『君戀しやと、呟けど。。。』

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『ともしび』第六章 その壱

2018-06-21 00:11:23 | 小説『ともしび』
第六章 その壱

「おじいちゃんが倒れた」
 月斗(つきと)の脳は一瞬、その言葉の意味を解読することを拒否した――。

 母から最初のメールが届いた時、宛先は月斗と京音(けいと)の二人になっていた。それは、もうすぐ叔父さんの一周忌法要があるねと話していた矢先のことだった。寒い冬の風が、こたえた。
 この時は学校にいたけれど、二年と三年ではキャンパスが違う。京音に連絡をとろうと思ったところで携帯が鳴った。彼だった。
 その日、午後の授業を休めないという彼は連絡を待っていると言って電話を終わらせた。自分の方が動けそうだ。母に電話をすると、父も早退してくるという。帰宅して三人で本家へ向かうことになった。
 清夜(せいや)の話は出ない。彼奴はどんな答えを出したのだろうか。

 そんな様々な思いを抱え、月日は流れていった。
 それはある意味、最悪の結果となってしまった。祖父は一命をとりとめたものの右半身に麻痺が残った。昔気質といえば聞こえはいいが、単に融通の利かない頑固な人だ。そして看護に疲れてしまった祖母までもが病に伏した――。
 父が一番多く通っている。母は仕事、子供たちは学校があることを理由に揃って行くことはなく、それぞれが月に一度くらいの頻度で見舞う感じだった。祖父は早々に退院をすることが決まったが、叔母が嫌がりまだ入院している。祖母も入院することになって、高額の差額代を払って二人で一部屋に入っている。祖母は同じ部屋にいると祖父の身の回りの世話をしてしまう。医師からも祖父に必要なのは世話をする人ではなく、自身のリハビリだと言われた。叔母の我が儘もそろそろ限界だろう。

 その後、叔母からの電話が頻繁にかかってくるようになった。
 当初は清夜も話していたが、最近は嫌がるようになり替わらないことも増えた。そしてお金の話が始まった。清夜の学費を含めたお金の問題が表面化したのだった。
 驚いた。
 清夜の口からも、叔母はお金がないと言うのが口癖だと聞いていた。しかし自分には保険金があった。
 両親が死んで保険金が下りた。それを平等に半分にしてそれぞれの親が管理をしているんじゃなかったのか。
 それなのに向こうにはお金がないという。

 叔父さんが亡くなり、使ってしまったんだろうか。
 分からない。
 では、清夜の学費や養育費はどうなっているんだ。最近、仕事が増えたといって母は家を空けることが多い。もしかしたら清夜のせいか。彼奴にかかるお金が足りないんじゃないだろうか。想像は悪い方へと流れていく。一度、京音に相談してみようと思った――。

 これまで月斗が聞かされていたのは、保険金は何割かは使うということ。何割かは将来のために残してあること。そして毎年、お年玉としてもらっているのは二通のポチ袋。一袋は勿論、今の両親から。一方は実の親の名が書いてあって、考えて使うようにと言われている。金額を聞いたことはないが、半分ずつにした筈なのに、そんなに差がつくものなんだろうか。
 清夜のことを預かると決めた時、こんな未来を予測するなんて不可能だ。
 昔気質の祖父と、恋女房の祖母。昔から知っている隣近所の人は二人をそう表する。実際は麻痺の残る祖父と、同じく病に付した、かなり年上の祖母だ。介護など殆どしていない、という清夜の言葉を信じれば、祖父の面倒は祖母が看ている。今は同じ病室にいるものの、祖母が亡くなったらどうするのだろう。
 その前に、祖父の退院が決まったらどうするのだろう。

 結局、月斗は何も分からないまま、毎日を過ごしている。本家に行く回数が増える両親に様子を聞いても、今はあまり変わらないとしか言われない。
 清夜自身は無関心に見える。これから、本当にどうなってしまうのだろう……

To be continued. 著作:紫 草 
 
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