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月子のティーハウス
(moon child's tea house)
第5話 パネラ
夕日が沈み、月子はティーハウスに明かりを灯した
窓からは寂しそうな秋のオールドローズが見えた
「月子さん、遅い時間によろしいですか?」
小柄な女性は、思春期の少女にも成人にも見えた
「いらっしゃいませ、構いません」月子は答えた
「赤ワインはありますでしょうか?」
「テーブルワインでよろしければご用意できますが」
「うれしい、お願いします」
月子は赤ワインをカラフェに移した
バカラのワイングラスを用意し、カマンベールチーズとクラッカーと共に運んだ
「私、名前はいくつもあったの、でもパネラって呼んでください」
「パネラさんは、いろいろな所にお住まいだったのですか?」
「ええ、いろいろな所、そしていろいろな時間です」
パネラは赤ワインを一口飲んだ
「月子さん、私薔薇になりたいんです」
「…」月子は少し困った顔をした
「月子さん、薔薇はお好きですか?」
「ええ、もちろん好きです。綺麗ですよね」
もう一口、パネラは赤ワインを飲んだ
「どうして薔薇は、綺麗なのかわかりますか?」
「ごめんなさい、おかしな問いかけをして」パネラは恥ずかしそうに俯いた
「(薔薇は)…美しくて儚いからでしょうか?」月子は答えた
「やっぱり月子さんはわかっているわ」
「薔薇は限りがあるから美しいと思うの」
パネラはグラスに残っていた赤ワインを飲み干した
「明日、私は朝日を浴びようと思うの」
「そして私は薔薇になるの」
「ごちそうさま月子さん、とても美味しい赤ワインでした」
こぼれ落ちそうな目をしてパネラは言った
「ありがとう…」
(パネラさん…)
呼びかけようとしたが、パネラは夜の闇へ溶けていった
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