星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

黙阿彌オペラ 観劇メモ

2010-09-13 | 観劇メモ(演劇・ダンス系)
観劇日    2010年9月11(土)18:00~21:30
劇場     シアター・ドラマシティ
座席     14列



作/井上ひさし  演出/栗山民也   
主催/こまつ座・ホリプロ

キャスト
五郎蔵:藤原竜也     及川孝之進:北村有起哉
円八:大鷹明良      久次:松田洋治
陳青年:朴勝哲      とら/おみつ:熊谷真実
おせん:内田慈      河竹新七(黙阿彌):吉田鋼太郎


<あらすじ>
劇詩人の新七は、しがないざる売りの五郎蔵と互いに川に身投げ
しようとしたところを、引き止め合う。その足で両国橋西詰にあ
る蕎麦屋「仁八そば」の障子を叩いた二人。家主のとらに身の上
話を聞いてもらい落ち着いた二人は、翌年同日に同じ場所で会お
うと約束する。
一年たった約束の日、仁八そばに、おせんという少女が置き去り
にされていた。とらはお店の切り盛りと、おせんの世話に追われ、
忙しくしている。売れない噺家の三遊亭円八が隙を見て食い逃げ
をしようとするが、ちょうどやってきた新七に止められる。新七
は最近書いた新作芝居が大当たりしたという。あとは五郎蔵を待
つばかりだが、やってきたのは見知らぬ優男、久次であった。久
次は五郎蔵が無実の罪で島送りになり、自分は五郎蔵の弟分だっ
たと語る。とそこに流れ込んできた怪しい貧乏浪人、及川孝之進
は、久次が川に身投げして同情を誘い、人から金をせしめていた、
と暴きだす。久次は騙したのは五郎蔵に罪を着せた者で、つまり
仇討なのだ…と明かす。全員の素性が明らかになったところで、
とらは「おせん株仲間」の結成を言い出す。みんなで少しずつお
金を出し合い、そのお金でおせんを育て、全員の子供として育て
ようという提案であった・・・。
時代が明治に変わり、世の中が移りゆくなか、おせんは成長し、
株仲間の面々もそれぞれ成功をつかんでゆく。しかし新七だけは
その変化に違和感を感じ、ついていけないのであった。そんな折、
新七にオペラを書いてみないかという依頼が舞い込む。果たして
新七はオペラを書くのか・・・。
(公式サイトより引用)



<ご恩送りにホッコリした夜♪>
こまつ座公演ははずかしながらこれが初めて。
なんと井上ひさしさんの生前には全く観ていないっ!
つまり、井上作品はほとんど観ていないということになる。
イヤン、イカン。
あまりにはじゅかしすぎて消え入りそうぅぅぅ・・・。

※私の場合、井上ひさし作品は蜷川演出で観たものがほとんどだ。
たとえば「天保十二年のシェイクスピア」「薮原検校」「表裏源
内蛙合戦」(映像では「道元の冒険」「ムサシ」「ロマンス」等)。

で、やっと、初こまつ座。
キャストの吉田鋼太郎、藤原竜也、北村有起哉の3人は、これまた
蜷川演出の舞台でよくお見かけする面々。
元々は新作「木の上の軍隊」のためにお呼びがかかったメンバー。
その代わりに、と栗山さんが井上さんから託された作品。
「黙阿彌オペラ」は今回の公演で三演目だそうだ。
プログラムの3人の鼎談を読むと、ご本人たちにとっても今回の
舞台は勉強になった、みたいなことが書かれている。
それぐらい意外だった。
まさかこの顔合わせで、これほど笑わされるとは思わなかった。
観劇後に妙にホッコリした気分を味わえたのも新鮮だった。

ものすごくおおざっぱな言い方をすると、1人の捨て子と育ての親
と5人のあしながおじさんの物語、みたいなお話。
(短すぎ!)
場面は最初から最後まで、一軒のそば屋。

男たちが「株仲間」としてつながるという設定がすごく面白かった。
いや、つながっていたのは捨て子だった「おせんちゃん」を通じて
というべきかも。
運のない男たちが、途中から時流に乗ってアレヨアレヨと出世して
いくところは、あまりにうまくいきすぎて、面白いんだけど、反面
居心地の悪さを感じてしまった。
それは・・・経済的な価値観に大きな変化が起きた明治時代初期と、
ちょっとしたアイデアがあれば誰でもすぐにお金持ちになれるかも
しれないという現代の価値観とがあまりにも似ているから。
文明開化という歴史の波に流され、新しい価値に踊らされ、翻弄さ
れていく市井の人間の様子が滑稽で悲しい。
悲しいのにむりやり泣かせない芝居。そこがすごくいい。
むしろ、客席から他人事として見物していると、ばかばかしくて可
笑しくて、大笑いしてしまう。

最後の最後に五郎蔵が言うひとこと。
「振り出しに戻った~!」で、客席からどっと笑いが起きた。
居心地の悪さがとれてホッコリした瞬間だ。
べつに彼らの不幸を望んだわけではないんだけど(笑)、ものすご
く気持ちのいい終わり方だった。
誰かが誰かに命令したり、強要したりすることのない、平等な仲間。
彼らがまた元の温かいつながりにもどっているのが心地いい。
銀行の事業に失敗して何もかもなくしてしまった彼らに、そば打ち
を教えようとするそば屋のおみつさん、素敵だ。
そこに再び新しい捨て子の泣き声が!
その子といっしょに、また新しい夢を見るのかな~、な幕切れ。

劇中に出てきた「ご御送り」という言葉、初めて知った。
すごくいい言葉だと思った。
言葉そのものは知らなかったけれど、これに近いことは私たちも身近
なところで自然に行っているように思う。
それって「人の幸」のようなものかしらん。

誰かから受けたご恩を、次の誰かに伝えてゆく。
人は人とそうやって誰かとつながりを持っていたいものなんだな、と。

それにしても、あの膨大なセリフを全く噛むことなく、正しく美しい
日本語としてちゃんと聴かせてくれた出演者の皆さん、スバラシイ!
タイトルロールにちなんで、歌舞伎の演目も幾つか登場。
劇中でおみつさんが声色で真似ていた台詞は『河内山』だよね。
もちろん、河竹黙阿彌の作。
オペラを書くようにと命ぜられた黙阿彌に、おせんが『三人吉三』の
台詞をオペラの曲で歌って、プレゼンする場面は楽しかった。
西洋のオペラは絶対に書かないと拒否し、その根拠をおせんに説く
黙阿彌に対し、ついにうなだれてしまったおせんちゃんの姿が強く
印象に残っている。
(これが次のステップになるおせんちゃん、スゴイ!)

<キャストについて>
台詞のリズムが違うと体の動きまでこんなに違ってくるんだ~と感心
した吉田鋼太郎さん
最初登場したときはわからなかったほど動きも台詞回しも新鮮だった、
藤原竜也さん
音楽に合わせてリズムを足で表現するところ可愛かった。人情話もな
かなかやるやん!な北村有起哉さん。お声がお父様ソックリ!
芸人さんらしい色気があって、いい感じだった大鷹明良さん
五郎蔵の弟分らしく、熱くて明るいキャラが立っていた松田洋治さん
柳橋芸者から二度の海外経験を経てオペラ歌手、音楽教師の道へ、と
変化を遂げる、一人だけ壮大で聡明なキャラである(笑)おせんを演
じた内田慈さん。似合っていた。
おとら婆ちゃんとおみつの二役を演じた熊谷真実さん、うまいなあ!
お婆ちゃんは「天保十二年~」の魔女役を思い出させてくれた♪
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8 コメント

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立派なメモですね (とみ(風知草))
2010-09-13 22:58:33
>ムンパリさま
へろへろで、ツイッター風メモのみしか書けませんでした。あるとき、急に大事なことわかることもありますので、気を抜かないでおきます。
おせんちゃんが綿入れを買ってもらって喜ぶだけでなく、古着屋さん、煮物屋さんに思いを馳せる台詞がワタクシ的には一番泣けました。
返信する
とみさま♪ (ムンパリ)
2010-09-14 12:12:26
いえいえ、とみさまのコンパクトで無駄のない、
それでいて的を射ている切れ味のいい(あ~んど
漢字の多い)文章は私の憧れです。

今回も全く思いつくまま、まとまりなく・・・。
そうですね、なんということのない言葉のなかに
忘れてはいけない日本のこころ、というか、
日本の美しい風景が織り込まれていて、ハッとしたり、
キュウウンとなったり。
いろんなことを思い出させていただきました。
心の按摩と言うてはりましたが、精神のリハビリ
してもらった気持ちです。感謝~♪
返信する
ご恩送り♪ (かずりん)
2010-09-14 22:29:20
『ご恩送り』・・・いい言葉ですよね・・。
井上さんの脚本には、なんでもないんだけど・・
笑わされてるうちにジーンとくる
素敵なセリフがとっても多いですよね。
ムンパリさん、こまつ座初めてだったのですかっ!?
いいでしょ~~!!
私もこないだまで見てなかったんですが
ハマリましたよ!!
今では『こまつ座』公演・・・とっても
お気に入りなんです~♪
返信する
かずりんさま♪ (ムンパリ)
2010-09-15 02:03:39
初ナマこまつ座でしたっ!
もちろん、かなり以前から知ってはいたんだけど。
お芝居の好みって変わるのかなあ(苦笑)。

言葉を大事にするお芝居、ほんとにいい舞台でした。
出てくる言葉、出てくる言葉が作為的じゃないのに、
笑いながら泣けるような。
初演は台本が間に合わなくて幕が開かなかったという
けれど、これを産むための遅筆ならよかったのかも~(笑)。

『ご恩送り』。やっぱりこれだよね~♪ しみじみ~。
返信する
意外!! ()
2010-09-16 00:33:37
ムンパリさんが、初こまつ座だったとは!
もっと観てるイメージがあったよぉ。
っと言ってる私も厳密に言えば以前に、
「太鼓たたいて笛ふいて」しか観てないけどね。(笑)

>1人の捨て子と育ての親と5人のあしながおじさんの物語
簡潔&的確!(笑)
まさにその通りだね。
そのきっかけが、自殺に失敗した二人の男と、
偶然見つけた寂れた蕎麦屋の女主人って言うのもなんだか不思議な縁でした。

>「振り出しに戻った~!」
そうそう!
このセリフはホっとしたと言うか、
笑っちゃいましたよぉ。
なんか昔の彼らに戻ったようで嬉しく感じたのかも。

キャスト全員が魅力的で、素敵なお芝居でした♪
返信する
麗さま♪ (ムンパリ)
2010-09-16 00:59:03
そうそう、「太鼓たたいて笛ふいて」に行きたかったのに
行きそびれて・・・それで今まで。お初でござりまする。

ギャグじゃない言葉で笑わせるって難しいのに、
微妙な間だったり、言葉の使い方のズレだったり、
言葉に体の動きが伴ったりして、自然な笑いの見本
のようなお芝居だったと思います。

あっ、あの「百両」、思い出させてくれてありがとう(笑)。
スッキリ、スッキリ!!
あの楽しい「百両」コーラスを見て、こっちまで
ニマニマしてきちゃいました。

そうそう、役者さん一人一人がみんな行き届いている
いいお芝居でしたね。今回は行けてホントよかった~♪
返信する
こまつ「座」だから? (スキップ)
2010-09-18 10:51:34
ムンパリさま
「黙阿彌オペラ」とても楽しく見応えのある
舞台でしたね。
井上ひさしさんのエッセンスがたっぷり
詰まった戯曲に、力のある役者さん揃いて
3時間超があっという間でした。
「御恩送り」は以前に、井上さんが何かに
書いていらしたのを言葉として読んだことが
あるのですが、今回おせんちゃんがあんなふうに
語るのを聞いて、すごく心にしみました。
ほんとにいい言葉ですよね。

ところでムンパリさん。
今年は「座」のつく劇場以外にはいらっしゃらない
のではなかったでしたか?
特に9月は松竹座あたりでお忙しいでしょうに。
あ、こまつ「座」だからいいの?(笑)
返信する
スキップさま♪ (ムンパリ)
2010-09-19 09:15:21
今月は松竹座でいっぱいいっぱいなのに、行きたい舞台
だらけで、南座とこまつ座(うまい!笑)だけ追加しました。
あとは新歌舞伎座にも行きたいけど・・・。
ハードワーク月間でもありまして、3連休じゃないです。
(そういえば、2年前の蝉しぐれの時もM.O.Pの公演だけは
行ったんですよ。それはそれ。これはこれ。笑)

スキップさんの感想を読ませていただき、ご恩送りの
意味の受け取り間違いに気づきました。ぐすん。
でも、それも自分の感想なので、ま、ええやんと(泣)。
あのシーンを見ながら、同時に素敵な言葉に反応して、
自分で「ご恩送り」のイメージをどんどん広げていった
ことを思い出しました。
人は人と必ずどこかでつながっているのですね♪♪

他にもすてきな言葉をいっぱい浴びられて、いいお芝居を
見られてよかったです。井上さんの分厚い本は読めないけど、
舞台はこれからもなるべく見たいと思います。
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