『君戀しやと、呟けど。。。』

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『そして蝶になる』

2008-09-11 09:04:09 | ショートショート
 卵で産まれ幼虫となり、蛹を経ての完全変態をする蝶。
「いつか私も蝶のように、ちゃんとした大人の女性になれるかな」

 少しずつ内容が変わっていって、でも必ず最后は決まってた。
「私が蝶になったら、かっちゃんが籠に入れて飼ってよね」
 どうして俺が飼うんだと、聞いても何も答えない。
 いつから、こんなこと言い出したんだっけ。
 もう随分前… 子供の頃。
 小学校の、そうだ。あいつが越してきたのは小学一年の夏休みだった。

「なあ、その蝶になるってヤツ。いつから言ってるか、憶えてる?」
 佳奈はそう言う俺の顔を見て、勿論と微笑んだ。
 もちろん、かぁ。
 憶えてないから教えてくれって言ったら、絶対怒るよな。
 どうして蝶なんだろ。
 どうして俺が飼うんだろ。
 何となく聞きそびれたまま、もう十年がたったことになる。ってことは、佳奈に片思いして十年ってことか…
 何か、虚しい十七歳。

「かっちゃん、明日はお昼どうする?」
「部活あるから、パス」
「分かった」
 これは、もう帰れの合言葉。
「じゃ、お休み」
 同じ町内の通りを隔てた場所に佳奈の家はある。そこを出て、暗くなったいつもの帰り道を歩く。
 月が少しだけ欠けて、明るく道を照らしてた。

「おばさん…」
 翌朝、佳奈を迎えに行くと、玄関先に佳奈のお母さんが立っていた。
「克彦君、ごめんね。佳奈、今日欠席」
「え。どうして」
「また、頭痛いんだって」
 佳奈は時々、起きられないくらいの頭痛に襲われる。
 いろいろ検査して、結局、性格からくる緊張性頭痛としか言われなかった。
 だから頭痛が始まったら、痛みが去るのをひたすら待つ。
「分かりました。行ってきます」
 おばさんが行ってらっしゃいと声を掛けてくれる。それを聞きながら、佳奈の声ってだんだん似てくるって思った。
「後でメールします」
 振り返って、まだおばさんの姿がそこにあるのを見たから、そう叫んだ。
 何度も繰り返した光景。今日の佳奈もベッドの上か。
 健康体の筈なのに、どうしてこんなに弱いんだろうと、おばさんはよく口にした。
 分からない。
 ただ、いつかは元気になるよ。
 子供の頃から、そう繰り返した。

 折角の高校生活、なかなかバカップルにはなれないや。

          To be continued
                     著作:紫草
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