『君戀しやと、呟けど。。。』

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『誂え』4

2008-10-01 17:09:57 | ショートショート
「今年のお茶会も、盛大ですなあ」
 そんな言葉を聞きながら、美紗緒の気分は最悪だった。
 祖母が約束を持ち出し喜んで婚礼の日取りを決めると走り回っているし、両親からは、もう諦めろと説得される。
 冗談じゃない、と言い切るには美紗緒は年を重ね過ぎたと感じてしまう。
「先輩が、もっと嫌な人ならよかったのに…」
 雛壇に一人残ったまま、先輩だった結城忍が挨拶を続けている。
 どうして彼は、一緒に待つなんて言うんだろう。真亜が帰ってくるなんて、もう誰も信じてくれないのに。
 でも、その約束も今日で終わる。
 明日になれば、本当に結納の仕度を始めなければならない。

 諦めて結婚するなんて、絶対やだ。
 真亜に振られてからじゃないと、先に進めない。

 毎年恒例のお茶会に美紗緒が不機嫌なことも周知の事実。
 十六の会のあの翌年から、美紗緒は人前で笑わなくなった。
 もう誰も寄ってこない。
(似合わなくなっちゃった振袖に、そろそろ鋏を入れようかな)
 二階にある会場から外についている廊下のようなベランダに出る。
「美紗緒、これ」
 振り返ると結城がグラスを二つ持って立っている。
「ありがとう」
 お礼を言いながら受け取ると、彼も手すりにもたれてグラスを傾ける。
「庭の方も賑わってるな」
「今年は、おばあちゃんが張り切ってるから」
 美紗緒の苦笑いに、結城がため息をついた。
「美紗緒。本当に結婚する?」
 その問いは、美紗緒には残酷な響きに聞こえる。

 結婚…
 その言葉の持つ意味も、すでに家に入り仕事をしている結城の立場を考えると、簡単に止めるとは言えない。
 美紗緒は半分諦めの境地で、遠くを見た。
 その時、庭の野点をしている奥の裏門から入ってくる人影が見えた。
「誰か、入ってきた」

 美紗緒の返事ではない言葉に結城は、美紗緒の顔を見た。
 すると、みるみる変わってゆく彼女の表情に何かを見た。
「まさか…」
 その視線の先を追う。
「美紗緒!」
 駆け出した美紗緒を引きとめる言葉を、結城は持っていなかった。
「最後に笑うのは、俺だと思っていたのにな」
 残っていた水割りを一気に飲み干し、結城は会場に戻った。

               To be continued
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