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月子のティーハウス
(moon child's tea house)
第 8 話 月子の手紙
秋も深まった日曜日の朝7:30分
休日であったが男は目を覚ました
(何となくもう眠れない)
男は起きることにした
テーブルの上には
前日に購入したミックスサンドイッチとバナナがある
冷蔵庫を開けると
紙パックのオレンジジュースとミニトマトを取り出した
朝食を済ませ、歯磨きも終えると新聞を取りに行った
「…?」
ドアポストにオフホワイトの封筒が入っている
手に取ってみると、少し濡れている
切手は無く宛先も書かれていない
裏面を見た
月子
男は呼吸が少し早くなった
部屋に戻ると、引き出しからハサミを取り出し慎重に封を切った
もう一度、ゆっくりと確かめるように読み直した
みょうがは出かける支度を始めた
ご一読ありがとうございました
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月子のティーハウス
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第7話 月子の祈り
秋が深まった満月の夜、今日は風が止んでいる
生成り色のコットンワンピースを月子は着ている
襟は少し高く、胸元にはレースがあしらわれている
藤のバスケットを抱え、けもの道を通り
月子はひとみ川へ向かった
風の無いひとみ川は穏やかで、淀みは流れが止まっている
小瓶の蓋を開け清酒を差し上げ
瞳を閉じ、月子はお祈りを捧げた
結んでいた髪をほどいた
はらりとした髪が背中に届く
月子はひとみ川へ入って行く
川の水は、冷たく痛くそして重い
淀みに達すると手紙の入ったバスケットを浮かべた
天を見上げ、月子は満月と目を合わせた
「ふっ…」、誰かが息を吹きかけてくれた
(ひとみさん、ありがとう)
手紙の入った藤のバスケットは、ゆっくりと動き始めた
闇に溶けゆくまで月子は手紙を見送った
ご一読ありがとうございました
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月子のティーハウス
(moon child's tea house)
第 6 話 祈りの前に
秋の午後のティーハウス
(今日、訪ねて来る人はいない)
月子にはわかっているようだ
レモングラスとミントのハーブティーを月子は淹れた
口にすると鼻の奥に香りが広がった
髪を後ろに束ね、月子はレターBOXを取り出した
BOXの中には、オフホワイトの封筒・便箋・モンブラン万年筆
(マイスターシュテック)が入っている
インクカラーはブルーブラック
ティーハウスのテーブルの上で、月子は手紙を書き始めた
さらさらとした時間が流れる
手紙の途中でハーブティーを飲んだ
(トントン)
…月子は笑った
ハーブティが冷めた頃、月子は手紙を書き終え
もう一度文面を確認してから封筒に入れた
最後に封かんをして、パラフィン紙で手紙をラッピングした
小さな藤のバスケットを取り出し
清酒の小瓶と共に、月子は手紙を入れた
ご一読ありがとうございました
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最終話となります、よろしくお願いいたします
月子のティーハウス
(moon child's tea house)
第9話 おでむかえ
晩秋の陽光が、ティーハウスの窓を通して入って来る
微細な宝石のように、光はキラキラと輝いている
遅咲きのオールドローズを一輪挿しに入れ、月子はテーブルの上に飾った
まつざわたかしくんは、すでに来ていた
窓の近くの椅子に腰かけている
今日のまつざわたかしくんは、微笑みながら練習をしている
(…とう、ありがとう、ありが…)
足元には、さくらがくつろいでいる
こぼれるように月子は笑った
水の入った銅製のケトルが弱火にかけられている
ジャスミンティの茶葉を取り出し、月子はティーポットに入れた
ボーンチャイナの白いマグカップが取り出され
温めてあるオーブンの側には、少し大きめのカヌレが用意されている
ガスの火を止め、月子は耳を澄ませた
木の葉の擦れる音が聞こえ、ひとみ川の川音がする
そして落ち葉を踏む足音が、次第に近づいて来る
(シャクサク・シャクサク)
月子は頷いた
ドアを開け、エントランスの外へ出た
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
お読み頂きありがとうございました