観劇日 2010年10月3日(日)13:00~15:55
(2幕・休憩1回)
劇場 シアター・ドラマシティ
座席 13列
長塚圭史、帰国後初の翻訳作品。
夫と娘と暮らす主人公の女性が「旅」に出ることで自分自身に
変化が起き、それが家族関係の変化にもつながってゆく、とい
うようなお話。
ものすごくアコースティックなお芝居だった。
効果音や衝撃音に頼らない、生身の人間の体だけで奏でている
ような静かでシンプルな舞台。
私たち観客は目の前の奏者(=演者)を信じるしかなかった。
・・・・・・信じてよかった♪
作/サイモン・スティーヴンス 訳/薛 珠麗
演出/長塚圭史
キャスト
小林聡美:ハーパー・リーガン
山崎一:セス(ハーパーの夫)/ジェームス
美波:サラ(ハーパーの娘)/看護師
大河内浩:エルウッド(ハーパーの上司)/ダンカン
福田転球:ミッキー
間宮祥太朗:トビアス/マヘーシュ
木野花:アリソン(ハーパーの母)
<あらすじ>
ハーパー・リーガンは父親の危篤の知らせを受け、上司に仕事
を休ませて欲しいと懇願する。しかし、その願いはいとも簡単
に拒絶されてしまう。その瞬間、彼女の心の「何か」にスイッ
チが入った。
息を呑むほどに明るい秋のある晩、ハーパー・リーガンは家庭
を、夫をそして娘を置いたまま、あてもなくひとり歩き続ける。
出て行くことを誰にも告げずに。行く先は誰にも知らせずに。
それまでに築いた全てを賭けて自分と向き合う旅に出て、道に
迷いながら進んだ2日2晩。その2日の間、様々な人と出会い、ほ
つれた糸を解くつもりが余計に絡ませてしまったり、あるいは
あらたな「傷」を増やしたりしながら、彼女の旅は続く。家族、
愛、人生の迷い、そして女としての自分を見つめながら・・・。
そして、彼女は「旅」の終着駅である「母」と会い、そこで彼
女はこれまでの人生にこびりついてしまった垢を落とす。
そして、彼女は自分の元あるべき場所へ戻ってゆく。
(公式サイトより引用)
「マイ・ロックンロール・スター」以来、パルコ・プロデュー
スによる長塚さんの舞台は翻訳劇、オリジナル劇ともに全作品
を見ている。(「ウィー・トーマス」は再演のみ)。
今回は狂気とか衝撃のビジュアルといった「らしい」要素をす
べてはぎとった脚本、演出で、正直いってとまどってしまった。
それでも「家族」がテーマになっていることに変わりはなく、
最後の最後に涙があふれたのは『ラストショウ』や『SISTERS』
で経験したことと同じ。
生きないよりは生きたほうがずっといいことを信じさせてくれ
るラストシーンに力がわく。
とにかく長塚圭史という人の「いま」が確認できた観劇だった。
とてもいい脚本だし、こういう作品も作れる実力があることを
あらためて思い知った。
と同時に、こういう作品でなくてもいいんじゃないかと思った。
ワガママを言わせてもらうなら、このひとには、行こうと思っ
てもなかなか行けない場所まで連れていってほしい。
私自身の心の奥の奥をムギュウ~と掴んで離さないマジックで
マリアナ海溝よりも深い場所まで旅させてほしい。
・・・・・・あ~、書いてスッとした!
ついでに、これからも地方公演は絶対に続けてほしいと思う。
大阪・千秋楽ではカーテンコールに長塚さんも登場♪
小林さんが額に手をかざし探す仕草をすると、後方扉から現れ、
通路を通って舞台に駆け上がった。
客席に向かっておじぎをした後、体は役者さんたちのほうに向
いて手を差し出し、そちらに拍手を促している。
紺系のチェックの長袖シャツにデニム、ブルーのロングスカー
フを左肩で交差させたいでたち。もう一度現れた時は出演者に
場を譲ってすぐに引っ込んだ。終始、遠慮がちで照れ笑いだっ
た圭史さん♪
会場は大きな拍手に包まれ、観客の何割かはスタオベも!
私も心から拍手を贈った。
千秋楽は15:35の終了予定が15:55になった。
あとになったけれど、印象に残ったシーンなどを以下に。
●ミニマルな舞台装置
イントロで出てくる壁がハーパーの閉塞感を表現している感じ。
壁に押されてポンと前へ踏み出す動作も今思えば象徴的だった。
ハーパーの自宅以外の場所はその壁が使われていたように思う。
たとえば、オフィス。運河沿いの堤防。BARなど。
場面転換にストーリーと裏腹なポップな音楽が流れ、モヤモヤ
沈みがちな頭の切り替えに役立った。
アリソン宅の部屋に差し込む夕日の色が胸にしみた。
●ラストシーンのガーデンテーブル
全体的にそっけなかった舞台セットなのに、四方に囲まれた壁
を天井から引っ張り上げてゆくと、色彩が目に飛び込んできた。
旅から家に戻った翌朝、ガーデンの手入れをしているハーパー。
ガーデンに置いたテーブルには手作りの朝食が♪
夫に旅の間の出来事を包み隠さず話した後、「家に帰ってきて
よかった」と添えた。そこへ娘が起きてくる。
エプロン姿のハーパー、スーツではなくデニムをはいたセス、
赤いパジャマのサラ。ありふれた家族の風景が新鮮に見えた。
英国風の薄いトーストにハーパーがゆったりとバターを塗って
いるシーンが特に印象に残っている。
この芝居の中で「ニオイ」という言葉が忌み嫌われるニュアン
スで頻繁に出てきたけれど、ここでは幸せと同義語なのだと
わかった。
朝食の匂いが漂ってきそうな風景の中で、ハーパーの夫のセス
が娘の匂いについて語る台詞があった。
「娘の首のあたりの匂いが好き」。
(もう記憶が相当あやふやだが)その言葉に続けて「キスをし
た時にからみつく髪がいい」とかいうような言葉を、ハーパー
がセスの声に重ねて言った時に、なぜだか熱い涙がぶわぁ~っ
とあふれた。
かつて3人が幸せのピークにいた頃のセスの口癖だったろうか。
サラが無償の愛を二人から受けていた証しでもある言葉。
パパとママに何が起こったの?というように目をこするサラが
可愛らしかった。
iPodもない、TVやラジオ、インターネットもない。ただ家族の
会話だけがあるテーブル。静かだけれど満ち足りている時間。
作品全体のこの静けさは、実はここにつながるんじゃないかと
思った。他の何かに頼らない、逃げない、会話だけがある舞台。
このラストシーンのような家族の朝食風景、一家族にいったい
何度訪れるのだろうか。私にはもう味わえないことは確実。
ついでにいえば、母が亡くなった時にお墓参りを兼ねて、自分
のルーツをたどる旅をした経験もある。
どうあがいても、嫌な面も含めて、自分はやっぱり母に似てい
ることを再認識したことを思い出す。
長くなったので、キャストのほうへ。
●小林聡美さん
NODA・MAPの「オイル」、小泉今日子さんと共演の「おかしな
2人」を観て以来、小林さんを観るのはまだ3回目。
ハーパーはどこにでもいるごく普通の41歳の女性。そんな人が、
ほんの少しだけ日常から離れた経験をする、という役どころが
妙にナットクできる役者さんだと思った。
主演だけれど地味な役。本当はむずかしいんじゃないだろうか。
ほんの少しだけ日常から離れた経験・・・若い男の子に話しかけ
たり、家族に黙って病気の父に会いに行ったり、父と離婚した母
親と言い争いをしたり、BARで絡まれた男に怪我をさせ、その男
の上着を着たまま去ったり、出会い系サイトで知り合った男性と
すぐに寝たり。
会社のこと。親のこと。夫のこと。娘のこと。ハーパーがぶつか
る問題は、仕事をしている既婚女性なら種類は違っても誰もが抱
えていそうな爆弾だと思う。
ありふれたようで普通は越えない一線を踏み越えたことがきっか
けで、それまで囚われていたことから解き放たれたのか?
舞台に重くたれ込めていた空気が、ある瞬間から軽くなる。
母のこと、夫のこと、娘のこと。それまで目をそむけていた問題
ときちんと向き合うようになったハーパー。その前後の違いがこ
ちらにも伝わってきた。
希望の芽生えを感じさせるラストシーンのハーパーの表情、動作、
台詞が特によかった。
●山崎一さん
建築家だけど、仕事はしていない(できない)。
昔、幼児を撮影し、その画像をパソコンに取り込んでいたという
理由で逮捕され、司法取引で認めたために就職もできなくなった
セス・リーガン。
どこか現実味がなく、つねに夢をみているような夫の役を演じて
いて、それがちょっと心くすぐる素敵さだった(笑)。
2役目のジェームスは、ハーパーにとって出会い系サイトのイメ
ージを覆す男として登場したのが面白かった。ホテルでハーパー
のためにダンスをし、歌も歌う男を優しく魅力的に演じていた。
ハーパーが夫に打ち明けたときの台詞、「意外なことに優しく抱
きしめてくれたの」が印象的。
(しかし、夫にここまで話すのはどうよ!とも思うけど。笑)
●美波さん
ハーパーの娘であり、頭はいいのだが、母親には反発してしまう。
母親との会話中にもiPodを聴いているという、いまどきの女の子
サラの繊細さをうまく演じていた。
アリソンとハーパーの母娘の摩擦関係が、そのままハーパーとサ
ラの関係でもあるという、ある意味、母親ハーパーの鏡ともいえ
る存在。
ハーパーが帰宅したときに、祖父の死について尋ねる代わりに、
母親の仕事と生活費、自分の学費の心配だけしているのにはビッ
クリ。ていうか、娘としてふるまう術をサラはハーパーから学べ
なかったんだなとナットク。娘は母を写す鏡だから。
●木野花さん
反発する娘のハーパーに手を焼いている母親アリソン役。
自分の愛情が娘に伝わらないところがかなり切ない。
とにかく夫が司法取引で幼児犯罪を認めたときに味方になってく
れなかったことが決定的な溝になったようだ。
元夫であり、娘の父の真実を正しく伝えようとするときの母親と
しての苦悩がリアルににじみ出ていたように思う。
さらに、母にも自分の生活があることをきちんと見せることで、
ハーパーも新たな一歩を踏み出せたのかな。
●大河内浩さん
今回のキャスト中、一番イギリス人っぽく見えた。嫌な社長は
ちょっとコミカルな味付けでハーパーと対照的な感じがした。
「もし行くのなら、もう帰ってくるべきではないと思うね」。
長年勤続している社員にここまで言うかな。セクハラ疑惑社長
のこの言葉がハーパーの行動のきっかけというのは大いに納得。
一方、アリソンの夫のときはいい人キャラとして演じ分けされ
ていた。
●福田転球さん
こんなごく普通の役で普通の台詞を話す転球さんは初めて。
英国人ジャーナリストよ。しかも標準語!(笑)
いやいや、タバコに火つける仕草なんてえらいカッコいいんで、
オペラグラス越しに視線釘づけでしたわ。
バーで朝から飲んでる者どうし、ハーパーに絡んでいき、ネット
のせいで仕事が減ったとか不満をぶちぶち。悪い酒。
あげくにハーパーにジャケットをとられ、グラスで顔を傷つけら
れ・・・。あれ?悪いのはミッキーじゃなくハーパーやん!(笑)
転球さんの今後の行方に注目。
●間宮祥太朗さん
若い役者さんやメジャー未満の役者さんを発掘し、魅力を引き出
すことも、長塚さんの素晴らしい才能の一つだと思う。
この作品の間宮くんも、美しい青年トビアスと、ピュアで優しい
マヘージュ♪ 若者2役をとても丁寧に演じていたと思う。
今後の活躍が楽しみな役者さんだ。
(2幕・休憩1回)
劇場 シアター・ドラマシティ
座席 13列
長塚圭史、帰国後初の翻訳作品。
夫と娘と暮らす主人公の女性が「旅」に出ることで自分自身に
変化が起き、それが家族関係の変化にもつながってゆく、とい
うようなお話。
ものすごくアコースティックなお芝居だった。
効果音や衝撃音に頼らない、生身の人間の体だけで奏でている
ような静かでシンプルな舞台。
私たち観客は目の前の奏者(=演者)を信じるしかなかった。
・・・・・・信じてよかった♪
作/サイモン・スティーヴンス 訳/薛 珠麗
演出/長塚圭史
キャスト
小林聡美:ハーパー・リーガン
山崎一:セス(ハーパーの夫)/ジェームス
美波:サラ(ハーパーの娘)/看護師
大河内浩:エルウッド(ハーパーの上司)/ダンカン
福田転球:ミッキー
間宮祥太朗:トビアス/マヘーシュ
木野花:アリソン(ハーパーの母)
<あらすじ>
ハーパー・リーガンは父親の危篤の知らせを受け、上司に仕事
を休ませて欲しいと懇願する。しかし、その願いはいとも簡単
に拒絶されてしまう。その瞬間、彼女の心の「何か」にスイッ
チが入った。
息を呑むほどに明るい秋のある晩、ハーパー・リーガンは家庭
を、夫をそして娘を置いたまま、あてもなくひとり歩き続ける。
出て行くことを誰にも告げずに。行く先は誰にも知らせずに。
それまでに築いた全てを賭けて自分と向き合う旅に出て、道に
迷いながら進んだ2日2晩。その2日の間、様々な人と出会い、ほ
つれた糸を解くつもりが余計に絡ませてしまったり、あるいは
あらたな「傷」を増やしたりしながら、彼女の旅は続く。家族、
愛、人生の迷い、そして女としての自分を見つめながら・・・。
そして、彼女は「旅」の終着駅である「母」と会い、そこで彼
女はこれまでの人生にこびりついてしまった垢を落とす。
そして、彼女は自分の元あるべき場所へ戻ってゆく。
(公式サイトより引用)
「マイ・ロックンロール・スター」以来、パルコ・プロデュー
スによる長塚さんの舞台は翻訳劇、オリジナル劇ともに全作品
を見ている。(「ウィー・トーマス」は再演のみ)。
今回は狂気とか衝撃のビジュアルといった「らしい」要素をす
べてはぎとった脚本、演出で、正直いってとまどってしまった。
それでも「家族」がテーマになっていることに変わりはなく、
最後の最後に涙があふれたのは『ラストショウ』や『SISTERS』
で経験したことと同じ。
生きないよりは生きたほうがずっといいことを信じさせてくれ
るラストシーンに力がわく。
とにかく長塚圭史という人の「いま」が確認できた観劇だった。
とてもいい脚本だし、こういう作品も作れる実力があることを
あらためて思い知った。
と同時に、こういう作品でなくてもいいんじゃないかと思った。
ワガママを言わせてもらうなら、このひとには、行こうと思っ
てもなかなか行けない場所まで連れていってほしい。
私自身の心の奥の奥をムギュウ~と掴んで離さないマジックで
マリアナ海溝よりも深い場所まで旅させてほしい。
・・・・・・あ~、書いてスッとした!
ついでに、これからも地方公演は絶対に続けてほしいと思う。
大阪・千秋楽ではカーテンコールに長塚さんも登場♪
小林さんが額に手をかざし探す仕草をすると、後方扉から現れ、
通路を通って舞台に駆け上がった。
客席に向かっておじぎをした後、体は役者さんたちのほうに向
いて手を差し出し、そちらに拍手を促している。
紺系のチェックの長袖シャツにデニム、ブルーのロングスカー
フを左肩で交差させたいでたち。もう一度現れた時は出演者に
場を譲ってすぐに引っ込んだ。終始、遠慮がちで照れ笑いだっ
た圭史さん♪
会場は大きな拍手に包まれ、観客の何割かはスタオベも!
私も心から拍手を贈った。
千秋楽は15:35の終了予定が15:55になった。
あとになったけれど、印象に残ったシーンなどを以下に。
●ミニマルな舞台装置
イントロで出てくる壁がハーパーの閉塞感を表現している感じ。
壁に押されてポンと前へ踏み出す動作も今思えば象徴的だった。
ハーパーの自宅以外の場所はその壁が使われていたように思う。
たとえば、オフィス。運河沿いの堤防。BARなど。
場面転換にストーリーと裏腹なポップな音楽が流れ、モヤモヤ
沈みがちな頭の切り替えに役立った。
アリソン宅の部屋に差し込む夕日の色が胸にしみた。
●ラストシーンのガーデンテーブル
全体的にそっけなかった舞台セットなのに、四方に囲まれた壁
を天井から引っ張り上げてゆくと、色彩が目に飛び込んできた。
旅から家に戻った翌朝、ガーデンの手入れをしているハーパー。
ガーデンに置いたテーブルには手作りの朝食が♪
夫に旅の間の出来事を包み隠さず話した後、「家に帰ってきて
よかった」と添えた。そこへ娘が起きてくる。
エプロン姿のハーパー、スーツではなくデニムをはいたセス、
赤いパジャマのサラ。ありふれた家族の風景が新鮮に見えた。
英国風の薄いトーストにハーパーがゆったりとバターを塗って
いるシーンが特に印象に残っている。
この芝居の中で「ニオイ」という言葉が忌み嫌われるニュアン
スで頻繁に出てきたけれど、ここでは幸せと同義語なのだと
わかった。
朝食の匂いが漂ってきそうな風景の中で、ハーパーの夫のセス
が娘の匂いについて語る台詞があった。
「娘の首のあたりの匂いが好き」。
(もう記憶が相当あやふやだが)その言葉に続けて「キスをし
た時にからみつく髪がいい」とかいうような言葉を、ハーパー
がセスの声に重ねて言った時に、なぜだか熱い涙がぶわぁ~っ
とあふれた。
かつて3人が幸せのピークにいた頃のセスの口癖だったろうか。
サラが無償の愛を二人から受けていた証しでもある言葉。
パパとママに何が起こったの?というように目をこするサラが
可愛らしかった。
iPodもない、TVやラジオ、インターネットもない。ただ家族の
会話だけがあるテーブル。静かだけれど満ち足りている時間。
作品全体のこの静けさは、実はここにつながるんじゃないかと
思った。他の何かに頼らない、逃げない、会話だけがある舞台。
このラストシーンのような家族の朝食風景、一家族にいったい
何度訪れるのだろうか。私にはもう味わえないことは確実。
ついでにいえば、母が亡くなった時にお墓参りを兼ねて、自分
のルーツをたどる旅をした経験もある。
どうあがいても、嫌な面も含めて、自分はやっぱり母に似てい
ることを再認識したことを思い出す。
長くなったので、キャストのほうへ。
●小林聡美さん
NODA・MAPの「オイル」、小泉今日子さんと共演の「おかしな
2人」を観て以来、小林さんを観るのはまだ3回目。
ハーパーはどこにでもいるごく普通の41歳の女性。そんな人が、
ほんの少しだけ日常から離れた経験をする、という役どころが
妙にナットクできる役者さんだと思った。
主演だけれど地味な役。本当はむずかしいんじゃないだろうか。
ほんの少しだけ日常から離れた経験・・・若い男の子に話しかけ
たり、家族に黙って病気の父に会いに行ったり、父と離婚した母
親と言い争いをしたり、BARで絡まれた男に怪我をさせ、その男
の上着を着たまま去ったり、出会い系サイトで知り合った男性と
すぐに寝たり。
会社のこと。親のこと。夫のこと。娘のこと。ハーパーがぶつか
る問題は、仕事をしている既婚女性なら種類は違っても誰もが抱
えていそうな爆弾だと思う。
ありふれたようで普通は越えない一線を踏み越えたことがきっか
けで、それまで囚われていたことから解き放たれたのか?
舞台に重くたれ込めていた空気が、ある瞬間から軽くなる。
母のこと、夫のこと、娘のこと。それまで目をそむけていた問題
ときちんと向き合うようになったハーパー。その前後の違いがこ
ちらにも伝わってきた。
希望の芽生えを感じさせるラストシーンのハーパーの表情、動作、
台詞が特によかった。
●山崎一さん
建築家だけど、仕事はしていない(できない)。
昔、幼児を撮影し、その画像をパソコンに取り込んでいたという
理由で逮捕され、司法取引で認めたために就職もできなくなった
セス・リーガン。
どこか現実味がなく、つねに夢をみているような夫の役を演じて
いて、それがちょっと心くすぐる素敵さだった(笑)。
2役目のジェームスは、ハーパーにとって出会い系サイトのイメ
ージを覆す男として登場したのが面白かった。ホテルでハーパー
のためにダンスをし、歌も歌う男を優しく魅力的に演じていた。
ハーパーが夫に打ち明けたときの台詞、「意外なことに優しく抱
きしめてくれたの」が印象的。
(しかし、夫にここまで話すのはどうよ!とも思うけど。笑)
●美波さん
ハーパーの娘であり、頭はいいのだが、母親には反発してしまう。
母親との会話中にもiPodを聴いているという、いまどきの女の子
サラの繊細さをうまく演じていた。
アリソンとハーパーの母娘の摩擦関係が、そのままハーパーとサ
ラの関係でもあるという、ある意味、母親ハーパーの鏡ともいえ
る存在。
ハーパーが帰宅したときに、祖父の死について尋ねる代わりに、
母親の仕事と生活費、自分の学費の心配だけしているのにはビッ
クリ。ていうか、娘としてふるまう術をサラはハーパーから学べ
なかったんだなとナットク。娘は母を写す鏡だから。
●木野花さん
反発する娘のハーパーに手を焼いている母親アリソン役。
自分の愛情が娘に伝わらないところがかなり切ない。
とにかく夫が司法取引で幼児犯罪を認めたときに味方になってく
れなかったことが決定的な溝になったようだ。
元夫であり、娘の父の真実を正しく伝えようとするときの母親と
しての苦悩がリアルににじみ出ていたように思う。
さらに、母にも自分の生活があることをきちんと見せることで、
ハーパーも新たな一歩を踏み出せたのかな。
●大河内浩さん
今回のキャスト中、一番イギリス人っぽく見えた。嫌な社長は
ちょっとコミカルな味付けでハーパーと対照的な感じがした。
「もし行くのなら、もう帰ってくるべきではないと思うね」。
長年勤続している社員にここまで言うかな。セクハラ疑惑社長
のこの言葉がハーパーの行動のきっかけというのは大いに納得。
一方、アリソンの夫のときはいい人キャラとして演じ分けされ
ていた。
●福田転球さん
こんなごく普通の役で普通の台詞を話す転球さんは初めて。
英国人ジャーナリストよ。しかも標準語!(笑)
いやいや、タバコに火つける仕草なんてえらいカッコいいんで、
オペラグラス越しに視線釘づけでしたわ。
バーで朝から飲んでる者どうし、ハーパーに絡んでいき、ネット
のせいで仕事が減ったとか不満をぶちぶち。悪い酒。
あげくにハーパーにジャケットをとられ、グラスで顔を傷つけら
れ・・・。あれ?悪いのはミッキーじゃなくハーパーやん!(笑)
転球さんの今後の行方に注目。
●間宮祥太朗さん
若い役者さんやメジャー未満の役者さんを発掘し、魅力を引き出
すことも、長塚さんの素晴らしい才能の一つだと思う。
この作品の間宮くんも、美しい青年トビアスと、ピュアで優しい
マヘージュ♪ 若者2役をとても丁寧に演じていたと思う。
今後の活躍が楽しみな役者さんだ。
突然のコメント失礼いたします。
せいべえと申します。
名古屋にて映画『宮城野』を知り、鑑賞して作品の良さにとても感動した一人です。
ネットにて『宮城野』についていろいろと検索していたらムンパリさんの元に辿り着いて、『宮城野』に対する正確、的確な記事にすっかり見入ってしまい、コメントいたしました。
私は昔から時代劇が大好きでよく観てました(映画が中心ですが)
名古屋で『宮城野』を見て感動し、その勢いで初めてブログを作成しました。(なのでネットやブログなどの知識はまだまだ拙いものですが…)
その名も、勝手に映画『宮城野』応援ブログです!
『宮城野』の特にディレクターズカット版の上映やDVD化に向けて、勝手に応援していこうと思いました!
すると、フィレンツェでたまたま『宮城野』を観た方にコメントをもらったりして、やはりネットの凄さを再認識し、同じくいいと感じてる方ともっと交流して『宮城野』をもっともっと盛り上げられたらなと考えています。
京都の上映も近いですし。
もしよろしければ今後とも、コメント等書いてもよろしいでしょうか???
よろしくお願いします!
ブログです↓↓↓
http://ameblo.jp/18980516/
> その名も、勝手に映画『宮城野』応援ブログです!
凄いですね。
1つの作品に出会えて即行動に移されたなんて本当に
素晴しいことだと思います。
私の場合、はじめに出演者(片岡愛之助さん)ありきで
この映画を見ましたので、きっかけは違いますが、
ディレクターズカット版を応援したい気持ちはオナジです。
こちらこそこれからもよろしくお願い致します。
京都上演前に記事を書くつもりでしたので、その際に
せいべえ様のブログを紹介させて頂きますね♪
(今ごろ~? 笑)
圭史さんといえば、血がドロドロ系というイメージが強かったのですが、かなり淡々とした中に言葉の力も感じる作品でした。
ほんとに、「こういう作品も作れる」んだな、と思いました。あの立方体を使った舞台装置を含め、やはり演出の力はタダモノではないですね。
私はちょっと途中で堕ちちゃったところもあって(笑)、ムンパリさんのレポで、「なるほど~」と理解できたり思い出したりしたところも多々。
ありがとうございました♪
皆さん、ただ書いてないだけなのか、感想をアップ
している人が少ない作品ですよね。
私もこの舞台は言葉にして残すことがひじょうに
むずかしいと思いました。
舞台で見るロードムービーですかね。
自分探しの旅・・・なんて言葉は全く苦手ですけど、
圭史さんの演出だから見られたような気がします。
座がつかなくても行ってしまう舞台人の代表、ですね♪
でも、できることならもう少しガツンとくる舞台が
見たかったかなあ(笑)。