![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/ff/0bdab3ffd497aff5a5f28e10251006eb.jpg)
(写真は前田家別邸)
今回は、前回のブログ「草枕(小天温泉)」の続き
の「前田家別邸」です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/3a/bed103029eb927707a232ea23fad899b.jpg)
明治30年の大晦日、夏目漱石は、熊本市の西側に
位置する金峰山の麓の「峠の茶屋」を越えて、
「小天温泉(那古井館)」の「前田家別邸」
に逗留します。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/s2_sum_mount.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0147.gif)
「草枕」では「前田家別邸」は「那古井の宿」
として登場します。
そう、前回のブログで、私が訪れた「那古井館」
のある「小天温泉」です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0070.gif)
前回のブログの続きになりますが、私は、那古井
館で昼食を済ませてから、「那古井館」の裏手の
「前田家別邸」へ行ってみました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0147.gif)
![]() | 草枕 (新潮文庫) |
夏目 漱石 | |
新潮社 |
漱石は、正月の数日をのんびりと「前田家別邸」
で過ごし、この体験を素に「草枕」を発表して
います。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0070.gif)
”温泉や 水滑らかに 去年の垢”
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0147.gif)
「草枕」は、漱石と同じ30歳の青年画家が美を
求めて、片田舎の温泉を訪ねる旅の物語です。
青年画家は、温泉旅館の娘・那美と出会い、
ひかれてゆきます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0139.gif)
「草枕」では、主人公の青年画家は、旅を
しながら”美とは何か”を考え続けます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/kuri_3.gif)
小説の中では、急速に西洋化する時代を批判し
つつ、漱石自身の美術論・芸術論を展開しています。
小天温泉の「前田家」は、細川藩の槍の指南で、
”小天温泉から熊本の城下まで、他人の土地を
踏まずに行ける”
というほどの栄華を誇った名門でした!!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/cat_5.gif)
その当主の前田案山子(かかし)は、維新に際し、
自由民権運動家となり、衆議院議員となりました。
夏目漱石は、前田家別邸に滞在中に、前田案山子
の娘「ツナ(卓)」に出会いますが、この「前田
ツナ」が「草枕」のヒロイン「那美」のモデル
となりました。
当主の前田案山子は、長年の政治活動で資産を
使い果たし、前田家は急激に衰退したそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0211.gif)
「前田家別邸」は、現在は、下の写真の様に、
「草枕」に描かれた「離れ」の一部と「浴場」
が史跡として保存されているのみです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/d1/b00de85587122859723f26a27bd9abf2.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/e1/12525a0b39cfb6a7936140c76bb82070.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/3c/fa83e23c4f57b6b375f7e12f601c574e.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/36/c55811174e3dcc8d8774757f328cd9bc.jpg)
ちなみに、宮崎駿は、この「離れ」を訪れて
「風立ちぬ」の着想を得たそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0151.gif)
私が行ったときは、訪れる人も少なく、史跡の
周辺は少し寂れた印象でした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0211.gif)
でも、当時は、下の写真の様に、敷地全体を
使いその段差を生かした豪壮な木造三階建て
の宿で、各界の署名人、政治家、政府高官が
訪れたそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/17/14d28f3b5d7612c92c4464b615859a80.jpg)
(BS朝日)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/73/5f/e03f6b3ebd1b4cfb80c89758c571fbe6.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/a9/ec0b844fa9f2f97819cf6012ca55fc66.jpg)
しかし、明治34年の失火で前田家別邸は焼失してしまったそうです・・・
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0211.gif)
「草枕」では、主人公の青年画家は、「白髪の
老人」と「その娘・那美」に出会います。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0070.gif)
「白髪の老人」のモデルは、下の写真の「前田家
当主・前田案山子(かかし)」です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/60/39508f887394589d9149ce4288a065d6.jpg)
そして「那美」のモデルは、下の写真の「前田
案山子の娘・前田ツナ」で、なぎなたの名手
だったそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/53/7066715e57d6921696b8aeba0a71a250.jpg)
(BS朝日)
那美は、不幸な結婚に破れた出戻りで、村人から
気がふれたと言われていました。
那美は、夜中に歌を唄ったり、廊下を振り袖姿で
行ったり来たりと、青年画家を唖然とさせます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/04/715a7a2f86a81349a5bb88d3fecdbd5b.jpg)
(徘徊する振り袖の女)
しかし、青年画家はこの娘にひかれてゆきます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0139.gif)
モデルとなった前田ツナの人物の実像は、漱石
好みの女性で、小説の那美に非常に近い人だった
そうで、「三四郎」の「美禰子」とも重なる
そうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0151.gif)
前田ツナは、後に、中国革命の支援に奔走します。
下の写真は、保存されている現在の風呂場ですが、
当時の最先端の技術で造られたそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/6c/e6c73a6ac5d4d12afd24b9d2582ef035.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0147.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/39/26/28475c6b17717cbd82aac78ec91aafc9.jpg)
そして、漱石は、この風呂場で、実際に思い
がけない”事件”に遭遇します。
それは、「草枕」では次の様に描かれています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0070.gif)
”階段の上に何者か現れた。
広い風呂場を照らすものは、ただ一つの
小さき釣りランプのみである。
何とも知れぬものの一段動いた時、余は女と
二人、この風呂場の中に在る事を覚った。
漂わす黒髪を雲とながして、あらん限りの
背丈を、すらりと伸した女の姿を見た時は、
ただひたすらに、美しい画題を見出した
とのみ思った。”
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![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/ff/4312396f3c2aa6d478c2a610d8199ac8.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/10/7690d81faf9283d61790972e2248a3e7.jpg)
この事件の真相については、後日、前田ツナが、
以下の様に語った、と風呂場跡の案内板に
書かれていました。
「もう遅いから誰もいないと思って男湯に
入ったら、夏目さん(漱石)と山川さん(漱石
の同僚)がいたので、慌てて飛び出した。」
しかし、BS朝日「にほん風景物語」によると、
”誰も居ないと勘違いした前田ツナが入浴しよう
としたという説”以外の説もあり、真偽の程は
不明だそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/82/5ae85a7bc76348e3cf797d3e33cd79a1.jpg)
(BS朝日:漱石滞在時の風呂場)
旅のあと、漱石はロンドンに留学し、教員を
やめて作家となります。
そして、10年後、旅の思い出を小説「草枕」
として発表します。
漱石は、ロンドンに留学中、友人に宛てた手紙に
以下の様に書いています。
”日本に帰ったならば、また日本流の旅行を
してみたい。小天行きなど思い出すよ。”