金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

プロポーズ小作戦68

2009-05-04 23:08:02 | コードギアス
プロポーズ小作戦68
2020年11月

プライベート用の番号を使ったせいか、天子の口調は少女のそれになっている。
「そうなの。ジノおにいちゃんは一番速いでしょう。だからコウノトリを捕まえに連れて行ってほしいの」
「星刻は何をしているんだい」
さりげなく尋ねる。
「星刻は、洛陽に帰っていないの。蓬莱にとても大切な人がいるから」
エぇえええええええええええ!!!
思わずジノもナナリーやギルフォードの同類になるところだった。あいつ公然と浮気しているのか!!!

折り良く入ってきたシュナイゼルがちらりとジノの携帯を見て、こう言ってくれなければ。
「蓬莱島の麗人の名を藤堂と申します。中華の支配者殿」
「と、とーどー」
「ヴァインベルグ卿、発音は正確にするように」
「は、あはい」






シュナイゼルはいちいち説明しなかったが真相はこうだ。
妻を失った男は夢の一夜がどういう現実かを知った後、己の愛剣を道場の飾りにと寄贈した。街は大騒ぎ。さっそくホームページを作り、奇跡祭りなるお祭りまで企画した。
その騒ぎに一日だけ付き合って藤堂はふらりと故郷を出た。
ここでも自分は奇跡の英雄であるのだ。今の姿を見せることはできない。
どこに行こうかと思い、行き先が無い事に気が付く。どこに行っても、自分の虚像はいる。
半日ぼんやり過ごした後、半ば夢遊状態で蓬莱島に来ていた。そこで急に腰に激痛を覚え動けなくなった。
偶然か必然か、ゼロに見つけられそのままラクシャータ・ロイド・セシルの預かりとなった。
トイレにも行けず、うめくばかりの藤堂だが、診断は簡単だった。40腰である。
精神的な疲れと、虚脱が腰に来たというわけである。この年齢で妻を亡くした男には時折あることだ。
世に言うところの魔女の一突きに襲われたわけだ。


星刻は精神の痛みを肉体に代行させた。
藤堂は肉体の痛みが精神の痛みを食いつぶした。
誇り高い軍人の藤堂が赤ん坊さながらにオムツを当てられ、寝台に転がされている。

ラクシャータからの極秘連絡で藤堂が病中にあると知ったとき、星刻は会議後の疲れた身体を休めることもせず、蓬莱島にとんぼ返りした。
そして蓬莱島で藤堂の状態を聞き、敢えて会わずに帰ろうとした。
藤堂がどういう男か星刻は知っている。そんな藤堂がオムツを当てられ、転がされている。ラクシャータによると40腰は無理に動くと癖になるから、とにかく動かずに我慢するしかないという。

戻ろうとした星刻をラクシャータが止めた。
「会いなさい。藤堂のためにもあんたのためにも今会うのが絶対に必要だから」
普段の口調とは異なるきっぱりとした断言。
その言葉に操られるように星刻は藤堂の部屋に入った。鼻に付くのは消毒液の臭い。
それに混じる隠せない排泄物の臭い。
「しんくー?」
気配で誰と悟ったのだろう。藤堂が視線だけを向ける。
惨めな姿である。
奇跡の男の現状は。
しかもシーツすらかけてもらっていない。
実は意図的にラクシャータが取り去ったのだ。

まっすぐな視線が星刻を射抜く。こんな状態でさえ、藤堂は美しい。
初めて藤堂を見たときから思った。この男をほしいと。
部下にとまでは望めない。友などとは呼べない。
立場が縛る。
だからただ同じ方向に歩く存在でいいと。
世間では星刻と藤堂は並び立つ存在とされている。
しかし、違う。
私は逃げている。自分の意識の深さから。底に制御できない感情があるから。
星刻の手は自分ののどに触れる。見た目ではわからないがでこぼこした触感がある。
ここに押し付けていた。正義の戦いで負った傷だからと、言い訳が効くから。

「藤堂さんはお変わりありませんね」
「あぁ」
会話はそれだけ。

ラクシャータの部屋に走った星刻は至急に血管および気管の再生のオペを受けると伝えた。




一旦洛陽に戻って部下達に必要な指示を出し、また蓬莱島にとんぼ返り。
天子の顔を見たのは公式の謁見の間で数分間。しかも天子が席を立ったことさえもこの男は気が付かなかった。


すれ違い。
星刻はこのオペが終わればもう逃げないと心を決め、天子は星刻が見えないし聞こえない。
だから決めた。私と星刻のコウノトリを探しに行こうと。








ジノは息を整えた。よくわからないが星刻は浮気していない。いや、男の方が女より厄介な場合もあるが、まさか、相手は藤堂だし、何かの話し合いだろうな。そう考えて納得する。



ではコウノトリの話はどういうことか。大きく分けて2つの意味が考えられる。
ひとつは男に対して懐妊を伝え責任を取らそうとするもの。この場合男とはジノである。
もうひとつは、普通なら考えられないが、ほんとうにコウノトリをほしい場合。

あれこれ考える必要はない。天子にまっすぐに聞けばいいのだ。
「天子ちゃんはコウノトリを捕まえてどうするのかな」
「私と星刻の赤ちゃんを早く連れてきてもらうの。赤ちゃんがいればきっと星刻も帰ってくるわ。本に書いてあったもの」
いつの間にかナナリーとギルフォードがジノの携帯をがん見している。
彼らの中でどんな情報の嵐が起きているのか、ジノは微笑んだ。
「天子ちゃんは本当に天使ちゃんだね」


プロポーズ小作戦67

2009-05-04 19:41:53 | コードギアス
プロポーズ小作戦67
2020年11月

ギルフォードがノックもあわただしく部屋に入ってきた。
「天子が言ってきたのだ」
ギルフォードも失調している。敬語が飛んでいるのがその証拠だ。
『ジノを貸してください。コウノトリを探しに行きたいから。これが最後のわがままになってもいいから』
天子の言葉は録音で流された。あまりのシヨックにギルフォードほどの男も内容を要約できないらしい。
足元がふらついているのは、フレイアに焼かれた目の後遺症か。あるいは天子の言葉の衝撃か。

「それで、何か」
ジノは話す対象をギルフォードに切り替える。
「貴殿、身に覚えがあるだろう。天子といえど女だ。その女からこんなふうに言わせるとは。騎士たる身で、恥を知るべきだ。若い者のことだしあまりそういう事にとやかく言いたくないが、しかし、相手が悪い。いや、考えようによってはいい話だが、それでもあれが」
駄目だこりゃとジノは思う。この人も頭が加熱している。
誰か、冷静に話せる人はいないものかとふと思い立ってジノは携帯をまわす。
最も冷静であるだろう相手に。
電話のコール音がなる合間にもギルフォードの言葉は続いている。
「私としても理解できないわけではない。木石ではないからな。その、姫様と、まさかこういう展開になるとは、いや、今は卿の話だ。安心しろ。私は理解できる。少し急ぎすぎたようだが、若いものだし、私ぐらいになれば、落ちついて楽しむことも、う、いや、今のは忘れろ、とにかく落ちついて」

ワンコールで相手は出た。
「もしもし天子ちゃん」
「ジノおにいちゃん」
予測どおり天子の声は冷静だった。

プロポーズ小作戦66

2009-05-04 16:13:27 | コードギアス
プロポーズ小作戦66
2020年11月

2020年11月ジノ・ヴァインベルグは20歳になり完全に家督を継いだ。
といっても特に今までと変わりは無い。今までも彼は当主であったのだから。
ところが大きな違いが出てきた。
公式の見合いが写真で寝台が作れるほどに山積みされた。
私的な見合い話は今までもあった。しかし、公式となると話は別だ。公式の見合いは皇帝の許可が要る。つまり、大量の花嫁候補はすべてヴァインベルグ家の当主夫人にふさわしいというお墨付きなのだ。
これからは簡単に断れない。
もちろん、ナナリーが自分でジノの花嫁候補を選んでいるわけではない。家の格により一定の基準があり、それに照らして機械的に判断されているに過ぎない。それでも公式は公式だ。

落ち込んでも仕方ないなと思いながらジノはベビーベッドを注文した。もちろん自分が使うためではない。アーニャへの贈り物だ。いろいろあったが、とうとうそういう事になって結果が出たらしい。
相変わらすそっけないアーニャのブログの文に、読者から見れば爆弾発言があった。
赤ん坊が生まれるから、しばらく休みます。
直接背中を押したのは天子だが、それをさせたのはジノだ。

自分達ももう子供ではないのだと、次の世代を考える年なのだとしみじみ思う。
そんなふうにしみじみしているジノを緊急回線でナナリーが呼び出した。
皇帝自ら緊急回線で呼ぶなど何事だと、ジノは文字通り音速で吹っ飛んだ。
「ジノ、来てしまいました。
まさかとは思いましたが、ジノ、あなたがそういう事をしていたとは」
ナナリーの言葉はさっぱりわからない。顔色が悪いし、何か大きなショックでも受けたのだろうか。
公式の会見の間で姓ではなく名を呼ぶとは、ナナリーの失調振りがわかろうというものだ。
「陛下、ナナリー様、何があったのです」
「天子様が、ジノとまさかそんないえありえないわけではないけどでも年からしてもだけどでも似合うと思うのですけどでもあれが」
「はぁ、天子様なら少し不調だとニュースを見ましたが」
「ご病気ではありません」
きっぱりとナナリーは言い切る。
失調を通り越してようやく少し頭が冷めてきたようだ。
「そうですか」
何がなんだかわからないが、天子が元気なのはいいことだとジノは思う。
あの少女は先天性のアルビノだ。そういう個体はおうおうにして身体が弱い。過去の朱王朝の天子が短命なのは毒殺や暗殺も多いが、先天的な弱さも大いに影響している。幸い今の天子の身体は正常だ。たぶん子供も生めるだろう。幸せになってくれるといいなとジノは思う。自分達はさんざん殺した。だからといって独身主義というわけでもないが、少なくともあの幼かった天子は直接には手を下してはいない。おそらく天子として仕事をするようになった今もそういう事はしていないだろう。あの男がいるから。
ようやく少し頭が冷めたらしいナナリーはジノに椅子を進め、お茶を持ってくるように命じた。
「ジノさん、落ちついてください。私は責めません。きっと幸せになれると思います。あれがどう言うかが問題ですが、私は味方と信じてください」
「あの、陛下、あれはあれのことですか」
「そうです。あれです」
お茶を運んできたメイドには絶対通じない会話である。

「それであれが何かしたのですか」
天子が絡んでいる話なら当然あれも絡むだろうとジノは話題をあれに転じた。
今のナナリーから天子に関する正確な話を聞くのは無理らしい。それなら先にあれの話をしてみよう。
「あれが、あぁ、なんてひどい事を天子様というかたがおりながら、お気持ちもわきまえずに」
駄目だなとジノは思った。あれの話も無理らしい。
ナナリーがこんな調子という事は国際的な危機ではない。皇帝としてのナナリーは《完全なる皇帝》であるから。この失調振りはどっちかというと女の子のお話だ。
あれが何かして、天子がナナリーに電話してきたという事だろう。
それで何故自分が絡むのか。どうもそこがわからない。
確かに天子はかわいいし、お姉さん役も楽しかったが。

お茶が冷めないうちにどうぞとナナリーに勧め、自分も飲みながら、天子の入れるお茶は練習の成果もあってうまかったなあぁと現実の危機をまだ知らないジノはのほほんと思い出した。

プロポーズ小作戦65 2020年10月

2009-05-04 15:13:51 | コードギアス
プロポーズ小作戦65
2020年10月


2020年10月はナナリー、アーニャ、ギルフォードの誕生日である。
このうちで国際的に特に重要なのはナナリーの誕生日である。

帰国とともにジノ、いやもうヴァインベルグ卿と呼ぶべきだ、卿は大佐として軍に戻った。
以前より階級が落ちているのは、長い間ふらふら遊んだいたことへのお小言代わりである。
そしてさっそく任されたのはナナリー皇帝の誕生日のパレードの総合管理。つまり、先日の国際会議で星刻がやっていたように裏方から警護体制まで全て取り仕切る。一通りのデータは昨年のものがあるし、部下は全員昨年の経験もある。ジノは総合指揮に徹して、細かい部分は部下に任せた。そういう点、トイレの配水管の角度にまで口を挟む星刻とはやり方が180度異なる。

それは生まれ育ちの個性もあるが、結局は国に人材があるかが影響している。
ブリタニアはこの皇帝誕生祭をきっかけに、外国人の旅行を原則認める方針をすでに出している。今までは特別な許可が必要だった。観光旅行者を受け入れるほどにブリタニアは復興したのだ。

一方中華はまだ外国人の自由旅行を認めていない。
もちろん、国防上の問題も大きいが、実は下水網がまるっきり機能しておらず、いまだにニーハオトイレ(しゃがむとお互いの排泄行為がモロ見えする)が主役でそれさえもあればましな方。結構大きな街でも、街の中にトイレが無い場合も多い。
ではどうするのか。土地により多少の差はあるが馬桶と呼ばれるおまるや完全な露天トイレ、屋根も壁も無い浅い穴だけのトイレ。こうなるとトイレというよりノグソである。
最大の問題は排泄物がそのまま環境に戻されている事。寄生虫の蔓延や水質汚染など、問題は山積みである。
ある街など、あまりの汚損のひどさにフレイアで焼き払いたいと星刻が心中つぶやいたとか。それがわりと大きな観光地だったりして、「早く海外からの自由旅行を許可してくれ」と何度も申請が来ている土地でさえ衛生観念がまるっきり無い。

「まずは教育が大切です」
いとおしい天子に公式の間で報告する。
さすがにノグソの問題を天子に言う事はできない。
「わが国は世界一の国土と国民を抱いております」
「その全てが天子様の足元にひざまずいて下ります」
星刻の声を天子は遠く聞いた。物理的にも遠い。10メートルの距離。
あの裏切り騎士枢木スザクとの戦いでのどを痛めた星刻は、ふだんはあまり大きな声を出さなくなった。
いくら天子が耳を澄ましても、星刻の声が聞こえない。
耳にも心にも。
天子は報告の途中で席を立った。そもそも聞こえていないのだから座っている意味など無い。

空っぽの玉座に聞こえない声が響く。
それは中華の現状と二人の思いのすれ違いをはっきりと表す構図であった。

プロポーズ小作戦64 2020年9月はやきもちの月

2009-05-04 13:09:06 | コードギアス
プロポーズ小作戦64
2020年9月のやきもち

中華は暑いから夏の間はブリタニアに居たいな。などと、勝手な事を考えていたスザクだが現実にはこの夏はほぼ中華を拠点とした。理由のひとつは蓬莱島が近いこと。そして、うっかり忘れられていたのだが、漆黒の騎士団の存在である。
ゼロ・レクイエムの後、黒の騎士団のうち各国の正規軍は自国に帰っていったがすでに帰る国の無い者もいた。また、帰る国のある者でもすでに戦闘中毒にかかっていて、平和に適応できない者もいた。扇は各国軍が帰国した後、原型黒の騎士団とも言うべきほぼ日本人で構成されたテロリスト時代のメンバーにも、なるべく普通の生活に戻るように声をかけた。扇自身が退役1号になった。南、玉城など古株のメンバーも抜けていき、もと軍人は正規軍に組みなおされた。
残ったのは国籍人種いりみだれた戦闘中毒者達。カウンセリングも行なわれたが、イシュヴァール、ベトナム、イランなど歴史の例を見ればわかるように人間の脳は簡単には切り替わらない。
そのうちに一部の中毒者は傭兵の世界に拠を移した。あまりにも傭兵が増えるのは世界平和のためには危険だと、藤堂は残った戦闘中毒者を漆黒の騎士団と仮称し自分の指揮下に置いた。残ったのは日本人および東洋系の人種が多かったから、国際的には原型の黒の騎士団に戻ったように思われているが、実際は古株のメンバーはほとんど普通の生活に戻っている。
漆黒の騎士団には20代の若者が多かった。彼らには戻るべき普通の生活というイメージがそもそも無かった。
物心付く頃には戦争があった。戦いが死が、当然としてある。少年期のスザクやルルーシュが見たものを彼らも見た。友達も知り合いもいなくなった。親戚も家族も、そんな言葉すら意味をなくした。
スザクは特殊な例として厳しい監視と虐待のなか生きたが、そのスザクすら最低の例ではなかった。
学校にもろくに行けず戦う事だけを覚えて生き残った。
戻るべき世界は彼らの中には存在しない。だから漆黒の騎士団は自分達を救い上げた藤堂を父のように思った。
藤堂と並び立ち、自分達に戦う場所を与えた大司馬は総司令であり大事な兄貴分だ。さらにゼロ、前のゼロではない。3代目こそは自分達のゼロだ。ゼロは自分達に戦う理由と正義を与えてくれる。

星刻は漆黒の騎士団が自分の支配下にあることを、多くの国のためになる事だと言い切る。
まず日本は不安定な分子を抱えずにすむ。
ブリタニアをはじめとして各国にとっては、増えすぎた傭兵がトラブルの種になる事を防いだ。
そして、中華。今まで大宦官付という特別待遇ゆえに、直属の部下をほとんど持たなかった星刻は強力な私兵集団を得た。

道場の同盟で一番得をしたのは星刻であった。




残暑厳しい折、ジノは天子を乗せて舟遊びとしゃれ込んでいた。
もちろん、朱禁城にも冷房はある。しかし、建物が古すぎて、おっと失言だ、伝統的過ぎて、ほとんど効かない。

天子が蓬莱島に行きたがるのも無理は無い。あそこは電子機器を置くので、自家発電をフル稼働して常時20度以下である。ただ、いくら自国内といっても天子の身分では簡単に出歩けない。そこで城の中でも楽しめるようにジノが小型ボートを浮かべた。伝統的な竜舟を浮かべるはずの大池に、ど派手な水しぶきが上がる。
ジノが持ち込んだモーターボートは5人乗り。スピードを上げれば水しぶきとともに暑いのも吹き飛ぶ。
「きゃー速い」
はしゃぐ天子の声。対比的に池の周りで悲鳴をあげる女官達。

「天子様、危のうございます」
「あぁ、あのようなはしたないお姿で」
別に天子は裸でいるわけではない。ごく普通の半そでシャツと半ズボンに救命胴着を着ているだけだ。
2次成長の遅さもあって、反ズボン姿の天子は活発な少年に見えてくる。
別にジノは大騒ぎをしているつもりも、大騒ぎをさせるつもりも無い。この暑さにすっかり参っている天子を楽しませてやろうと思いついただけだ。それに形ばかりの会議とはいえ、初めて一人で取り仕切った天子にごほうびがあってもいいじゃないかと思う。
女官達は岸辺で大騒ぎしながらも、決して大司馬に連絡しようとはしなかった。あの過保護、溺愛、過干渉の大司馬に今の天子の姿を見せたりしたら、・・・ジノを切り殺しかねない。
愛情がありすぎて通り越しちゃうタイプというのが、女官達の星刻に対する総合評価。
本気の相手としては受け止めるのに大きすぎるが、浮気相手なら理想というのが国際的な貴婦人達の評価。


2020年9月時点で天子は15歳。ジノは20歳。そろそろナナリーもジノを自由にはして置けなくなる。今までは子供だからで何とか通した。しかし、すでに20歳。ジノもわきまえている。この舟遊びは天子とのお別れでもある。
ジノはボートを池の真ん中で止めた。
「天子様」
いつも天子ちゃんとか姫天子ちゃんと呼んでいたジノから初めて聞いた響き。
天子の表情も変わる。彼女ももう子供でない。例え、本気でコウノトリを信じていたとしても。
「私に帰国命令が出ました。皇帝陛下からの」
「帰るのね」
天子の声もさっきまでのはしゃいでいた声とは違う。
国際会議で見せた国の長としての強い声。
「また、中華を訪れる事もあります」
「そのときはヴァインベルグ卿なのね」
「はい」
「お別れの宴は開かないわ」
最後まで普通のお友達でいてと天子は言う。
「ご存知でしたか。私は当て馬としてここに来たのですよ」
「ライバルね」
天子は神楽耶から仕入れた知識で翻訳する。
「そうですね。決定打にはならなかったようですが」
「わたし、星刻が好きよ。星刻との赤ちゃんが欲しいわ」
「それを言えますか?星刻に」
「わからない。でも星刻との赤ちゃんは欲しいの」
このとき男女には大きな理解の差が合った。だが、理解の溝の深さにはまるのはジノではない。


翌日、ジノはブリタニアに帰国した。


ジノも天子も知らなかった。誰にも知られず話せる場所として選んだ池の中央。そのボート上の姿をある男に見られていたことに。
特に半ズボン姿の天子がジノを抱擁したシーンに、危うく血管が切れかけた。それは音声を伴えばごく普通の別れの挨拶だとわかるはずなのだが。
嫉妬とは自分が本心ではやりたいことを誰かがやってしまうときに最も深く重くのしかかる。
まったく外気に触れたことの無い真っ白の生足の天子がジノに抱き上げられる。それはボートから安全に降ろすためだったのだが、わかっていても納得できない。

もしここで男が姿を現せば、おそらく天子はジノに対して言った言葉を口にしただろう。
「星刻、あなたとの赤ちゃんが欲しいの」
その意味が『一緒にコウノトリを探しに行こう』であったとしても男は全て受け入れるだろう。自分が教えたのだから。

しかし、男は姿を現さなかった。彼には中華の支配者としての立場があった。
嫉妬心をあらわにするなど絶対に許されない。それに男のプライドは嫉妬心の深さに対抗できるほど高かった。


「あれもねぇ、つまんない意地を捨てたら、すぐ幸せになれるのに」
蓬莱島で神虎の母がプログラムを修正しながら白虎に話しかける。
手のかかる子ほどかわいいというが、神虎は本当にかわいい子で、相棒まで放っておけないほどかわいい子である。


プロポーズ小策戦63

2009-05-04 08:30:48 | コードギアス
プロポーズ小作戦63
2020年9月
夏が暑いのは当たり前だと日本人は思う。まぁ、今年は特に暑かったが。
しかし、スザクは思う。ブリタニアは涼しくて過ごしやすかった。
中華に鞘を預けたと見られているゼロ・スザクだが本人にはそこまでの自覚は無い。
シュナイゼル以外に星刻の頭脳も使えるようにルルーシュがしてくれた。まるでルルーシュが誕生日のプレゼントをくれたみたいに。その程度の認識である。
プレゼントとしては、星刻はいささか毒成分の多い存在だが、スザクは気にしない。そもそも猛毒のシュナイゼルを利用しているのだからそういう存在には慣れている。
さて、いったん蓬莱島に寄った後、スザクがいるのは朱禁城。それも内宮に近い離宮。
今、この離宮には誰もいない。スザク以外は。大司馬の厳命で、ゼロが滞在する間は何人といえど近寄る事さえできない。ありがたい対応ではあるが、スザクとしてはせいぜい一部屋でいい。それなのに100人が滞在できる離宮を丸ごと提供された。スザクが使っているのは一番狭い一部屋だけである。もったいないなぁとつい思う。名家の嫡男として生まれたが、人生の大部分を下積みの下級兵士としてすごしたスザクは、貧乏性だった。
ジノなどは同じような離宮を我が家のように使いこなしている。そういう点も根っからの貴族である。