『君戀しやと、呟けど。。。』

此処は虚構の世界です。
全作品の著作権は管理人である紫草/翆童に属します。
無断引用、無断転載は一切禁止致します。

作品bより~『残像』 完結編

2010-02-07 20:14:00 | 作品b 【掌編】
 あれは予兆だったんだろうか。
『お願いがあるの。初日とかでなくていいから、早めの日にちでチケットを譲ってもらえる?』
 お前から初めて強請(ねだ)られて、有頂天になった。
 でも、そんなチケットなど取るんじゃなかった。時間は戻らない。どんなに悔やんでも、もう遅い…

 一度は、失ってしまったと思った宝物。取り戻した、と思っていた。
 もう二度と手離すことはない、と信じていたのに…
 神はあっけなく、彼奴を連れ去った。その手元に置くために。

 葬送の列に、並ぶことを許されなかった俺。
 芸能を生業とするものの、宿命。公演は何があっても、続けられる。
 あの日の公演を観ることのなかったお前に、心残りはないんだろうか…

 闇夜、短い時間の最后の逢瀬。夜の帳が二人を隠す――。

 一生を同じ空間に在ると、共に誓った永遠は二度と訪れない。
 彷徨いゆく闇の中、いまは亡き姿を捜す。

 夢幻。

 優しい光りに包まれて、それは空に散った。
 見上げた天空からは、静かに白いものが舞い落ち始める。

 愛してる、いつまでも。
 そして決して忘れない。その声音も、その姿態も。ほんの束の間の、逢瀬でさえも。
 この命尽き果てる、その最期の一瞬まで――。
                        【終わり】
                             著作:紫草



  【作品b】のHPを立ち上げました。
    これまでの作品を全て移行してのスタートです。
    時間が許しましたら、覗いてみて下さい。
    本家サイト共々、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
                         紫草 拝
コメント    この記事についてブログを書く
« Penguin‘Cafe『Valentineのお... | トップ | 作品bより~『忘れられない... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

作品b 【掌編】」カテゴリの最新記事