今帰ったお客さんで、一息ついた感じだった。
「そろそろ外の椅子、増やした方がいいかな」
そう言いながらマスターが、外に出してあるテーブルセットの数を数えに行く。
「涼しくなってきたので、恋人たちは外の方がいいかもしれないですね」
マスターの言葉に答えるように、真夏に片付けてあった分のセットを奥の物置に取りに行った。
珈琲SHOP“風車”
この店が、一年で一番流行る秋がやってくる。此処は恋人たちの隠れたデートスポットでもある。
小さな町の喫茶店、それがタウン情報誌に載ったのは五年前。
最初はコーヒーの美味しいお店として。
次は、アイスコーヒーにメロンが一切れ付いているからって。
ラストは、この店のテラスで恋人同士がお茶をすると永遠に結ばれるという話から。
「莫っ迦莫迦しい。そんなの信じてんの」
カウンターに座り、威勢よくチョコレートパフェを食べているのは、その情報誌の記事を書いた張本人。
「イッて!」
彼の後頭部を叩きながら、マスターがお前が言うなと戻ってきた。
マスターは若い頃、サラリーマンをしていたらしい。
でも、お父さんのやっていたこの喫茶店を継ぐために帰ってきた。唯一の財産だと、ふざけて言うけど結局は好きだから続けてる。
「祐樹のパフェだけ、値上げしよう」
私は新しい伝票をめくると、金額に¥5000と書き込んだ。
「お前、何勝手なことしてんだよ。俺は原稿料なしに宣伝してやってるんだから、いいの」
そうして伝票をひったくると、ビリッと破ってしまった。
「誰が頼んだ」
マスターの額が祐樹の額にくっ付くと、ん!? と確認するように上から見下ろしている。
「何すんだよ。もう子供じゃないぞ」
祐樹がマスターの胸を突き飛ばすように、文句を言った。
「当たり前だろ。弟の分際で二十五まで居候してる立派な大人だもんな」
その言葉に顔を赤くして、更にパフェを頬張る祐樹である。
今年の春、私は大学生になった。
ここでバイトするようになって半年、早生まれの私はいつまで経っても子供扱い。これでも大人になったつもりなんだけれどな。
でも、子供の頃から大好きだったこのお店でバイトができる。
小さな胸を痛めて想い焦がれた少女の私は、今は大好きな彼のそばにいられるだけで幸せ。
「沙織ちゃん。美味っしい珈琲、お願い!」
マスターがウィンクしながらカウンターに座り、祐樹が俺も、と人差し指を立てた。
「どうせなら外、出ませんか」
私はコーヒーフィルターをセットしながら、カウンターにいる二人に声をかけた。
折角のテラス、秋の最初に自分たちで楽しんだってバチは当たらない。
「先に出てて下さい。淹れたら持って行きますから」
そう言うと、マスターがOKと席を立つ。
途中、店の中ほどにある小型の冷蔵庫から、レアチーズケーキを二つ取り出していくのが見えた。
また、マスターは食べない気だな。
何だかんだ言っても、祐樹には甘いんだから。
カウンターの下にある、こちらの小さな冷蔵庫から私は生クリームを出した。
じゃ、マスターには、とびっきり美味しいウィンナ珈琲を出してあげようっと――。
To be continued
著作:紫草
「そろそろ外の椅子、増やした方がいいかな」
そう言いながらマスターが、外に出してあるテーブルセットの数を数えに行く。
「涼しくなってきたので、恋人たちは外の方がいいかもしれないですね」
マスターの言葉に答えるように、真夏に片付けてあった分のセットを奥の物置に取りに行った。
珈琲SHOP“風車”
この店が、一年で一番流行る秋がやってくる。此処は恋人たちの隠れたデートスポットでもある。
小さな町の喫茶店、それがタウン情報誌に載ったのは五年前。
最初はコーヒーの美味しいお店として。
次は、アイスコーヒーにメロンが一切れ付いているからって。
ラストは、この店のテラスで恋人同士がお茶をすると永遠に結ばれるという話から。
「莫っ迦莫迦しい。そんなの信じてんの」
カウンターに座り、威勢よくチョコレートパフェを食べているのは、その情報誌の記事を書いた張本人。
「イッて!」
彼の後頭部を叩きながら、マスターがお前が言うなと戻ってきた。
マスターは若い頃、サラリーマンをしていたらしい。
でも、お父さんのやっていたこの喫茶店を継ぐために帰ってきた。唯一の財産だと、ふざけて言うけど結局は好きだから続けてる。
「祐樹のパフェだけ、値上げしよう」
私は新しい伝票をめくると、金額に¥5000と書き込んだ。
「お前、何勝手なことしてんだよ。俺は原稿料なしに宣伝してやってるんだから、いいの」
そうして伝票をひったくると、ビリッと破ってしまった。
「誰が頼んだ」
マスターの額が祐樹の額にくっ付くと、ん!? と確認するように上から見下ろしている。
「何すんだよ。もう子供じゃないぞ」
祐樹がマスターの胸を突き飛ばすように、文句を言った。
「当たり前だろ。弟の分際で二十五まで居候してる立派な大人だもんな」
その言葉に顔を赤くして、更にパフェを頬張る祐樹である。
今年の春、私は大学生になった。
ここでバイトするようになって半年、早生まれの私はいつまで経っても子供扱い。これでも大人になったつもりなんだけれどな。
でも、子供の頃から大好きだったこのお店でバイトができる。
小さな胸を痛めて想い焦がれた少女の私は、今は大好きな彼のそばにいられるだけで幸せ。
「沙織ちゃん。美味っしい珈琲、お願い!」
マスターがウィンクしながらカウンターに座り、祐樹が俺も、と人差し指を立てた。
「どうせなら外、出ませんか」
私はコーヒーフィルターをセットしながら、カウンターにいる二人に声をかけた。
折角のテラス、秋の最初に自分たちで楽しんだってバチは当たらない。
「先に出てて下さい。淹れたら持って行きますから」
そう言うと、マスターがOKと席を立つ。
途中、店の中ほどにある小型の冷蔵庫から、レアチーズケーキを二つ取り出していくのが見えた。
また、マスターは食べない気だな。
何だかんだ言っても、祐樹には甘いんだから。
カウンターの下にある、こちらの小さな冷蔵庫から私は生クリームを出した。
じゃ、マスターには、とびっきり美味しいウィンナ珈琲を出してあげようっと――。
To be continued
著作:紫草