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108カ国が廃止した死刑をなぜ日本は続けるのか? 「世界死刑廃止デー」に刑罰の本質から考える

「東京新聞」2022年10月10日

 きょう10日は「世界死刑廃止デー」だ。NGO「世界死刑廃止連盟」(本部・パリ)が設定し、今年でちょうど20回目にあたる。世界では死刑の廃止が進むが、日本では毎年のように執行され、存廃を巡る議論も活発とはいえない。そもそも刑罰は何のためにあるのか。死刑を正当化する理由付けは。廃止デーに合わせ、死刑について考えた。(特別報道部・大杉はるか)

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◆「刑罰の本質は、ルール遵守と将来の犯罪予防」

 2008年に東京・秋葉原で7人を殺害し10人を負傷させたとして、加藤智大元死刑囚(39)の死刑が7月、執行された。古川禎久法相(当時)は執行時の会見で「凶悪犯罪が後を絶たない状況にかんがみると、罪責が著しく重大な凶悪犯罪を犯した者には、死刑を科することもやむを得ない。死刑を廃止することは適当ではない」と述べた。

 死刑を巡っては、「人を殺せば死で償うべきだ」「被害者や遺族の心情から必要」「犯罪抑止に必要」などの存続論、「誤判の場合に取り返しがつかない」「更生の可能性がなくなる」「人道上許されない」などの廃止論がある。

 「昔から同じ論点が出され、話が進まない。これでいいのかと感じた」。法制審議会会長も務める中央大大学院の井田良まこと教授(刑法理論)は話す。今年「死刑制度と刑罰理論」(岩波書店)を刊行し、死刑は理論上成り立たないという観点で論じた。

 井田氏によると、刑罰の基本は犯罪に見合った罰を科すこと。ここで考えるべきは犯罪が傷つける対象だ。被害者だと思いがちだが、刑法上は「法規範(ルール)」なのだという。

 「対象が被害者だと考えると、贈収賄など被害者のいない犯罪は説明がつかない。刑罰の本質は、ルールを守らせ、将来の犯罪を予防することだ」

 人は育つ過程でルールの順守を学ぶ。「たとえば非行少年はルールの学び方が不十分だったということ。刑罰を科して更生を図る」

◆「死刑の犯罪予防効果、科学的に証明できない」

 だが、1990年代以降、日本は犯罪に対して重罰・厳罰化の時代に入った。背景に被害者保護の考え方があった。「保護立法が進み、並行するように『もっと重い刑を』となった」

 学者の間でも、犯罪と被害者らの痛みを天秤てんびんの一方に載せ、「重い犯罪なら死刑が当然」との主張が出てきたという。冒頭の法相の発言とも重なる。

 井田氏は「被害者のために刑罰を科すことが正しいかのような考え方が広がった。分かる面もあるが、刑罰の本質ではない」と異を唱える。「刑法は個人が犯罪に向かうのを抑制することで、法益と将来の被害者を守り、社会の秩序を維持するためにある。過去に目を向け報復しても社会のプラスにならない」

 犯罪が傷つけた相手が「社会の秩序を守る法規範」と考えれば、「死刑は法規範という公共の利益のために命を奪うことになる」というのが井田氏の見解だ。「今の憲法上、公益のために死んでくれという考えは認められていない」 死刑が将来の犯罪を抑止するという意見は根強い。これについて井田氏は「死刑の予防効果は科学的に証明できない。刑罰制度は推測で成り立っている面がある」と指摘する。

 欧州など死刑廃止国での刑罰の考え方は、処罰感情の充足に重きを置いたものではなく、規範侵害の回復にあるという。「日本人は『目には目を』を後生大事に考えているんだね、と見られている」

◆OECDでは米国と日本だけ、バイデン大統領は公約に死刑廃止

 世界的には死刑の廃止が進む。国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」によると2021年現在、死刑廃止は108カ国。10年以上執行がないなど、事実上の廃止を加えると144カ国に上る。一方の死刑存続・執行国は日本や中国、北朝鮮、イランなど55カ国。先進38カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)の中では日本と米国だけだ。

 その米国でもバイデン大統領が死刑廃止を公約に掲げ、21年7月には連邦レベルでの死刑執行が一時停止された。アムネスティによると、州レベルでも同年末時点で、50州のうち23州が死刑を廃止し、13州が過去10年間に死刑を執行していなかった。

 この国際情勢にもかかわらず、日本の国会では、存廃を巡る議論が低調なままだった。

 1994年には超党派の「死刑廃止を推進する議員連盟」が発足し、執行停止と事実上の終身刑の創設を柱とする法案づくりで合意したが提出に至らなかった。2008年には終身刑創設を目指す「量刑制度を考える超党派の会」もできたが、議員の引退や落選が相次ぎ、休眠状態に。18年に改めて超党派議連「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」が設立された。

◆世論調査で8割が「やむを得ない」

 今年3月、新会長に就任した自民党の平沢勝栄衆院議員は「この問題から逃げていた。われわれの責任でもある」と自戒を込める。19年の内閣府世論調査では「死刑もやむを得ない」が80.8%で「廃止すべきだ」の9%を大きく上回った。だが平沢氏は、その前提となる死刑に関する情報開示が不足していることを問題視する。「国民は執行されたことしか知らない。執行までの間がどうなっているのかなどの情報を提供し、議論する必要がある」

 平沢氏は「(死刑を存続しているために)日本人が海外で死刑判決を受けても強く抗議できなかったり、逃亡した容疑者らの引き渡しを拒否されたりする問題も考えなければならない」と指摘。「今の状態を放置してよいということではない」として、議連での議論を急ぐ意向を示した。

◆「遠くない時期に廃止の方向」の声も

 死刑執行には、法相の命令が必要となる。だが執行命令書にサインしなかった法相もいる。元衆院議員で弁護士の杉浦正健氏(88)がその一人だ。05年10月の就任会見で「私はサインしない。心の問題。宗教観、哲学の問題だ」と述べた。数時間後に発言を撤回したが、06年9月の退任まで執行しなかった。

 杉浦氏は「当時は死刑について考えがはっきりしていなかった。不意打ちで質問され『しません』と言ってしまった」と振り返る。蚊やハエを叩たたくだけで怒った真宗大谷派の祖母の影響もあった。

 その後は死刑廃止について徹底的に学んだ。法相退任が近づいた時、執行可能な状態だった4人の死刑囚の記録を読んだ。教誨師きょうかいしは各死刑囚について「悔い改めて死ぬのを覚悟し、静かにしている」とコメントしていた。「そういう人を殺すことはないだろう、と思った。むしろ働かせて償わせるべきだと」。選挙区(愛知12区)に戻ると、批判も多く受けたが、賛同してくれる人もいたという。

 09年に政界を引退すると弁護士に戻り、今は日本弁護士連合会の「死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部」顧問を務める。杉浦氏は死刑について「国家が人命を奪うということ。本来は人権を擁護するのが国家。死刑にすべき人たちを教育によって社会に復帰させるのが国だ」と語る。

 その上で、今後をこう見通す。「死刑廃止は最終的には国会が法律で決めないといけない。国際的には廃止が増えている。日本の国会議員も考えるから、そういう方向になるのではないかと思う。そんなに遠くない時期にね」 

◆デスクメモ

 犯罪被害者対策では近年、給付金の引き上げや刑事裁判への参加制度の導入といった施策がとられてきた。不十分さも指摘されるが、死刑存廃の論議に比べ動きはある。犯罪を巡っては、更生や再犯防止の取り組みも欠かせない。報復的な見地でなく、冷静な議論が必要だ。(北)

 


最後のバラが咲き始めた。

ラベンダー

銀杏

ウスヒラタケ


水分不足、持ち帰り塩水につけるとピチピチに。

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