ふとした事から知り合った横浜の高校生、シゲとヒロミ、バンドを一緒にやり始めて半年以上経ち、3年生の高校生活最後の夏休みに入った。
ウザかった高校生活だけどあともう少しだな悔い残さないように遊ぼうぜ
そうだね、まさか友達と遊ぶなんて想像もしなかったみ!
夏休み中は校内カギがかかるが、警備員がいる訳じゃない、話が通る先生が当番の日なら、部活動とかじゃなくても忍び込めた。
一学期最後の日に、軽音部部室に1番近い非常階段の扉を外から開けられるように針金で細工をしておいた。
夏休みに入りしばらくして、シゲとヒロミは、話の分かる室内楽部メリーゴーランドの顧問の当番の日に、軽音部部室に忍び込めた。
上手く入れたな!アンプもシンセも使い放題だな!
シゲ!アイスとコーラも買って来たよ!
夏休み中数日忍び込み、演奏の練習と作詞作曲を10曲ほどやった。
シゲは、窓から夕焼けを眺めた。
俺さ、この白山高校のこの横浜なのに山やら森が見える景色すげぇ好きだった。初めは学校なんて嫌いだったのによ。
ヒロミも隣に寄って来た。
私も高卒って肩書きが欲しいだけで好きでもなんでもない学校だったけど、この眺め好きになったみ。
ヒロミ初めて会った時窓の外ただずっと見てたよな。一日中。
それしか登校しても思いつかなかった。私何してるんだろう?ってさ。
俺もさ、よく分からない学校生活送っていてさ、でもヒロミと知り合って良かった、変われた。
ところでなんで私直子なのに、ヒロミか教えるみ。なんか話したい気持ちになった。
俺になんか話していいのか?深い事情だろ?
逆にシゲにしか話したくないみ。
私は1歳の時に本当のお母さんと離れて今の親に引き取られたの。お父さんは本当のお父さん。お母さんは血の繋がり無くて嫌われてる。
本当のお母さんは、お父さんの会社の人でお父さんと不倫だった。産まれたのが私。本当のお母さんが付けた名前が裕美。
直子って言うのは今のお母さんが裕美は嫌だからって後から付けた名前。ヒロミって誰にも実際には呼ばれてないの。
今のお母さんはお父さんやお母さんを責めない代わりに私に憎しみをぶつけて、私のご飯作らないとか学費もお小遣いも出さないとかされるの、、、
ヒロミ、、、お前、、、
ヒロミの目から涙が流れた
誰もお前をヒロミって呼ばなくても俺が呼んでやるよ!もうこれ以上苦しむなよ!
シゲ、、、シゲ、好き、、、
シゲは、ヒロミに唇を重ねた。
俺だってヒロミがすげぇ好きだ!
夏休みも終わりに近づき、シゲ達のバンドは横浜市内の高校を廻るハイスクールツアーに入った。
ライブを体育館でやらせてくれる学校を探して交渉するのは、女子メンバーのヒロミと由美だった。
不良っぽいシゲが行くより相手から信用された。
念願のフェリス女学院は厳しく出来なかったが、鎌倉女子や隼人高校、横須賀緑ヶ丘などの私立高校も交渉成功した。
1番難関は自分の白山高校でのライブだった。シゲやヒロミのイメージが良くなく、公式な部活動でもない為に難航して、実現したのは卒業4ヶ月前のクリスマスだった。ライブハウスは敷居の高い学生バンドには、学校か野外のライブが全てだった。
やったな!白山でライブ出来るな!
新曲を変わった環境で作りてえなあ、、、
変わった環境?、、、
次の週末の朝、シゲは愛車ゼファー400を暖気していた。
そこへヒロミも愛車CB125で現れた。
シゲ!1人でどこ行こうとしてるみ?
ヒロミ!よく分かったな!
長野の軽井沢でも行って曲作ろうと思ってさ。
バンドパートナーをまさか置いて行かないよね!
一人旅のつもりだったけどまあいいか、、、
2人は、山梨から清里経由で、11月の冷たい風を切った。
まだ、雪は無いが、初冬の風が吹く旧軽井沢の見晴らし台に着いた。群馬県側の山の景色が雄大だった。
ヒロミが冷たい風で前髪が乱れてしまってさかんに気にして手で直している。
そんな風景を眺めながら、シゲは、メロディが浮かび口ずさんだ。
口ずさんでいるシゲにヒロミが寄りかかった。
軽井沢、、来ちゃったね、、2人で、、、
そうだな、、急に連れてきて、わりぃ、、
旧軽井沢は、旧中山道沿いの土産物や小さな店が集まる観光地。夏はごった返すが、この時期はキャンドルが灯る軽井沢教会以外は人も少ない。
旧軽井沢通りをゆっくり歩き、シゲがツーリングで使うペンションに向かった。
ヒロミ俺と泊まりなんてやばいだろ。部屋別に取ってやるよ。
1人で帰るの嫌だから、ワクワクするみ。
この時期なので2部屋確保は出来た。ただそれでも女の子連れて2人で軽井沢来ちまった事実は同じ。
夕食後、ギターを1人で弾きながら新曲を考えていた。
シゲー!お風呂広くて気持ち良かったみ!
ヒロミがパジャマ姿で部屋に入って来た。
なんだ!ヒロミの部屋は向こうだぞ!
1人寂しいもん!せっかくの軽井沢み!
ベッドに座っているシゲの横にヒロミも座った。
シゲ、、私親からも誰からも愛された事ないから、シゲに愛されたいみ、、、
そんな色っぺー事2人切りで言われると俺少し酒も入ってるし抑えられなくなるぞ?
何にも抑えなくていいよ、、、シゲみたいにベテランじゃないから優しくお願いしたいみ、、、
俺が遊んでる奴だと思ってるのかよ?俺だって、、、初心、、。
ヒロミ、、、!シゲ、、、!
長い夜が明けて、気が付くと2人同じベッドで寝ていた。
ヒロミ、、、!そうだ昨夜俺達ついに、、、
女の子軽井沢まで連れてきて、俺やべぇ奴だな。
高校のうちに体験しちまった。
シゲは、9曲新曲を作り、ヒロミも初めて作詞作曲を1曲して作った。
軽井沢教会のキャンドルを友達のラインを超えた2人は、寄りかかって眺めた。
横浜へ帰り3年生の12月23日、白山高校体育館で初めて自分の学校でライブをした。軽井沢で作った新曲を中心に演奏した。メンバーみんな上手くなった。
終わったあと拍手が続き、俺のこの子を自力でイジメから抜け出させるという目標の達成を実感した。
単なる不良といじめられっ子が、みんなの気持ちをほんの少し力も暴力も権力も使わずに動かした。そんな瞬間だったが、卒業まで3ヶ月が迫った。
父親の事業の失敗で貧困家庭のシゲの家。家を売却一家離散が近づいていた。
ヒロミも新しい勇気を持ち親からの独立を考え初めた。
ヒロミ、卒業後の事なんだけどさ。一緒にまだまだやって行かねえか?嫌じゃなかったらさ。
シゲ、同じ事考えてたよ!偶然だね!偶然じゃないか!この2人だもん!
卒業式の前に見て回らねーか?
えーと、横須賀、横浜、2人で新しい事したい町の候補たくさんあるね!
あんまり不便な場所だとヒロミ嫌だろ?
シゲと一緒が大事だから、便利かどうかは関係ないよ!
という訳で、ひょんなことから、可愛い大切なパートナーが出来ちまった物語は、これで終わり。
何独り言言ってるみ?ご飯出来たよ!
おう!
ねえ、裕美を正式に本名にしたいから、戸籍変えたいから大切なお願いがあるみ。
おう!なんだ?
シゲから言われたいみ。
~完~
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