トーキング・マイノリティ

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古代カルタゴとローマ展

2009-07-26 20:22:09 | 展示会鑑賞
 昨日、仙台市博物館の特別展「古代カルタゴとローマ展」を見に行った。「きらめく地中海文明の至宝」のコピーどおり、実に見ごたえのある展示会だった。博物館のチラシには「古代世界の中心―地中海」の見出しで、以下のような説明がされていた。

-神秘の国エジプトは高度な文明を、ギリシア人は美術の様式と哲学を、ローマ人は美しい都市空間を―人類の英知と美しい芸術は豊饒の海・地中海から生み出されてきました。紀元前9世紀の終わりごろ、地中海沿岸に建国され、多様な文化と出会い融合し、のちのローマ帝国を凌ぐほどの繁栄を極めた国家がありました。それが「地中海の女王」と呼ばれたカルタゴです。
 本展では地中海を舞台に繰り広げられた壮大な歴史ロマンに迫ります。モザイク画の大規模展示は質・量・サイズともに日本初の試みで、見事な“石の絵画”が優美な世界を創り出しています。モザイク画を含む厳選された総数160余点にのぼる展示品は、実に9割以上が日本初公開となり、世界遺産・カルタゴの輝ける歴史と文化に触れるまたとない機会となるでしょう。

 さらに展示内容を2つに分けており、チラシの紹介にはこうある。
第1章:地中海の女王カルタゴ・・・栄華の頂点に昇りつめたカルタゴと新興国として脚光を浴びるローマ、この2大国は1世紀以上にわたり、地中海の覇権をめぐって宿命の対決を繰り返すことになります。
第2章:ローマに生きるカルタゴ・・・ポエニ戦争で1度は徹底的に破壊されながらも、やがてカルタゴはローマ、アレクサンドリアに次ぐローマ帝国第三の都市として再び円熟期を迎えることになります。チュニジアのローマ遺跡に残された色彩豊かなモザイクは地中海文明の貴重な宝です。

「地中海の女王」として繁栄を極めていたカルタゴの遺品で、結構多く展示されていたのがタニト女神への奉納の石碑。タニトは天と豊穣の神とされており、丸と三角、直線で描かれた絵はまるで特別用途食品マークそっくり。おそらく日本が真似たのだろうが、手の込んだ工芸品や彫刻を創る民族の神にしては、余りにもあっさりしたデザインで拍子抜けする。石碑に書かれた文字が邦訳されてないため、文章は不明だが、どのようなことが書かれていたのだろう?家内や航海の安全、商売繁盛、無病息災、子孫繁栄…現代人も古代人も幸福を願う気持は変わりない。
 ローマ人はカルタゴでタニト女神に幼児を生贄に捧げる習慣があったことを記録している。現にチュニジアで古代の子供用の共同墓地から2万個の骨壷が出土するという考古学上の発見があった。ただ、古代世界で生贄は珍しくなく、中国でも若い娘を川に生贄として捧げていた。ローマ人は生贄を嫌ったとされるが、剣闘士試合などある意味娯楽のための生贄ではないか。

 展示には有翼女性神官の石棺(前3世紀)もあり、当時は女性の神官もいたことが分った。まだ若くなかなかの美人だったが、お見合い写真よろしく“修正”はなかったのか、想像してしまった。男の彫刻も何点かあったが、どれもカールした髪型であり、地中海人種らしく天然パーマだろうか。まさか、古代にパンチパーマがあったのか?
 第1章の目玉は、何といってもあのハンニバル軍が使用したと伝えられる鎧(前3-前2世紀)。紀元前に作られたにも係らず、黄金の鎧は輝きを失っていないし、金工芸品の質の高さにも驚く。

 第2章のローマの植民地都市として再建されたカルタゴの遺品も見事。多数のランプが展示されており、絵柄は剣闘士を描いたものが殆どだったが、熊をけしかけて訓練している絵もあり、まさに地獄の特訓。食物を盛ったのか、直径十数cmそこそこの小ぶりな鉢の絵は何と男女の死刑囚を描いている。男は裸体、女は上半身裸で杭に縛られており、競技場で野獣の生贄にされたキリスト教徒?と解説されていた。死刑囚を描いた鉢を使用していた古代人の感性は、現代人とあまりにもかけ離れている。

 カルタゴに残る数多くのモザイク画は素晴らしい。メドゥーサを描いたものは魔よけ目的らしいが、恐ろしい化け物というより普通の怖そうなおばさんといった様子。また豊穣な地中海らしく、モザイクの周囲の模様に様々な魚介類が施されていたのは見ていて楽しいだけでなく、美味しそうだった。イカ、タコ、平目やウナギらしい細長い魚、名も分らぬ魚類、貝類…当時の人々はどのように食べていたのだろうか?
 人物画のモザイクも見ごたえがある。上記のバラの花や水を注ぐ女性のモザイクは個人の邸宅にあったそうだが、展示されたモザイク画の女性は総じて骨盤が張っている。裸でサービスしているから奴隷だろうか?いずれにせよ境遇が奴隷であれ、暗さはまるで感じさせられない。

 古代ローマの歴史家リウィウスの『ローマ史』に、ハンニバルが語ったとされる言葉が載っている。
いかなる超大国といえども、長期にわたって安泰であり続けることは出来ない。国外に敵を持たなくなっても、国内に敵を持つようになる。外からの敵は寄せ付けない頑健そのものの肉体でも、身体の内部の疾患に、肉体の成長についていけなかったがゆえの内臓疾患に、苦しまされることがあるのと似ている。

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