父さんは毎年学期毎に決まってお土産をもって会いに来てくれました。
お盆休みやお正月には里子で実の子供の様に扱ってくれた。ここへ帰れる事が嬉しくてたまらなかったんです。
里子は十日って決まっているのに、私だけ外の園児より余計に泊めてくれました。
最初その話を聞いたときはショックでした。母は私と父を捨てて出て行ったと思い込んでいましたから。でも、正直言うと母の顔は覚えていないんです」。
すると、麻代は泣き出してしまった。両手で顔を覆うと猿渡の背中で泣いていた。

「公子さん、わしが、わしがあんたのお母さんを・・・」と、床にひれ伏した。「おじさん、もういいの。おじさんの家のお仏壇に無名の位牌がある事を知っています。毎日お祈りしてくれいていたのも知ってます。もういいんです、それでいいんです」。
猿渡も手島加奈も涙を滲ませていた。山田太一はただ済まないと詫び続けていた。
「確かに平野民子さんを殺害した事は許せる事じゃない、それを庇っていた事も許せる事ではありません。
その為に平野さんの家族を崩壊させて、何人もの人生を狂わせてしまった。それも事実です。殺した者も苦しみ悩みそれなりの20年だったと思います。
こんな事は言いたくないが、法的には時効が成立しています。後藤さんも許してくれると言っています。手島、君は何も訊かなかったな。聞かなかったよな」。
「はい、可哀そうな民話は聞きましたけど」と、涙を拭う手島加奈だった。

「公子、じゃあ私達を許してくれるのか?・・・」
「はい、もうとっくに許していました。太一おじさん、泣かないで。お父さんも」「啓太さん、私来て良かった。こんな感動する事ってないもの」。
「うん、まさかこんな事が過去にあったなんて思いもしなかったよ」。
「猿渡さん、貴方が来てくれなかったら私達はずっと悔いを残したままでした。それに公子とも出会う事もなかったでしょう。
太一さん、これで心の重荷も少しは軽くなった。良かった、本当に良かった」。
NO25-47

刻塚-(NO-24)

2009-11-25 12:34:21 | 小説・一刻塚
刻塚-(NO-24)

「はい、何かあった事は確かです。翌日は馬場さんのマイクロバスで別所まで送って貰ったんですけど、シートの下に泥だらけのシャベルがシートに包まれて隠す様に置いてありました。それから、一週間の予定を終えて五月五日には東京へ戻りました。そして家に帰ったら宮本さんから電話があったと母が言うんです。それで着替えて電話しようとしたら、宮本さんから電話が入ったんです。
宮本さんが言うには、馬場と仁科は只の泥棒だって言うんです。あの晩、塚から小判が何枚も見付かったんだそうです」。

「エ~ッ・・・それは本当かね」老人はムッとした様に睨みつけた。公子は驚いた様に肩を竦めると頷いた。
「お爺さん、公子は言い伝えを守って行ってないんだ。そんな目で見るなよ。怖がっているじゃないか」。
「お父さんいいんです、黙っていた私が悪いんですから」。
「それから、公子さん貴方は馬場達から威されていたんじゃないのか」猿渡は溜め息交じりに見詰めた。すると、公子はポロッと涙を流した。

「はい、その数日後に勤め先に馬場さんが訪ねて来ました。宮本さんから聞いた事は黙っていろと、もし警察に届けたら私も仲間だったと言うからって。
それに、会社にも話すと言われました。それで私は何も言えずに黙っていました。
それであの事故です、八月に両親が交通事故で他界しました。
そしたら、父に二千万の借金がある事が分かったんです。小さな町工場をしていた両親は、この不景気でローン会社から借りていたんです。
それで土地を売って返済しようとしたら、土地も銀行の担保に入っていて、生命保険までがローン会社の担保になっていたんです。
私の貯金なんか知れています、両親のお葬式を出すのがやっとで、債権者から裸同然で家を追い出されてしまいました。
そんな時に馬場さんが現れたんです、黙ってこれを使えと分厚い封筒を私に。でもお断りしました。そしたら、今夜から泊まる所もないんだろうって、正直、私のお財布には数千円しかありませんでした。私は封筒を受け取ってしまいました。
二百万円も入っていました。今後何があっても口をつぐんでいろ、いいな。そう言って帰りました。それから私の前には現れませんでした。
それから私は、そのお金でアパートを借りて今の会社に入りました」。
山田英伸は肩を震わせて泣いていた。

「公子、どうして私の所へ来なかった。ここはお前の家だと言ったじゃないか」。
「お父さん、御免なさい。御免なさい」。そう言って公子は手を合わせていた。
「それは仕方ないよ公子さん、自分がその立場にいたらその金を受け取るさ。じゃあそれっきり馬場と仁科から連絡はないんだね」。猿渡は優しく問い掛けた。
「はい、一度もありません。でもいつ来るかって毎日脅えていました」。
「馬場と仁科はもういません、去年の九月に殺されていました」
「エッ・・・殺されたってどう言うことです。宮本さん達を殺したのは馬場さん達じゃなかったんですか」。公子は愕然と猿渡を見た。
「ええ、実は昨日一時塚から白骨死体が二体発見されましてね。二人が身に付けていた服に免許証が入っていまして。馬場伸雄と仁科孝司の免許証でした。
それから、コンビニの袋がありましてね。中に残されていたレシートから去年の九月二十日に買った物と判明しました」。

「そんな、では宮本さんや浜崎さん達四人を殺したのは誰なんです・・・まさか、私達の誰かですか」公子の驚き様は半端じゃなかった。
すると、そこへ山田刑事が戻って来た。そして公子を見て驚いていた。
「公子さん・・・やっぱり公子さんだろ。親父、どうして?・・・猿渡さん」。
「お姉さんの公子さんですよ」猿渡はそう言うと簡単に説明した。
「そう、去年の五月に来た人達と一緒だったの。でもどうして連絡しなかったの、
親父公子公子って心配していたんだぞ。俺はまだ九才だったけどさ、実の姉さんだと思っていたのに」。と政男は目に一杯に涙を溜めていた。

「ごめんね政男ちゃん、政男ちゃん刑事さんなんだってね。知っていたら相談していた」と、公子は立ち上がると山田刑事に抱き着いて泣き出した。
「政男、部屋へ連れてって休ませてやりなさい。猿渡さんいいですね」。
「ええ、もう用は済みましたから」と、猿渡は頷いた。
「はい、姉さんちょっと待っていて。警部補、これは大谷刑事と二人の白骨死体の解剖所見です」と、山田刑事は書類を渡すと一礼し、公子を連れて出て行った。
「猿渡君、どう言う事なの。馬場信雄と仁科孝司は誰に殺されたの、貴方の事だからもう分かっているんでしょう。教えなさいよ」。まるで恋人の様に話す手島加奈に、麻代は少々焼きもちを抱いた。そして業と猿渡に寄り添ってお茶を入れていた。