『君戀しやと、呟けど。。。』

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『愛しい想い』 vol.25

2006-06-03 10:41:02 | 小説『愛しい想い』
 時は流れ、流れ流れて、私は再び病院のベッドにいた。
 どんなに普通に暮らしているように見えても、どこかに歪みは生まれる。私の体は、そういう状態にあったということだ。
 腕の筋力が普通についていけば、もう少し元気に暮らせたかもしれない。
 でも、私はそうじゃなかった。

「眠ったら?」
 母が、枕元で囁く。
「うん」
 そう返事をするものの、眠れそうにはない。
「もう帰っていいよ。今度は一ヶ月後よね」
「ごめんね。できるだけ早く来るからね」
「大丈夫。もう40歳を越えたオバサンよ。困ったことがあれば、ばんばん人を頼るから」
 そう云う私の頬を母は撫でる。
 そして、いつもように涙を浮かべ帰ってゆく。

 ホントにごめんね。
 そしてやはり、いつものように母の背中に無言の声がかける。
 私の体は、もう思うように動かない。施設にいる方が二人のため。そう我が儘を云った。父が生きていれば事情は違っただろう。
 でも半年前父を亡くし、母一人での自宅介護は無理だった。

 ひとりになると優一を思い出す。
 あの別れから、一度も逢っていない優一。
 でも、あの日から毎日思い返す人。
 それが倖せ。思い出と、魂に残るほどの、愛しい想いを教えてくれた。
 一緒にいることができなくても、私は倖せ。少しは、やせ我慢もしてるけど、でも、やっぱり倖せ。彼がいてくれたから、私は生きるという道を選ぶ。どんなに淋しい気持ちが湧き上がってきても、愛しい想いを抱いていられるから。
 そんな人生も悪くない。

 二人部屋の空いたベッド。
 次に、此処へ来る人は、どんな人生を送ってきた人だろう。

「魅子さん。明日、新しい人が入ります。また、お願いしますね」
 そう看護士に云われたのは、その日の夕食時。
「どんな人?」
「魅子さんのお母さんくらいの人ですよ」
 ふ~ん。
 なら、大丈夫かな。
 私は、明日の出会いを少しだけ楽しみに、その日は眠りについた…。

             To be continued
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