「いらっしゃいませ~」
自動ドアが開くと同時に、チリリ~ン と鈴が鳴る。
すると、その音を耳にした店員たちは一斉に「いらっしゃいませ」を云う。
いつもなら、私も云っていた。否、いら、あたりまでは云ったと思う。
しかし、お客様の顔を見て言葉を飲み込んでしまった。
そこに現れたのは2~3歳くらいの女の子を連れた男女。男は、優一だったから。
「魅子、どうしたの?」
ウェイトレス仲間が、呆然と立ち尽くしている私に声を掛けてきた。
我に返って、愛想笑いで誤魔化すが、お水を持って行く役は彼女に取られたようだ。
「魅子、あの お客さん。知ってる人?」
「うん」
ふ~ん、と別の仲間、恵美が云う。
「気をつけた方がいいよ。あの子、魅子のことライバル視してるって噂だよ」
「何、それ」
「たぶん店長に気があるから。妬いてるんじゃない!?」
その時、別のお客様が入ってきたことで、恵美は仕事に戻った。
私担当のテーブルから戻ってきた彼女、坂上朋美がメニューに合わせセッティングを始めている。
「ありがとう。あとは私がやるから」
朋美に声を掛けると、確かに尋常でない目つきで睨まれたように感じた。
何か、したっけ?
朋美は、ふん、と溜息のような侮蔑のような、よく分からない言葉を残し厨房の方へ歩いていった。
私は、放り出すように置かれたトレーを布巾で拭き直し、改めてセッティングを始める。程なくして調理が済み料理が出てくると、それをトレーに並べ、私は優一のいるテーブルへと向かった。
「お待たせ致しました」
「お前、魅子か」
思いがけず優一は私に声を掛けてきた、彼女がいるにもかかわらず。。。
きっと彼女も何かしら思うところはあったろうし、優一も、その後に続く言葉があったように思う。
しかし、小さな女の子は運ばれた自分の料理に歓声をあげ、ふたりは彼女の言葉に集中した。
私は料理を少女の前に置くと、その場を離れた。続く料理の時は別のお客様の接待にあたり、やがて優一たちが精算にやってくるまでテーブルに行くことはなかった。
「有り難うございました」
という決まり文句が聞こえた。
私は彼らの姿を見たくなくて、空いたテーブルを片付けていた。すると、
「魅子」
突然、後ろから声がして、振り返ると優一が立っていた。
「何?」
「話がある。新しい携帯の番号、教えてくれないか」
「何云ってんの? 私、携帯変えてないよ」
「嘘…」
「嘘なんか云わない。変わってない」
「ごめん。じゃ、俺も変わってないから… できれば掛けて欲しい、もう一度」
その時の優一の顔が、何だか、酷く辛そうに見えて、私は黙って頷いた。
その日は遅番だった。時間ができたのは深夜一時。流石に電話をするには遅すぎた。
翌々日、早番のシフトに変わり、自分の部屋の時計を見ると午後4時25分。バッグから携帯を取り出す。メモリーを探すと、目指す番号は簡単に見つかった。
かなりの時間のためらいを過ぎ、一瞬の勇気で発信のボタンを押す。
~おかけになった電話番号は、お客様の都合により、お繋ぎできません~
To be continued
自動ドアが開くと同時に、チリリ~ン と鈴が鳴る。
すると、その音を耳にした店員たちは一斉に「いらっしゃいませ」を云う。
いつもなら、私も云っていた。否、いら、あたりまでは云ったと思う。
しかし、お客様の顔を見て言葉を飲み込んでしまった。
そこに現れたのは2~3歳くらいの女の子を連れた男女。男は、優一だったから。
「魅子、どうしたの?」
ウェイトレス仲間が、呆然と立ち尽くしている私に声を掛けてきた。
我に返って、愛想笑いで誤魔化すが、お水を持って行く役は彼女に取られたようだ。
「魅子、あの お客さん。知ってる人?」
「うん」
ふ~ん、と別の仲間、恵美が云う。
「気をつけた方がいいよ。あの子、魅子のことライバル視してるって噂だよ」
「何、それ」
「たぶん店長に気があるから。妬いてるんじゃない!?」
その時、別のお客様が入ってきたことで、恵美は仕事に戻った。
私担当のテーブルから戻ってきた彼女、坂上朋美がメニューに合わせセッティングを始めている。
「ありがとう。あとは私がやるから」
朋美に声を掛けると、確かに尋常でない目つきで睨まれたように感じた。
何か、したっけ?
朋美は、ふん、と溜息のような侮蔑のような、よく分からない言葉を残し厨房の方へ歩いていった。
私は、放り出すように置かれたトレーを布巾で拭き直し、改めてセッティングを始める。程なくして調理が済み料理が出てくると、それをトレーに並べ、私は優一のいるテーブルへと向かった。
「お待たせ致しました」
「お前、魅子か」
思いがけず優一は私に声を掛けてきた、彼女がいるにもかかわらず。。。
きっと彼女も何かしら思うところはあったろうし、優一も、その後に続く言葉があったように思う。
しかし、小さな女の子は運ばれた自分の料理に歓声をあげ、ふたりは彼女の言葉に集中した。
私は料理を少女の前に置くと、その場を離れた。続く料理の時は別のお客様の接待にあたり、やがて優一たちが精算にやってくるまでテーブルに行くことはなかった。
「有り難うございました」
という決まり文句が聞こえた。
私は彼らの姿を見たくなくて、空いたテーブルを片付けていた。すると、
「魅子」
突然、後ろから声がして、振り返ると優一が立っていた。
「何?」
「話がある。新しい携帯の番号、教えてくれないか」
「何云ってんの? 私、携帯変えてないよ」
「嘘…」
「嘘なんか云わない。変わってない」
「ごめん。じゃ、俺も変わってないから… できれば掛けて欲しい、もう一度」
その時の優一の顔が、何だか、酷く辛そうに見えて、私は黙って頷いた。
その日は遅番だった。時間ができたのは深夜一時。流石に電話をするには遅すぎた。
翌々日、早番のシフトに変わり、自分の部屋の時計を見ると午後4時25分。バッグから携帯を取り出す。メモリーを探すと、目指す番号は簡単に見つかった。
かなりの時間のためらいを過ぎ、一瞬の勇気で発信のボタンを押す。
~おかけになった電話番号は、お客様の都合により、お繋ぎできません~
To be continued