『君戀しやと、呟けど。。。』

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『誂え』3

2008-09-30 17:09:05 | ショートショート
 あの日。
 十年前の誕生日会。
 あの会場から消えた真亜。
 そして、そのまま真亜は帰ってこなかった。
 いや、家に連絡は入っていると思うけれど、訪ねて行っても教えてはくれなかった。

 あの後、祖母に仕組まれたように見合いをすることになっていた。
 相手は同じ学校の三年生。西陣の織物を扱う老舗の次男というふれこみだった。
 冒頭から婿養子の話が始まり、どんどん進んでしまう焦りと見合いという現実に呆然としたまま言葉もなかった。どうにもならず親の顔を見ても、親ですら困っていた。祖母の勢いに負けていたから。頭にきた美紗緒は、膳をひっくり返すことで漸く話が止まったのだ。
 その後、祖母に物凄く怒られたが、自分の結婚を勝手に決めるなと怒鳴り返した。
 でも同じ学校の先輩だったことが災いし、翌日には婚約の話が学校中に広まっていた。
 その後、真亜は一度も登校することなく、彼が退学したと知ったのは見合いの三日後のことだった。

 それから十年の月日が過ぎた。
 祖母は未だ健在だ。お蔭で美紗緒も独身のままだった。
 真亜は、何処に行ったのだろう。
 美紗緒が彼に逢うことは、もう二度とないように思うのだった。

「真亜。逢いたいよ…」
 もう何年も儀式のようになってしまったベランダでの呟きに、流れ星がタイミングよく見えた。
「あ」
 残念… 三回言えなかった。
「真亜。私、もうすぐ二十六になるよ」
 おばあちゃんとの約束の期限がくる。
 無理矢理婚約させられたあの時、二十六の誕生日までは自由でいたいと言い張った。真亜がいなくなってしまって、その約束が本当に貴重な時間になった。
 でも、その期限すら終わりがくる。
「お願い、真亜。帰ってきて」
 でないと、どこにも逃げ場がない。

               To be continued
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