卵で産まれ幼虫となり、蛹を経ての完全変態をする蝶。
「いつか私も蝶のように、ちゃんとした大人の女性になれるかな」
少しずつ内容が変わっていって、でも必ず最后は決まってた。
「私が蝶になったら、かっちゃんが籠に入れて飼ってよね」
どうして俺が飼うんだと、聞いても何も答えない。
いつから、こんなこと言い出したんだっけ。
もう随分前… 子供の頃。
小学校の、そうだ。あいつが越してきたのは小学一年の夏休みだった。
「なあ、その蝶になるってヤツ。いつから言ってるか、憶えてる?」
佳奈はそう言う俺の顔を見て、勿論と微笑んだ。
もちろん、かぁ。
憶えてないから教えてくれって言ったら、絶対怒るよな。
どうして蝶なんだろ。
どうして俺が飼うんだろ。
何となく聞きそびれたまま、もう十年がたったことになる。ってことは、佳奈に片思いして十年ってことか…
何か、虚しい十七歳。
「かっちゃん、明日はお昼どうする?」
「部活あるから、パス」
「分かった」
これは、もう帰れの合言葉。
「じゃ、お休み」
同じ町内の通りを隔てた場所に佳奈の家はある。そこを出て、暗くなったいつもの帰り道を歩く。
月が少しだけ欠けて、明るく道を照らしてた。
「おばさん…」
翌朝、佳奈を迎えに行くと、玄関先に佳奈のお母さんが立っていた。
「克彦君、ごめんね。佳奈、今日欠席」
「え。どうして」
「また、頭痛いんだって」
佳奈は時々、起きられないくらいの頭痛に襲われる。
いろいろ検査して、結局、性格からくる緊張性頭痛としか言われなかった。
だから頭痛が始まったら、痛みが去るのをひたすら待つ。
「分かりました。行ってきます」
おばさんが行ってらっしゃいと声を掛けてくれる。それを聞きながら、佳奈の声ってだんだん似てくるって思った。
「後でメールします」
振り返って、まだおばさんの姿がそこにあるのを見たから、そう叫んだ。
何度も繰り返した光景。今日の佳奈もベッドの上か。
健康体の筈なのに、どうしてこんなに弱いんだろうと、おばさんはよく口にした。
分からない。
ただ、いつかは元気になるよ。
子供の頃から、そう繰り返した。
折角の高校生活、なかなかバカップルにはなれないや。
To be continued
著作:紫草
「いつか私も蝶のように、ちゃんとした大人の女性になれるかな」
少しずつ内容が変わっていって、でも必ず最后は決まってた。
「私が蝶になったら、かっちゃんが籠に入れて飼ってよね」
どうして俺が飼うんだと、聞いても何も答えない。
いつから、こんなこと言い出したんだっけ。
もう随分前… 子供の頃。
小学校の、そうだ。あいつが越してきたのは小学一年の夏休みだった。
「なあ、その蝶になるってヤツ。いつから言ってるか、憶えてる?」
佳奈はそう言う俺の顔を見て、勿論と微笑んだ。
もちろん、かぁ。
憶えてないから教えてくれって言ったら、絶対怒るよな。
どうして蝶なんだろ。
どうして俺が飼うんだろ。
何となく聞きそびれたまま、もう十年がたったことになる。ってことは、佳奈に片思いして十年ってことか…
何か、虚しい十七歳。
「かっちゃん、明日はお昼どうする?」
「部活あるから、パス」
「分かった」
これは、もう帰れの合言葉。
「じゃ、お休み」
同じ町内の通りを隔てた場所に佳奈の家はある。そこを出て、暗くなったいつもの帰り道を歩く。
月が少しだけ欠けて、明るく道を照らしてた。
「おばさん…」
翌朝、佳奈を迎えに行くと、玄関先に佳奈のお母さんが立っていた。
「克彦君、ごめんね。佳奈、今日欠席」
「え。どうして」
「また、頭痛いんだって」
佳奈は時々、起きられないくらいの頭痛に襲われる。
いろいろ検査して、結局、性格からくる緊張性頭痛としか言われなかった。
だから頭痛が始まったら、痛みが去るのをひたすら待つ。
「分かりました。行ってきます」
おばさんが行ってらっしゃいと声を掛けてくれる。それを聞きながら、佳奈の声ってだんだん似てくるって思った。
「後でメールします」
振り返って、まだおばさんの姿がそこにあるのを見たから、そう叫んだ。
何度も繰り返した光景。今日の佳奈もベッドの上か。
健康体の筈なのに、どうしてこんなに弱いんだろうと、おばさんはよく口にした。
分からない。
ただ、いつかは元気になるよ。
子供の頃から、そう繰り返した。
折角の高校生活、なかなかバカップルにはなれないや。
To be continued
著作:紫草