小説・半日の花嫁-(NO-7-)
「もう泣くな。お義母さんも要子ももう返って来ないんだ。お兄ちゃんもう泣かないぞ」。
明はそう言うと芳美の肩をグッと掴むと唇をかみ締めていた。
そして喪服に着替えると要子の実家に向かった。
すると、大勢のマスコミが道路を塞ぐ様に集まっていた。それを警備する警官、そんな中を人目を避けるように家に入った。
すると、夕べの洋服のままの父親が祭壇の前に座っていた。
明は声を掛けて隣の部屋へ連れて行った。父親の目は一晩でくぼみ、まるで別人のように面影がなかった。そして布団を敷いて寝かせた。
祭壇に戻ると線香を手向け、義母と新妻の遺影をじっと見詰める明だった。
すると、表が騒がしくなり、浜松医大から司法解剖を終えた要子の遺体が帰って来た。
明は表に出るとグッと涙を堪え、柩に入れられた新妻を迎えた。
すると、両家の菩提寺の住職が二人やって来た。
そして、読経が始まると要子の勤め先だった病院の関係者、患者で要子に世話になったと言う人達が次から次へと、手に数珠を携えて弔問に訪れた。
明は二つ並べられた柩を見ては、要子の遺影を見ながら涌き出る涙を拭おうともせず、喪服を濡らしていた。
そして午後になると私服に黒いネクタイをした矢部刑事が弔問に訪れた。
明は二人の刑事の弔問が済むのを待つと隣の部屋に移った。
「新田さん、こんな時になんですが、お話を伺わせて下さい」。
明は妹が入れてくれたお茶を飲みながら頷いた。
「まず死因からお伝えします。死因は首を骨折した為に因るものでした。ほぼ即死だったと言う事です。それ以外外傷は全くなく、暴行を受けた様子もありませんでした。
それで、昨晩は病院の勤務が終えたのが午後五時、それから同僚の看護婦さん七人と送別会を兼ねてカラオケに行く筈だったと同僚の方は話してくれました。
それがですね、待ち合わせしたカラオケハウスに六時に待ち合わせしたそうなんですが、時間になっても現れないので心配していたと言うんです。
それで、電話を何故しなかったのか伺ったんですが、要子さんは携帯が嫌いで普段は持ち歩く事がなかったからだと言うんです」
「はい、要子はそうでした。僕は仕事柄持ち歩いていますが、出来れば持ちたくないのが本音なんです。
何処へ遊びに行っても電話で呼び出されるのが本質的に嫌いなんです。その影響が要子にもありました。要子は病院の呼び出しのポケベルしか持っていませんでした」。
「そうですか。それでですね、要子さんが遺体で発見された場所は新田さんが好きな場所だったとお聞きしたんですが?・・・」。
「ええ、あの場所は焼津港の夜景が奇麗で要子を連れて良く行きました。僕の友人なら誰でも知ってる場所です。
僕は写真が趣味で夜景をバックに要子を良く撮りました。
その写真を病院の同僚にも見せていたようですから。それに要子の部屋にも、その写真もその場所で僕が撮った写真です」。
明が見上げた壁には、焼津の夜景をバックに要子の写真が大きく引き伸ばして額に入れられて飾られていた。
すると、写真を見詰める明の目からポロッと涙が流れて落ちた。
「美しい女性ですね。それでですね、要子さんが病院の通用口で見掛けられたのが最後でして、その後誰も要子さんを見掛けてないんです。
病院の関係者や患者さんに聞いても、帰りに挨拶を交わしたと言うだけでプッツリ消息を断ってるんです。スラットして背も大きい方が突然消えるなんて事は考えられません。
失礼を承知でお伺います。以前お付き合いしていたような男性はどなたかいませんか」。
「いいえ、知りません。要子は僕が初めてだと聞いています。同級生や友人の話しでも男と付き合った事はないと」。
「ええ、我々もその事はお聞きしました。要子さんは慎重な方で用心深く、今時の女性には珍しいと同僚も高校時代のクラスメートも話してくれました。ではストーカーに狙われていたような事はありませんでしたか」。
「ええ、前に一度だけ変な男に着けられたと言ってましたが、それは偶然隣の家の息子さんだったらしくて笑っていました。それ以外は何も。
要子は人に喜ばれても恨まれるような事はしていません。九月一日の大安の日には結婚式を挙げて新居で暮らす筈だった。秋には助産婦の試験があるからって張り切っていたのに、・・・どうして要子が・・・悔しいです」。と片手で顔を覆った。
刑事もその様に言葉を掛けるタイミングを思い図っていた。
「私達も調べれば調べるほど椎名さん、いえ奥さんは非の打ち所のない方です。病院の医師からも同僚の看護師さん達からも若いのに慕われていますし。
NO-7-14
「もう泣くな。お義母さんも要子ももう返って来ないんだ。お兄ちゃんもう泣かないぞ」。
明はそう言うと芳美の肩をグッと掴むと唇をかみ締めていた。
そして喪服に着替えると要子の実家に向かった。
すると、大勢のマスコミが道路を塞ぐ様に集まっていた。それを警備する警官、そんな中を人目を避けるように家に入った。
すると、夕べの洋服のままの父親が祭壇の前に座っていた。
明は声を掛けて隣の部屋へ連れて行った。父親の目は一晩でくぼみ、まるで別人のように面影がなかった。そして布団を敷いて寝かせた。
祭壇に戻ると線香を手向け、義母と新妻の遺影をじっと見詰める明だった。
すると、表が騒がしくなり、浜松医大から司法解剖を終えた要子の遺体が帰って来た。
明は表に出るとグッと涙を堪え、柩に入れられた新妻を迎えた。
すると、両家の菩提寺の住職が二人やって来た。
そして、読経が始まると要子の勤め先だった病院の関係者、患者で要子に世話になったと言う人達が次から次へと、手に数珠を携えて弔問に訪れた。
明は二つ並べられた柩を見ては、要子の遺影を見ながら涌き出る涙を拭おうともせず、喪服を濡らしていた。
そして午後になると私服に黒いネクタイをした矢部刑事が弔問に訪れた。
明は二人の刑事の弔問が済むのを待つと隣の部屋に移った。
「新田さん、こんな時になんですが、お話を伺わせて下さい」。
明は妹が入れてくれたお茶を飲みながら頷いた。
「まず死因からお伝えします。死因は首を骨折した為に因るものでした。ほぼ即死だったと言う事です。それ以外外傷は全くなく、暴行を受けた様子もありませんでした。
それで、昨晩は病院の勤務が終えたのが午後五時、それから同僚の看護婦さん七人と送別会を兼ねてカラオケに行く筈だったと同僚の方は話してくれました。
それがですね、待ち合わせしたカラオケハウスに六時に待ち合わせしたそうなんですが、時間になっても現れないので心配していたと言うんです。
それで、電話を何故しなかったのか伺ったんですが、要子さんは携帯が嫌いで普段は持ち歩く事がなかったからだと言うんです」
「はい、要子はそうでした。僕は仕事柄持ち歩いていますが、出来れば持ちたくないのが本音なんです。
何処へ遊びに行っても電話で呼び出されるのが本質的に嫌いなんです。その影響が要子にもありました。要子は病院の呼び出しのポケベルしか持っていませんでした」。
「そうですか。それでですね、要子さんが遺体で発見された場所は新田さんが好きな場所だったとお聞きしたんですが?・・・」。
「ええ、あの場所は焼津港の夜景が奇麗で要子を連れて良く行きました。僕の友人なら誰でも知ってる場所です。
僕は写真が趣味で夜景をバックに要子を良く撮りました。
その写真を病院の同僚にも見せていたようですから。それに要子の部屋にも、その写真もその場所で僕が撮った写真です」。
明が見上げた壁には、焼津の夜景をバックに要子の写真が大きく引き伸ばして額に入れられて飾られていた。
すると、写真を見詰める明の目からポロッと涙が流れて落ちた。
「美しい女性ですね。それでですね、要子さんが病院の通用口で見掛けられたのが最後でして、その後誰も要子さんを見掛けてないんです。
病院の関係者や患者さんに聞いても、帰りに挨拶を交わしたと言うだけでプッツリ消息を断ってるんです。スラットして背も大きい方が突然消えるなんて事は考えられません。
失礼を承知でお伺います。以前お付き合いしていたような男性はどなたかいませんか」。
「いいえ、知りません。要子は僕が初めてだと聞いています。同級生や友人の話しでも男と付き合った事はないと」。
「ええ、我々もその事はお聞きしました。要子さんは慎重な方で用心深く、今時の女性には珍しいと同僚も高校時代のクラスメートも話してくれました。ではストーカーに狙われていたような事はありませんでしたか」。
「ええ、前に一度だけ変な男に着けられたと言ってましたが、それは偶然隣の家の息子さんだったらしくて笑っていました。それ以外は何も。
要子は人に喜ばれても恨まれるような事はしていません。九月一日の大安の日には結婚式を挙げて新居で暮らす筈だった。秋には助産婦の試験があるからって張り切っていたのに、・・・どうして要子が・・・悔しいです」。と片手で顔を覆った。
刑事もその様に言葉を掛けるタイミングを思い図っていた。
「私達も調べれば調べるほど椎名さん、いえ奥さんは非の打ち所のない方です。病院の医師からも同僚の看護師さん達からも若いのに慕われていますし。
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