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『カエルの楽園』(百田尚樹 著、新潮社)を先日読了した。『海賊とよばれた男』に続き、私が読んだ百田氏の小説はこれで2冊目だが、どれほど苦難に遭っても不屈の精神を貫いた実業家を描いた胸のすくストーリーだった前者に対し、本作は実に胸糞の悪くなる内容だった。最後が悲惨なのは前評判から知っていたが、本当に救いがないとしか言いようのない寓話だった。
アマゾンでも『カエルの楽園』には数多いレビューがあり、登場人物(?)や設定を何に例えているか、説明したものもあった。ベストセラーだけあり、この作品は方々のサイトで取り上げられている。そのひとつ「カエルの楽園(ネタバレ)感想!登場人物・内容・結末を肯定批評!」(2016年4月26日)という記事は、この寓話への詳しい解説である。
カエルの楽園の国ナパージュが日本を指しているのは分かるが、なぜ国名がナパージュ?とはじめ私は思った。アマゾンのレビューに、Japanを逆に読めばナパージュとなるという指摘があり、それで納得した。
既に多くのネットユーザーが『カエルの楽園』への書評をしており、賛否両論があるのも判っている。ただ作品を読んで私は、ストーリー以上に登場するカエルの名称のほうに関心を持った。まず主人公ソクラテスだが、何故主人公をこの名にしたのだろう?古代ギリシアの哲人並みの頭脳の持ち主とはとても思えぬし、生き方も違っているが、百田氏がどうして主人公をソクラテスとしたのか?
ソクラテスと共に唯一生き残ったアマガエルの名はロベルト。これまた何故ロベルトなのだろう?主人公と副主人公が共に西欧風の名が付けられている意図はなんだろう……と、つい本筋とはそれたことを考えてしまう。
そして、ソクラテスの祖国とはいったい何処を設定しているのだろう?作品では彼の祖国の風習は全く描かれておらず、単にある春の日、凶悪なダルマガエルの群に襲撃された、とだけある。特にモデルの国はなく、物語の出だしに使われただけなのか。
ソクラテスの祖国の長老の名はクンクタトル、対ハンニバル戦で功績をあげた古代ローマの将軍ファビウスの名でもあるのだ。クンクタトルにはラテン語で「ぐず」という意味もあり、物語のカエルの長老も持久で敵に対処しようとする。国の滅亡を予感し、新天地を求めてやって来たソクラテスとロベルトが苦難の末、ようやくたどり着いたカエルの楽園がナパージュだった。部外者の彼等は物語の語り部なのだ。
ナパージュにはハンニバルというカエルが存在する。ハンニバルには2人(?)の弟がいて、末弟ワルグラはナパージュの実質的支配者デイブレイクやその一派の策謀で処刑される。ハンニバルはウシガエルからツチガエルの赤ん坊を守ったにも拘らず、それが『三戒の教え』に背いたとして、ハンニバルともう1人の弟ゴヤスレイの目は潰され、腕は切り落とされた。
そんな状態になっても、ハンニバル兄弟は侵略してきたウシガエル等と戦うのだ。そしてウシガエルに飲み込まれる。ハンニバル三兄弟は自衛隊(陸海空)の例えと見た読者もいるが、兄弟の名も意味深い。カルタゴの名将ハンニバルはあまりにも有名だが、祖国の政治家の裏切りにより亡命を余儀なくされ、亡命地で自決している。
そしてゴヤスレイとはアパッチ族のジェロニモの本名で、「あくびをする人」の意。百田氏のことだから、これら故事を知っているはずだし、キャラクターにハンニバルやゴヤスレイの名を使ったのだろうか。
デイブレイクは夜明けを意味する英語だから、朝日新聞なのは察しが付く。そしてナパージュで一番人気のある“語り屋”はプランタン。フランス語で春を意味し、この“語り屋”は集会で熱くこう語る。
「ツチガエルとウシガエルは、たとえ話す言葉が違っても、基本的には感情や感動を共有しあえるカエル同士なのです。領土の問題は冷静に解決すべきなのです……
またナパージュの民は、過去にウシガエルに行なった非道な行為を忘れてはなりません。ウシガエルが『もういい』と言うまで謝らなければならないのです」
これでプランタンが誰を指しているか、分かる人には分かるはず。今年5月19日付のリテラにはズバリ、「百田尚樹小説の村上春樹揶揄に新潮社が大弱り!」という記事が載っており、「本と雑誌の知を再発見」を称するサイトがわざわざネタバレをしていた。村上が今年もノーベル文学書を受賞しなかったのは、大変喜ばしい。
その②に続く
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