えまのんは、子どもの頃に聞いた親族の話しをベースにいたしました
*emanon は綴りを反対にすると no name となります
英語では、言葉遊びのように使われているようです
どうぞよろしくお願いいたします
月子のティーハウス
(moon child's tea house)
番外編 えまのん/emanon
日没が少しずつ早くなり
ティーハウスにはすでに灯りが点いていた
(パシッ)
ラップ音がした
月子が振り返るとぼんやりと人が立っていた
乳白色のムーンストーンの様な顔色
そして物憂げな表情の女性
「月子さん、お時間はまだよろしいでしょうか?」
「いらっしゃいませ、どうぞお掛けください」
椅子に腰掛けると女性はお願いをした
「シードルを飲みたいのですが…、銘柄は問いません」
「はい、ご用意出来ます」
冷蔵庫を開け、月子は辛口のシードルを取り出した
ゴブレットに注ぎ、小皿に入れたミックスナッツと共にテーブルに運んだ
ゴブレットのシードルの泡は、星屑の様にキラキラと瞬いている
女性はシードルを飲んだ
「冷たくて美味しいシードルですね」
「良かった、ありがとうございます」
◇
「今日は弟の事が心配でお伺いをいたしました」
女性は話し始めた
「毎日を精一杯、弟は生きておりますが
私には彼を助けることが出来ないのです」
「弟さんを助ける術がないのですか」月子は尋ねた
女性は小さく頷いた
「それは私がこの世に産まれることが無かったからです」
月子は言葉を失った
「自分が女性か男性なのかも、最初はよく分からなかったのです」
「…そう、私はえまのんです」
ゆっくりと月子は頷き返した
「時折、弟は私の事を想ってくれているようです」
「いたたまれなさから、今日はこちらへお邪魔をいたしました」
もう1口、えまのんはシードルを飲んだ
「遠い遠い先であって欲しいのですが
私は弟をお迎えに来ようと思います」
月子は静かに聞いていた
「弟をねぎらい、一緒に連れて行ってあげようと思っております
そして今度は、弟と2人でこちらへお伺いしたいのです」
「是非いらしてください、遠い遠い先の事ですね」
月子は微笑んだ
「そうしたら3人でお話しが出来ますよね」
嬉しそうに、えまのんは言った
「もちろんです、シードルもご用意しておきます」
えまのんと月子は顔を合わせて笑った
ご一読ありがとうございました