トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

嫉妬の世界史 その四

2021-11-04 21:35:07 | 読書/ノンフィクション
その一、その二、その三の続き ゴードンはあり余るほどのスター性がある軍人であり、官僚のしきたりを守るタイプではなかった。ベアリングの判で押すように機密な時間を繰り返す日々はゴードンには無縁のものだった。 ベアリングは午前中には役所でデスクに向かい、夜はカイロの欧州人社交界で過ごしている。この規則正しいさは官僚のトップに上り詰める人間には自然であっても、ゴードンは生涯を通じて結婚や社交を退けた。 ゴ . . . 本文を読む

嫉妬の世界史 その二

2021-10-31 21:42:44 | 読書/ノンフィクション
その一の続き 鴎外による医事雑誌での当てこすりの対象となったのは、石黒忠悳と小池正直だった。医学界のボスたちを批判しながら、その実は軍医制度を整備した医学会の実力者石原を諷(ふう)する文章を寄せた。 小池は医務局第一課長となり将来の局長を約束されたのに、鴎外は軍医学校長として外に出され、陸軍省の軍医中枢のラインから外される。鴎外がこの種の人事を屈辱としていたのは書くまでもなく、その憤怒は『舞姫』の . . . 本文を読む

超常現象の科学/なぜ人は幽霊が見えるのか その三

2021-10-13 22:30:08 | 読書/ノンフィクション
その一、その二の続き 著者が述べた、「人はある一つの性格面と正反対の面を誰かに指摘されると、自分が納得できる言葉にだけ注目する」(41頁)は興味深い。極度に自己中で己が特別と思い込み、都合の良い面しか耳に入らぬ者がいるが、性格異常者ならずとも総じて人は、自分が納得できる言葉にだけ注目する生き物らしい。 占いがはずれた時、占い師が失敗を目立たなくするために使う手段もあざとい。外れだった内容を広げてい . . . 本文を読む

超常現象の科学/なぜ人は幽霊が見えるのか その二

2021-10-12 21:40:15 | 読書/ノンフィクション
その一の続き 第5章「幽霊の正体」の扉には専門家らによる言葉が載っている。「浅い眠り(レム睡眠)の時、ひとは夢を見る。そしてしばしば幻覚を見る。」(シカゴ大学ユージン・アセリンスキーの発見)「暗示にかかりやすい人ほど「幽霊」を見やすい。」(ジェームズ・フーランの実験)「「ポルターガイスト」は超低周波音のしわざだった。」(電気技師ヴィック・タンディの再現実験)  以上の3人の専門家たちの名は本書で . . . 本文を読む

超常現象の科学/なぜ人は幽霊が見えるのか その一

2021-10-11 22:00:17 | 読書/ノンフィクション
『超常現象の科学/なぜ人は幽霊が見えるのか』(リチャード・ワイズマン著、文藝春秋)を先日興味深く読了した。学生時代の私は雑誌ムーの愛読者だったし、米国のТVドラマ『Xファイル』も大好きで見ていた。UFOや幽霊の存在には懐疑的だが、超常現象特集番組はよく見ていたし、結局オカルト好きなのだ。 行き付けの図書館のヤングアダルトコーナーに置かれていたのが目に入り、本書を借りてきた。表紙カバーの裏には「最先 . . . 本文を読む

SNSで炎上したエジプト一の宗教権威 その二

2021-10-06 22:00:05 | 読書/ノンフィクション
その一の続き「解釈が難しい『コーラン』の原典ですが、多くの敬虔なイスラム教徒が努力して、『コーラン』を読んでいます。一部のエリートだけが『コーラン』の知識を独占しているということはなく、まして、隠蔽するということはありません。『コーラン』の知識は今も昔も、すべての人々に開かれています」(276頁)、と宇山卓栄氏は「Googleやネットがイスラム教徒の『コーラン』への接し方を激変させた」説を批判する . . . 本文を読む

SNSで炎上したエジプト一の宗教権威 その一

2021-10-05 22:30:10 | 読書/ノンフィクション
 前回、著作家・宇山卓栄氏が『「宗教」で読み解く世界史』で、「最近、イスラム教に関して、極論ともいうべき言説が流行してます」と「イスラム脅威論を煽る言説」を批判していたことを取り上げた。名指しこそしていなかったが、参考文献の真っ先に飯山陽氏の『イスラム2.0:SNSが変えた1400年の宗教観』(河出新書)が載っており、明らかに飯山氏が「イスラム教に関して、極論ともいうべき言説」の筆頭としている。  . . . 本文を読む

「宗教」で読み解く世界史 その五

2021-09-30 22:10:43 | 読書/ノンフィクション
その一、その二、その三、その四の続き「強大なササン朝が宗教の不寛容で衰退した」(283頁)の箇所も、曲解から来る極論に見える。ササン朝衰退の最大要因は、26年に亘るビザンツ帝国との全面戦争(ビザンツ・ペルシア戦争)だった。 商人が戦いを避けて別なルートを開拓、ヒジャーズもそのひとつだったが、戦争前から海のシルクロードでの交易は盛んだった。陸路は長年の戦で影響を受けたが、ゾロアスター教徒ペルシア商人 . . . 本文を読む

「宗教」で読み解く世界史 その四

2021-09-29 22:10:38 | 読書/ノンフィクション
その一、その二、その三の続き「支払われた税金は異教徒が屈服した証とされ、それ以上の迫害は自分たちにとって利益にならないと考えられたのです。他宗教への寛容を税というカネと引き換えに認める実利的な規定を持つ宗教はイスラム教だけです」(280頁)という文章もあるが、これは違う。 税というカネと引き換えに他宗教を認めた点ではゾロアスター教が先行しており、こちらも税を払うことで、敵対行為を繰り返すキリスト教 . . . 本文を読む

「宗教」で読み解く世界史 その三

2021-09-28 22:10:31 | 読書/ノンフィクション
その一、その二の続き 序文のタイトルは「宗教地政学―宗教勢力の攻防が歴史の本源」、この見方は素晴らしい。しかし宗教学の本ではないためか、残念な記述もあった。特に第4部でのイスラム教への見解には反論したい個所がいくつか見られる。第4部は「イスラム脅威論を煽る言説」の見出しで始まり、「最近、イスラム教に関して、極論ともいうべき言説が流行してます」という。“極論”とは、イスラムの . . . 本文を読む