やっと『マオ-誰も知らなかった毛沢東』(講
談社)の上巻を読了した。近年読んだ中でもっとも気が重くなる内容の本だった。読むのに負担を感じたのは、560頁に上る長さでも旧日本軍に関する記述で
もなく、中共の実態とはこの上ない圧制と残虐行為の見本さながらだからだ。上巻では毛沢東がやっと中国の覇者となったばかりの1953年までが描かれてお
り、文化大革命は含まれていない。この時点でスターリンをしのぐ独裁者と成り果てている。
毛沢東は農家の生まれだったが、決して食うに 事欠く貧農ではなく、むしろ後年彼が敵対分子を吊し上げる時に使った「クラーク(富農)」の方だった。それ故彼は学校にも通えたし、読書、殊に中国の古典 を繰り返し読むのは彼の晩年になっても続く。毛が共産党に入党したのも、貧しい農民の窮状に憤ったからではない。彼は生涯を通じて狂信的な共産主義者では なかった。
農家の長男でも彼は農作業を嫌い、父からはよく怠け者と怒られ殴られたりもしている。だが、彼は父に「父親は年上なのだから、年少の自分より多く働くのは当り前」と言い返すような息子でもあった。儒教的思想からすれば、無礼極まる口の利き方だ。
母親は毛を無条件に愛し甘やかしたが、彼は母を愛しながらも、臨終の際には自己本位な姿勢を取る。側近にこう語っているのだ。
「母の死が近くなった時、私は母にこう言った。苦しむ母上をこれ以上見ているのは忍び難い、私は母上の美しい印象を持ち続けていたいので、しばらく遠くにいさせて下さい、と。母は非常に物分りのよい人で、それを許してくれた。だから私の中にある母は、今日までずっと美しく健康な母なのだ」
強い愛情を感じていたはずの母親に対しても、臨終時さえ優先するのは自分自身だったくらいの人物だから、他の女性への態度は押して知るべしだ。「女性は男性と同じだけの肉体労働が出来る。産前産後に肉体労働が出来ない、ということだ」とは女の能力を認めたフェミニズム精神から来ているのではなく、単に思いやりの欠如や責任逃れから発しているに過ぎない。権力の座に就いた彼の政策は女性に重い肉体労働を課すのが主眼となったのだ。
また、毛は若い頃から女に目がなかったが、新たな愛人が出来ると妻子を簡単に捨てる男でもあった。もちろん養育などせず、子供は捨て子同然、2番目の妻は国民党側に捕われ処刑されたが、彼は助けるために指一本動かしもしなかった。
中国共産党を全面的に支援したのはソ連だった。革命後のソ連は中国における租界や治外法権を返上すると宣言して、中国人民の好感を得るが、実際は空約束で欧米列強のどの国より広い租界を有していた。
ソ連で軍事訓練を受けた中国共産党員は多数おり、またソ連人顧問は多数中国にいて暴動を支持した。モスクワの方針は「階級の敵を一人残らず殺し、彼らの家を焼き払い破壊せよ」。スローガンは「焼、焼、焼!殺、殺、殺!」。殺人と放火をためらう者は全員「豪紳の走狗につき殺害すべき対象」とされた。
まさに「殺し尽し、焼き尽す」の三光作戦をとうに実践していたのだ。後年中共が日本軍や国民党の比類ない残虐行為と喧伝したが。
毛沢東が軍事的天才というのは全て中共の神話なのを、この本は明記している。彼は前線に立って兵士を叱咤激励することはなく、後方に陣取っているタイプな ので、兵士たちの人気はなかった。彼が軍事指揮権を掌握したのも陰謀による優秀な軍隊を丸ごと乗っ取るやり方を繰り返したからだ。ソ連の提案もあるにせ よ、毛は国民党側に多数のスパイを潜らせており、彼も大いにスパイ活用をした。軍事よりも情報戦を重視したのは冷徹な現実主義者ゆえだ。
さらに彼は抗日に燃えていたというのも神話で、事実はそれどころか日本軍が中国に侵攻して国民党を打ち負かすのを期待していた。中共の作戦は「用敵人的手、来打撃敵人」(敵の手を使って敵を打て)だった。日本軍との戦いは極力避けるのが常であったのだ。
日本軍が中国に侵攻するのはソ連も歓迎するところだった。何故ならソ連領土に向わず中国大陸に行ってもらう方が望ましいし、そのためスターリンは様々な謀略を行う。有名な張作霖爆殺は一般には日本軍の仕業と思われているが、最近のソ連情報機関の資料から実際はスターリンの命に基づきナウム・エイティンゴン(トロツキー暗殺に関与した者)が計画して、日本軍の犯行に見せかけたものだそうだ。
その②に続く
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毛沢東は農家の生まれだったが、決して食うに 事欠く貧農ではなく、むしろ後年彼が敵対分子を吊し上げる時に使った「クラーク(富農)」の方だった。それ故彼は学校にも通えたし、読書、殊に中国の古典 を繰り返し読むのは彼の晩年になっても続く。毛が共産党に入党したのも、貧しい農民の窮状に憤ったからではない。彼は生涯を通じて狂信的な共産主義者では なかった。
農家の長男でも彼は農作業を嫌い、父からはよく怠け者と怒られ殴られたりもしている。だが、彼は父に「父親は年上なのだから、年少の自分より多く働くのは当り前」と言い返すような息子でもあった。儒教的思想からすれば、無礼極まる口の利き方だ。
母親は毛を無条件に愛し甘やかしたが、彼は母を愛しながらも、臨終の際には自己本位な姿勢を取る。側近にこう語っているのだ。
「母の死が近くなった時、私は母にこう言った。苦しむ母上をこれ以上見ているのは忍び難い、私は母上の美しい印象を持ち続けていたいので、しばらく遠くにいさせて下さい、と。母は非常に物分りのよい人で、それを許してくれた。だから私の中にある母は、今日までずっと美しく健康な母なのだ」
強い愛情を感じていたはずの母親に対しても、臨終時さえ優先するのは自分自身だったくらいの人物だから、他の女性への態度は押して知るべしだ。「女性は男性と同じだけの肉体労働が出来る。産前産後に肉体労働が出来ない、ということだ」とは女の能力を認めたフェミニズム精神から来ているのではなく、単に思いやりの欠如や責任逃れから発しているに過ぎない。権力の座に就いた彼の政策は女性に重い肉体労働を課すのが主眼となったのだ。
また、毛は若い頃から女に目がなかったが、新たな愛人が出来ると妻子を簡単に捨てる男でもあった。もちろん養育などせず、子供は捨て子同然、2番目の妻は国民党側に捕われ処刑されたが、彼は助けるために指一本動かしもしなかった。
中国共産党を全面的に支援したのはソ連だった。革命後のソ連は中国における租界や治外法権を返上すると宣言して、中国人民の好感を得るが、実際は空約束で欧米列強のどの国より広い租界を有していた。
ソ連で軍事訓練を受けた中国共産党員は多数おり、またソ連人顧問は多数中国にいて暴動を支持した。モスクワの方針は「階級の敵を一人残らず殺し、彼らの家を焼き払い破壊せよ」。スローガンは「焼、焼、焼!殺、殺、殺!」。殺人と放火をためらう者は全員「豪紳の走狗につき殺害すべき対象」とされた。
まさに「殺し尽し、焼き尽す」の三光作戦をとうに実践していたのだ。後年中共が日本軍や国民党の比類ない残虐行為と喧伝したが。
毛沢東が軍事的天才というのは全て中共の神話なのを、この本は明記している。彼は前線に立って兵士を叱咤激励することはなく、後方に陣取っているタイプな ので、兵士たちの人気はなかった。彼が軍事指揮権を掌握したのも陰謀による優秀な軍隊を丸ごと乗っ取るやり方を繰り返したからだ。ソ連の提案もあるにせ よ、毛は国民党側に多数のスパイを潜らせており、彼も大いにスパイ活用をした。軍事よりも情報戦を重視したのは冷徹な現実主義者ゆえだ。
さらに彼は抗日に燃えていたというのも神話で、事実はそれどころか日本軍が中国に侵攻して国民党を打ち負かすのを期待していた。中共の作戦は「用敵人的手、来打撃敵人」(敵の手を使って敵を打て)だった。日本軍との戦いは極力避けるのが常であったのだ。
日本軍が中国に侵攻するのはソ連も歓迎するところだった。何故ならソ連領土に向わず中国大陸に行ってもらう方が望ましいし、そのためスターリンは様々な謀略を行う。有名な張作霖爆殺は一般には日本軍の仕業と思われているが、最近のソ連情報機関の資料から実際はスターリンの命に基づきナウム・エイティンゴン(トロツキー暗殺に関与した者)が計画して、日本軍の犯行に見せかけたものだそうだ。
その②に続く
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恐らく、旧日本軍が行ったとされる蛮行の数々の内、実際に行ったのは数少ないのかもしれませんね。三光作戦にしても、日本軍が実際に行ったのか、それとも中共が行ったのを擦りつけたのか。真実はどうなのでしょうね。
(南京大にしても9割方、誇張や捏造があるように思えます。)
マオの残虐性について、私は何故か、マオ一人が特別のような気がしません(同じく、大虐殺を行った、ヒットラーやポル・ポト以上に残虐ではあると思います)。しかし、マオを生み出す土壌は、今も昔も変わっていないように思えます(中国の歴代の権力者が行った、粛清や大虐殺と同列に思えてなりません)。
中国には、もちろん中共の意思がありますが、抗日に関するゲームは多々あり、そのほとんどが旧日本軍を叩きのめすものだそうです。しかし、実際の中共はコソコソ逃げ回り、日本軍の対峙したのは国民党の方でしたね。そういう意味では、マオの戦上手は真っ赤な嘘ですね。しかしながら戦とは、何も戦火を交えるだけが戦争ではないですね。そういう意味では(人民を虐殺しつつも、最終的に大陸を得た事からも)、戦い辛い相手だと思います。
いわゆる靖国問題にしても、日本人の心の問題以前に、内部で分裂させる事に成功していますね。また、東シナ、領事館員自殺にしても、法など絶対守らない(というか、守るという意識以前に、守らないといけないという意味すら理解できない)。このような非常識、前時代的な相手が隣人がいる日本は、最大に不幸ですね。
(とてもではないですが、日本人の意識や価値観は、絶対的に、中国人のそれとは違うと思います。)
戦争時ですから旧日本軍が虐殺や蛮行を行ったのは確かだと思います。ただ、白髪三千丈の国なので、かなりの誇張があるのでしょう。
どれだけの数をもって“大”とするかは意見が分かれますが、中共側の発表は誇張や捏造の見本ですね。もっとも、中共の公式発表どおり三十万の犠牲者だったとしても、ラサ(チベットの首都)の虐殺に比べれば、小虐殺に過ぎません。
私もマオだけが特別ではなく、王朝を作った中国の英雄たちは皆大同小異だと思います。農民出の劉邦や朱元璋も粛清をやってましたね。
この先も同じ様なタイプの指導者が現れると思います。
抗日に関するゲームなら、弟分の国にも氾濫してるそうですよ。日本人少女をレイプするゲームも。ただ、中国では金正日をコケにするゲームも出回っているとか。
マオとスターリンはお互いを利用しあってましたが、前者の方が役者が上でした。
敵国への内部分裂の巧みさで漢族はアングロサクソンと張れますね。モンゴルやチベットもこれでやられました。漢族にとっては自分の身内以外は外国人と変わらないので、法など守る精神がないのは、この先もずっと同じでしょう。
日本人と中国人の価値観は違いは、日本人とイギリス人以上に大きいと思いますね。
内藤陽介「マオの肖像」は切手からみた国威発揚関連ものの分析です。あわせてよむとおもしろいですよ。
内藤陽介「マオの肖像」は初耳です。
切手からみた国威発揚関連ものの分析とは面白そうですね。ご紹介、ありがとうございました。
本作品ですが、私は著者の主観や思い入れが強すぎると感じます。
ヒトラーを悪く書いた著作が真偽を問わずにヒットするように、このような作品は客観性がかけます。
あとチベット虐殺もダライラマがかなり誇張してますよ。
http://blog.goo.ne.jp/aika-anime
白髪三千丈はダライラマ14世にも同じことが言えます。
彼はチベット仏教最高指導者でも無いのに、チベット人の代表を名乗ってます。
>>私は著者の主観や思い入れが強すぎると感じます
>>このような作品は客観性がかけます
それもあなた個人の主観や思い入れであり、客観性が欠けると断言するならば、是非その個所を指摘して頂きたいものです。もちろん私も毛沢東やダライラマ研究者ではありませんから、真相を知る由もありませんが。
著者は下巻でチベット動乱に触れていますが、何故か第42章チベット動乱に関しては8頁だけ、しかも他の章と異なり、どのような迫害が行われ、何人が犠牲になったかの詳細記述や数値もなかった。やはり中華思想の表れでしょう。
http://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/1ae5336b5a6186a58f77ebac8cbc5d25
そして貴方が紹介したブログですが、こちらも全く信用できません。中共の受け売り丸出しだし、読むに値しない。このような記事を書くのは自由だし、あなたが信じるのも自由ですが、私は違います。未だに毛沢東を崇拝する輩もいるし、「ダライラマとオウム・山口組とチベットは世界規模で弊害を撒き散らす民族」と言った自称左派リベラリストのブロガーもいた。幾つもHNを買えて自作自演していた暇人でしたが。
もちろんダライラマも亡命政権指導者ゆえ、駆け引きや白髪三千丈的プロパガンダを駆使するのは当然でしょう。それが国際政治だし、チベット仏教に限らず宗教指導者にはそのような面があるのです。本作品に誇張があったというならば、毛沢東の御用記者だったエドガー・スノーのルポこそ、主観や思い入れが強烈で客観性を完全に欠いた代物。彼のような下劣ジャーナリストこそが、誇張とでっち上げの産物である毛沢東神話を作り上げた。