詩織といると、穏やかになる。
気のきいた言葉が出てくるわけでなく、お笑いも理解不能な彼女。
それでも少しでも一緒にいたいと思う。自分までが優しくなれるような気がするから。
就職活動の真っ只中に出遭って、その後、何故だか詩織は私に連絡を取り続けた。絶対年下だと思ったのに、聞けば同い年だったことも親近感を持つ一因となった。
そんな詩織は大学を卒業後、私のいう定義をあっさり覆し家事手伝いには納まらず、アルバイトながらスーパーのレジ打ちの仕事を始めた。
当初こそ、お父さんは自分の店で働かせると言ったらしいけれど、今は応援してくれているそうだ。お母さんは働くことそのものに反対のままだったけど。
そんななか詩織は五年バイトを続け、晴れて正社員になった。そして店舗を離れ、事務所へと職場を移しそこで彼と出逢った。
そこでも、やっぱり彼女は私の定義とは間逆なことをした。
彼には、すでに介護の必要な年老いた両親がいた。なのに、詩織はあっさりと家を出て行った。
自分が働いたお金だけを持ち、文字通りその身一つだけで。
お金持ちに憧れた私は、結局、お金に振り回されていたことに気付いた。
今の詩織の笑顔には、心の底からの幸せを見るような気がする。
彼を労わる言葉を、恥かしげもなく口にする詩織。
でも、それが一番大切なことだと思う。言わなければ、伝わらない。自分の気持ちは代弁されるものじゃない。
いつも何もかもが決められたなかに育った彼女が、唯一、学びとった真意だった。
定義なんて、もうどうでもいい。
やっぱり私は詩織の近くにいて、出来うるならば一生涯、彼女の生き様を見ていたい――。
【終わり】
著作:紫草
気のきいた言葉が出てくるわけでなく、お笑いも理解不能な彼女。
それでも少しでも一緒にいたいと思う。自分までが優しくなれるような気がするから。
就職活動の真っ只中に出遭って、その後、何故だか詩織は私に連絡を取り続けた。絶対年下だと思ったのに、聞けば同い年だったことも親近感を持つ一因となった。
そんな詩織は大学を卒業後、私のいう定義をあっさり覆し家事手伝いには納まらず、アルバイトながらスーパーのレジ打ちの仕事を始めた。
当初こそ、お父さんは自分の店で働かせると言ったらしいけれど、今は応援してくれているそうだ。お母さんは働くことそのものに反対のままだったけど。
そんななか詩織は五年バイトを続け、晴れて正社員になった。そして店舗を離れ、事務所へと職場を移しそこで彼と出逢った。
そこでも、やっぱり彼女は私の定義とは間逆なことをした。
彼には、すでに介護の必要な年老いた両親がいた。なのに、詩織はあっさりと家を出て行った。
自分が働いたお金だけを持ち、文字通りその身一つだけで。
お金持ちに憧れた私は、結局、お金に振り回されていたことに気付いた。
今の詩織の笑顔には、心の底からの幸せを見るような気がする。
彼を労わる言葉を、恥かしげもなく口にする詩織。
でも、それが一番大切なことだと思う。言わなければ、伝わらない。自分の気持ちは代弁されるものじゃない。
いつも何もかもが決められたなかに育った彼女が、唯一、学びとった真意だった。
定義なんて、もうどうでもいい。
やっぱり私は詩織の近くにいて、出来うるならば一生涯、彼女の生き様を見ていたい――。
【終わり】
著作:紫草