研究論文(卒業論文)
「視覚障がい者ランナーが伴走者に求める配慮と環境」(抜粋)
川崎医療福祉大学医療技術学部 健康体育学科
藤岩秀斗
Ⅰ.要旨
視覚に障がいのあるランナーの置かれている実態を調査し、ランナーが走行中にどのような情報を集め、配慮を必要としているのかを明らかにする。また、視覚障がい者ランナーを伴走する「伴走者」の走行時の実態を調査し、安全に走行するための配慮と環境について考察する。
調査は2023年10月下旬から11月上旬にかけて実施し、「ももたろうパートナーズ」に所属する視覚障がい者ランナー(男性3名、女性3名)、伴走者(男性7名、女性3名)(いずれも成年)を対象に質問紙及びインタビュー調査を行った。
質問内容は、「視覚障がい者ランナーと伴走者のランニングに関する心情」、「伴走技術」、「視覚障がい者ランナーを取り巻く大会環境」から構成されている。視覚障がいのある人のランニングは、競技やプレーを視覚障がい者ランナーと晴眼者が共同で行う運動・スポーツとされ、視覚障がい者ランナーは晴眼者(伴走者)と伴走ロープを一緒に握って走る競技である。
従って、視覚障がい者ランナーには伴走者がいなければ「走りたいときに走れない」という現状があり視覚障がい者ランナーが大会に参加するには、大会当日だけでなく日常的なランニング練習も必要となる。それを支援するために、関東、関西の首都圏をはじめ、全国各地に視覚障がいのある人と伴走者が一緒に走る練習会が定期的に開催されている。また近年、パラスポーツの認知の向上により、ブラインドマラソンなど視覚障がい者が行なっているスポーツについて理解が深まりつつあり、支援する人達も増加して徐々に活動の程度や幅が広がりつつある。
それにより、視覚障がい者ランナーがマラソン大会に参加できる機会は増加の傾向を示している。運動したいができない、あるいは伴走の存在を知らない視覚障がい者や、伴走を必要としている視覚障がい者ランナー、そして伴走者として協力したいと思っていても具体的な方法、場所などを知らない健常者が多く存在するため、伴走を必要としている視覚障がい者ランナーや伴走者が進んで情報発信をしていくことが伴走の存在を知ってもらう上で大切である。
また、伴走者の中には伴走技術を向上させたいと考える者は多く、基本となる伴走技術を向上させるには「安全に配慮すること」が重要になる。「安全に配慮すること」とは、段差や周りの状態を伝え、道の状態についていち早く理解してもらうことである。また、「安全を伝えること」も、危険のみを伝える伴走より信頼でき、安心することができるため必要である。中には目標タイムを設定して走る視覚障がい者ランナーもいるため、マラソンタイムを意識した走行速度や姿勢や走っているときの癖についてのアドバイスを行えるなどの専門的な知識を持っていることも求められる。
また、伴走技術が高ければよい伴走者というわけではなく、視覚障がい者ランナーは伴走者の人柄も重視する傾向にあった。視覚障がい者ランナーにとって大会会場などの普段の練習とは違う環境で走る場合、様々な不安要素がある。よって、経験豊かな方との情報共有や大会側の理解によって、全員が満足できる大会環境になると考える。
Ⅱ.緒言(略)
Ⅲ.実験方法
⑴調査対象
調査対象は「ももたろうパートナーズ」所属ランナー、視覚障がい者6名(男性3名、女性3名)、伴走者10名(男性7名、女性3名)(いずれも成年)とした。
競技レベルは、いずれも年に数回民間の大会に参加し、完走を目標にする程度。
対象者には承諾を得て実施した。
また、健康体育学科内倫理委員会にて厳正に審査され、受付番号HSS230026として承認された。
⑵調査時期
実施期間は令和5年10月下旬から同年の11月上旬に実施した。
⑶調査形式
形式は視覚障がい者ランナーに対しては対面によるインタビュー調査、伴走者に対しては質問紙によるアンケート調査を行った。
⑷ 調査内容
主な質問内容は、「視覚障がい者ランナーと伴走者のランニングに関する心情」、「伴走技術」、「視覚障がい者ランナーをとりまく大会環境」から構成されている。
Ⅳ.結果(略)
※重要な章ですが表形式が多用されておりブラインドの方には読解が困難だと思われます。長文でもあり略させていただきます。(ホームページ管理者)。
Ⅴ.考察
1.視覚障がい者ランナーと伴走者のランニングに関する心情
視覚障がい者が走り始める、また晴眼者が伴走し始めるきっかけには、両者ともに周りにいる人の影響を受けている場合が多く、周りとのつながりが伴走において重要であることが読み取れた。周りとのつながりといっても、友人関係だけではなく、きっかけは様々であり、大会会場やインターネット等から情報を得る場合もある。
伴走者として協力したいと思っていても具体的な方法、場所などを知る機会が少なく、情報さえ周知できればより多くの伴走者の協力を望める可能性があることも明らかになっている。また、「伴走というものを知らない」という視覚障がい者もいると考える。そこで伴走を必要としている本人、そして伴走を行っている本人が進んで情報発信していくことが伴走の存在を知ってもらうために大切であると考える。
伴走者の中には「見えなくて怖くないのか」、「本当に安心できているのか」といった疑問を持つ者もいた。ランニング中の安心度について不安に思う視覚障がい者ランナーもいると考えていたが、ほとんどの者が「安心している」または「どちらかといえば安心している」と回答し、運動時に伴走者や伴走ロープの存在が大きく安心感を与えていることが分かった。
2.伴走技術
伴走についての伴走者の実態調査から分かるように、伴走力を向上させたいと考えている伴走者は多いが、実際には質問したくとも聞けていない場合が多い。多くの伴走者が障がいの程度やほんとは走ることについてどう感じているのか、どのような伴走者を求めるのかについて聞きたいと感じていた。
伴走者は、注意していることや不安を感じていることとして「会話をすること」や「安全面」、「周りの情報を伝えること」という回答が多かった。また、どのような伴走を求めるかについて視覚障がい者ランナーからは、「状況説明」や「声掛け」についての回答が多く、「安全な伴走」についての記述が多く見られた。
ここから、視覚障がい者ランナー、伴走者ともに「安全な伴走」という点で考えが一致していることからまだまだ不安を感じる場面があることが分かり、不安を感じている視覚障がい者ランナーは比較的走歴が浅いことから、走歴=安心度とも読み取ることができる。
伴走中に伝えるべきこととしては、視覚障がい者ランナーは走歴が浅い方に関しては障害物や段差の有無を、走歴が長い方に関しては曲がるタイミングの指示を求めていることが分かった。一方で伴走者は伴走歴の長さに関わらず、全体を通して障害物や段差、曲がるタイミングについて注意をしていることが分かった。ここから視覚障がい者ランナーは走歴が長くなるにつれて怪我等の危険よりも、大会に向けた曲がるタイミング等のタイムに関する声掛けに意識が強く向いているといえる。
信頼できる伴走者とはどのような伴走者なのか、「一緒に走りたいと思う伴走者がいる」と回答したのは予想より多く、全員がいると回答した。一緒に走りたい伴走者の良さとしては、「安全について」の指示を的確に示してくれることの他に、「一緒に走っていて楽しい」、「会話が続く」という意見があった。そして「楽しい」、「会話が続く」と意見した方はどちらも走歴が長い傾向にあることから、視覚障がい者ランナーは伴走者に求めることとして、「安全→楽しさ」と変化していくことが分かる。
伴走者に対する伴走技術に関する質問について、伴走歴が5年以下の方からは「自身は未熟」といった内容の回答が多く、「満足している」という内容は見られなかった。しかし、それ以上の伴走歴になると「満足している」といった内容が見られ、伴走技術よりも楽しんでもらえるかどうかに重きを置いていることが分かった。ここから、伴走者が一人前になったと感じ、楽しいと感じられるようになるには6年以上の伴走経験が必要であり、また、この伴走者たちの伴走は視覚障がい者ランナーにとっても理想的であるといえる。
3.視覚障がい者ランナーを取り巻く大会環境
大会会場で視覚障がい者ランナーの方が困ったこととして、「トイレ」、「走る順番」、「荷物預け」という回答があった。また、困ったことがあると回答した視覚障がい者ランナーは走歴が短い方で、歴が長い方はいずれも「特になし」という回答だった。ここから、走歴が長い方は困難に対する解決策を持ち合わせていることが推測でき、走歴が長い方から短い方へ共有することで快適に大会へ参加することができるのではと考える。
Ⅵ.結論
伴走者の中には伴走技術を向上させたいと考える者は多く、伴走技術を向上させるには「安全に配慮すること」が重要となる。視覚障がい者ランナーの「安全に配慮すること」とは、段差や周りの状況を伝えることであり、道の状態や小さな段差の指示をすることが必要である。
また、「安全を伝えること」も危険のみを伝える伴走より信頼でき、安心することができるため必要である。そして、伴走技術が高ければ良いというわけではなく、視覚障がい者ランナーは伴走者の人柄も重視する傾向にあった。
そこで、視覚障がい者ランナーと伴走者それぞれが求める性格や技術等を登録しておいて、マッチングするようなものを作ると、満足のいくランニングや、初心者の参入による伴走者の増加につながり、よりよい環境になるのではないかと考える。
以上です
※下線はホームページ管理者による
藤岩秀斗様
長期間に渡る調査、研究、執筆、お疲れ様でした。
ありがとうございました。
ももたろうパートナーズを調査対象としていただいたことに感謝いたします。
得られた貴重な分析と提言を練習や大会の中で活かしていきたいと思います。
また、ホームページ掲載についても快諾していただきありがとうございました。
藤岩様におかれましてもこれからの社会人としての人生の原点となる論文ではないかと思います。
そして、改めまして卒業おめでとうございます。
益々のご活躍をお祈りいたします。
ももたろうパートナーズ一同