「タチアオイの花が茎の先端まで咲ききると、梅雨が明ける」という言い伝えがあり、梅雨時期になると、テレビやラジオの天気予報でこの話題が出てくることがあります。
そろそろかなと思ってしまう天気です。
兼題:入
六月の「老松」沁入る頃となり 瞳人
入魂の球で完封夏の月 泉
潮入りの池を叩いて夏つばめ アネモネ
◎(珠子)浜離宮恩賜庭園でしょうか。「潮入り」がイメージを豊かにしてくれました。手入れの行き届いた静かな池に夏つばめ。水面ぎりぎりの餌を狙っているのかもしれませんし、一瞬の水浴びだったのかもしれません。
(選外)(道人)「叩いて」の措辞で夏つばめの動きがダイナミックになった。
入国の列の短き百夜かな 卯平
◎(アネモネ)「白夜」で得心です。
○(あちゃこ)世情が見えます。コロナ終息はまだかな?
片陰に入ればこの世生き易い 楊子
○(宙虫)そのような気がする。目立たぬように生きていこう。
◎(道人)この気持ちは共感できる。
入水は鳴くまで待とう夏鴉 宙虫
○(ちせい)あの風貌は戦国武将に似て居るのかもしれません。
代掻きの水に流れる入日かな 仙翁
○(アダー女)擬人法で夕日が、田に流れ込んでいく水とともに田に流れているという表現が上手いと思います。
○(餡子)入日の動きが見えて美しい景が浮かびます。
○(宙虫)郷愁を誘う景。昼間のにぎやかさも一緒に・・・。
◎(あき子)田んぼに映る入日が流れるように動いて、今日一日の充実感が伝わってきます。
〇(まきえっと)水に流れる入日がいいですね。
◯(道人)使い方の難しい「かな」が佳い。代掻きの一日お疲れ様。
トンネルの入り口出口七変化 敏
(選外)(卯平)トンネル(隧道)の入口と出口の紫陽花はまさに七変化だろうか。よく詠まれる景。
雨戸繰れば守宮ぽとりと闖入す アダー女
○(吾郎)くるものは拒まず。雨の朝を思わせる湿気が好き。
〇(春生)守宮の特性が良く出ています。
紫陽花や入り婿となる美男僧 餡子
〇(楊子)寺は必ず跡継ぎが要る数少ない生業。たいてい次男三男が行く。さぞ歓迎されることでしょう。
〇(藤三彩)お寺さんだけでなく神社、教会なども跡取りが難しい時代です
○(卯平)お寺と紫陽花は定番。そこを舞台にした人間模様は入り婿まで踏み込んだ景。さらに美男と言う。その美男は今から僧の修行するのか、それとも別の寺からの入り婿だろうか。
◯ (アゼリア) 私の街にも美男僧がおりました。おまけに?花園大学首席卒業で皆の注目の的でした。ふと思い出しました。
入国のいろはにほへと夏燕 あちゃこ
刃を入れる母の沈黙青メロン あき子
○(吾郎)「は」の頭韻にハッとします。
◎(宙虫)この沈黙はこわい。胸に秘めた怒りを感じる。こうやって、母は乗り越えていく。
◯(ルカ)青メロンが神妙です。
◎(敏)高価で貴重なマスクメロンを家族全員に均等に切り分けたいという「母」の緊張が「沈黙」の二字によく表れています。
〇(めたもん)沈黙の裏にあるのは期待?まさか殺意?季語「青メロン」が幅広い読みを可能にしています。
○(卯平)メロンを切る時はそれなりに華やかなるのが一般的。しかし母は黙って切る。そこにあるのは青メロン。ドラマの構成は幾つか展開するだろう。特選を迷った。「入るる」であれば特選を十分吟味できる。
緑陰に影入れ野球応援す 春生
紫陽花の市なく通販恐れ入る 藤三彩
手の甲に太る血管梅雨に入る 珠子
○(アネモネ)季語はともかく措辞がなかなか。
◯ (アゼリア) 共感の一句です。年々太ります。
(選外)(卯平)類似感はある。しかしそれなりに読ませる句。「太る」か「太き」か。前者であれば段々と血管が太る景となる。その過程が実感できない。後者であれば「太き血管」は確かに存在する。「梅雨に入る」景が「太き血管」の状態を描き切っているだろう。
梅雨入や土に還れぬ土器の片 めたもん
○(餡子)全ての物がいつかは土に戻っていきます。土に還れない土器は何を物語るのでしょうか。
○(敏)雨に打たれて遺跡から現れ出た土器のかけらが目に浮かびます。
人体のきしきし弛ぶ梅雨の入 道人
〇(春生)なんとなく体の張りが無くなりますね。
里山の入り日をろがむ月見草 アゼリア
〇(あき子)月見草を主役にした自足した世界観に、平和の有難さを思います。
鰺刺身トイレに入るを秘匿せよ ちせい
筆箱のもう書けぬペン梅雨に入る ルカ
○(ちせい)ペンがしょげ返っているようでした。
眠たいねも梅雨入り何時もね痛むね 吾郎
〇(珠子)そうだね・梅雨も眠たいね。ほんとだね・戦争には胸がちくちく痛むね。
◎(餡子)「ね」の繰り返しが梅雨のけだるい感じを表していて面白い。
○(宙虫)まさにその通り、あちこち体が痛むし、いつも眠たい。
〇(仙翁)梅雨時は、心身が、うっとうしくなりますね。
〇(藤三彩)雨で外仕事をしないで毎晩飲酒しているとこんな回文の感じ
◎(まきえっと)この数日、本当に眠いです。「ね」が語りかけられている感じです。
夏至の日の頁数多の入門書 まきえっと
◯(ルカ) 読む時間はあれど進まず。季語がいいですね。
(選外)(卯平)面白い景。「夏至」と「数多」の関係はそれなりに納得。但し「頁数多」で少々のゴタゴタ感。
テーマ:色
嘘に赤悲鳴に黄色梅雨に入る 餡子
○(吾郎)これがかの「共感覚」。
〇(珠子)この頃は、嘘は巧妙にごまかされた黄色、悲鳴はストレートに刺さってくる赤に思える気もします。
◎(春生)感性豊かな句です。
〇(めたもん)斜に構えた説得力というか、馬鹿々々しい世の中を明るく生きていこうという感じが魅力です。
〇(まきえっと)色の使い方がまさしくです。思わず頷いてしまいました。
◎(あちゃこ)慣用句のなぞですね。
(選外)(あき子)嘘と悲鳴の現在を実感。
銅像の遠きまなざし濃紫陽花 まきえっと
○(アネモネ)「遠きまなざし」いかにもです。
〇(瞳人)だれなのだろう
〇(春生)こんな景色、すてきですね。つやがあります。
〇(仙翁)銅像の遠くを見る目、いいですね。
◯(ルカ)紫陽花の中の銅像の素顔。
◯ (アゼリア) 概して銅像は遠くを見つめていますよね。高い志の表れでしょうか?
ぬか床より茄子紺出でて艶々と アダー女
○(泉)色も良いし味も良い、という事でしょうか。
〇(藤三彩)ミョウバンを入れたりせっせと毎日かき回した結果。お疲れ様です
ぽろぽろと手よりこぼるるミニトマト 春生
玄関に額紫陽花の鉢二つ アネモネ
咲き初めし紫陽花色を淡くして 仙翁
山法師いつもと違う猫がいる 藤三彩
◎(楊子)読んだ後の不思議感が後を引く。山法師という文字面も効いている。
◎(泉)意味不明なのですが、何となくユーモラスな俳句だと思います。
○(宙虫)猫も代替わりする。山法師の立ち姿が面白い。
◎(仙翁)いつもと違う猫、あの猫は、この猫は、気になりますね。
〇(めたもん)口語表現のさり気ないリアリティーがいいですね。季語「山法師」の白が印象的。
○(卯平)猫の句は新鮮味はない。しかし「山法師」をバックにする「猫」は十分に魅力的。野良猫の様相が浮かんでくる。
○(ちせい)白い花に白い猫が居たのかもしれません、おやいつもと違う猫が。
死の色に蛍がひかるとき無風 宙虫
◎(アダー女)蛍は成虫としてこの世に生存するのは1,2週間といいます。それでなんとなく蛍の放つ光は儚く死の匂いを感じさせます。そしてそのひかりが明滅するとき、吹いていた風すら遠慮するような静寂に包まれるのですね。
〇(あき子)「死の色」とはどんな色なのか。無風と断言する潔さ。
紫陽花の色の蕾のふくらみぬ ルカ
漆黒の隙間書棚に遠花火 めたもん
○(敏)もしも書棚に隙間があれば今聞こえた遠くの花火音とともに、かすかな光りも見えたのかも知れません。
○(卯平)詠み手の位置が面白い。このまま読めば書棚の隙間から花火を見ている景となる。何処か哀れさもある。一方では中年男の男性としての性も感じる。
小流れに虹の断片張り付きぬ 敏
〇(あき子)水の流れを聞きながら、想像するだけでも美しい景色です。
走馬灯うす水色の会釈して あき子
○(アネモネ)上手い。「水色の会釈」にやられました。
○(アダー女)人生は走馬灯のように過ぎ去っていきます。行き交った人がお辞儀してくれたけど「はてな?どなただったかな?」と曖昧な気分で会釈を返す。「うす水色の会釈」が実に上手い措辞!
◎(ちせい)涼しげな、納涼的な場面に走馬灯が生かされて。
短夜や胸に五色のボールペン 卯平
〇(楊子)想像のふくらむ句だ。忙しいお父さんのワイシャツのポケットだろうか。
桃葉紅の功徳毒の効用と 吾郎
虹消えて跨線橋より見る故郷 道人
○(アネモネ)「跨線橋」いいですね。しみじみと読ませていただきました。
○(吾郎)措辞が素敵。うつろい行くものへの感慨。
○(泉)「跨線橋」とは珍しい言葉です。
○(敏)虹に気取られて見えていなかった古里を跨線橋の高みから見直しているのでしょうね。
(選外)(アダー女)私のたまさかの散歩道にも跨線橋があります。虹と跨線橋がなんとなくノスタルジックで良いですね。
梅雨の闇おなか隈なく内視鏡 瞳人
白黒の小津の名画やあぢさゐ月夜 アゼリア
〇(瞳人)名、はいりましょうか
○(餡子)雰囲気の出ている句。小津映画って紫陽花が似合うことに気付かされました。
〇(藤三彩)小津安二郎の『東京物語』で笠智衆が子供を驚かすシーンが印象的でした。
氷水豊富なお菓子に魅了され ちせい
歩くほど青葉碑文の旧字体 珠子
〇(楊子)生き生きとした青葉と歴史を感じさせる碑の取り合わせがいい。
◯(ルカ)青葉深まる中、出会った碑が印象的。
○(あちゃこ)実感が伝わる一句。
母の忌や千歳緑の単帯 あちゃこ
○(吾郎)忌日に長寿と不変の色を合わせる感性。
◯(道人)こういう古風な型の母の句も佳い。
◯ (アゼリア) お母様の忌日にお形見の帯を締められたのでしょうか?
野球帽日焼の顔に歯の白さ 泉
◎(藤三彩)夏の甲子園は愉しみ。なのに体罰で参加できないチームが出ているのは可哀想
葉の裏はこんなに白い青嵐 楊子
○(泉)葉の裏とは、新しい発見ですね。
雑詠
ともだちの顔で海月が浮いている 宙虫
◎(瞳人)そういうやつの顔がすぐ浮かんでくる、幸せなクラゲだ
〇(珠子)確かにあの飄々とした浮き方は、見る側への親近感にも見えます。
〇(春生)こんな捉え方もありましたか。見事です。
◯(ルカ)散文的な表現が生きてます。
○(敏)海月が「ともだちの顔」に見えてきたのでしょう。「顔で」という断定がスリリングです。
◎(めたもん)不思議な、ふにゃふにゃ感がたまりません。琴線に触れるというよりツボに入る感じ。
○(卯平)だとすると詠み手にとりその「ともだち」はあまり存在感がないのだろうか。しかしその「ともだち」は「海月」同様どこか気になるだろう。「ともだち」の措辞であれば「水母」の方が鑑賞者好み。
〇(あき子)脱力感に癒されます。海月みたいなともだちなのかも。
◯(道人)海月のような友達がいるのだろうか。掴みどころがないのが逆に良い。いつも離れられない安心感もある。
○(ちせい)いいですね、特選にしたいようなオーラをこの句に感じました。
○(あちゃこ)ウチでは、インコが悪ガキしてます。ペットの気持ち。
はらわたの在処はここぞ牛蛙 楊子
○(あちゃこ)あんなに膨らませなくても、と思いましたが?納得。
(選外)(卯平)牛蛙を見ていると確かに「はらわた」は目立つ。面白い句。選を迷った句。
ほろ酔ひの供は卯の花腐しかな 瞳人
何もかも丸いキューピー夏きざす めたもん
〇(瞳人)いつもはだかじゃあ? いや、まるいからだ
〇(珠子)この頃キューピーを見かけないのは寂しく思います。あの形はまさに平和の象徴です。
◎(ルカ)取り合わせの妙。
◯ (アゼリア)取り合せが素敵だと思います。
〇(まきえっと)いろいろな大きさのキューピーを持っていました。背中の羽が愛くるしい。取り合せがいいですね。
夏の鳥影を落としてゆきにけり ルカ
〇(仙翁)鳥とその影が動いているのが見えますね。
受付の声の交錯熱帯魚 まきえっと
〇(珠子)たくさんの受付を持つロビーでしょうか。大きな水槽に美しい熱帯魚の群れ。実はバーチャル熱帯魚かもしれません。
海猫は監獄島を好きらしき 春生
階段と枝と電線夏の鳥 ちせい
絹さやは待てと一手間早さ抜き 吾郎
◯(道人)莢を鞘に見立てた軽やかな名回文句。
高齢者確認訪問立葵 珠子
〇(楊子)おかしみがある。逆光で見えない玄関に立っているのは立葵のような。
○(泉)一人暮らしの高齢者問題。日本における極めて深刻な問題です。
〇(瞳人)一人独居をよく見てやってください
〇(めたもん)漢字だけの句。その漢字の中に「立葵」がすっと咲いているかのようです。
○(あちゃこ)福祉?リサイクル業者?立葵なので、前者ですね。
山中を迷い泉に生き返る 泉
○(アネモネ)これはリアル!
糸切れし数珠万緑へ跳ね上がる 餡子
◎(吾郎)お見事!と内心叫ぶ。
○(アダー女)これが読経中の僧侶の数珠だと思うと滑稽なようなお気の毒なような。
○(宙虫)ドラゴンボールではないけれど、この世の苦難も一緒に散り散りになってほしい。
〇(仙翁)数珠が突然切れることありますね。
〇(まきえっと)万緑がいいと思います。
耳かきの尖きのふさふさ街薄暑 アネモネ
丹沢山から膨らむは雲の峰 アダー女
(選外)(藤三彩)丹沢山の眺望は狭い。塔ノ岳からの夜景や日の出、晴れていれば蛭ケ岳からの眺望はよいが。他の高山にしては?
梅雨寒やパーで勝ったりじゃんけんぽん 敏
夏月の一膳飯屋のバッハかな 卯平
○(アダー女)涼しげな夏の月に庶民的な一膳飯屋。そこへバッハですか!これほど似つかわしくない組み合わせがなぜか、ちょっと面白いんじゃない?と思えてくるから面白い。
○(餡子)バッハのかかる飯屋・・・。行ってみたいです。
〇(めたもん)夏月・一膳飯屋・バッハ。どれも堅実でそっけない。硬質な懐かしさが魅力です。
◎ (アゼリア) 志しのたかそうな飯屋さんですね。
〇(まきえっと)店のご主人の趣味でしょうか?優雅な気分で鯖の味噌煮が食べれそうです。
平らかな雨のふるなり額の花 道人
〇(春生)「 平らかな雨」と感じる作者の感性がすごい。
○(餡子)額紫陽花は、確かに平らかと言う言葉が合っています。
〇(仙翁)額紫陽花もこの季節にとても似合っていますね。
〇(まきえっと)平かなと感じるのがいいですね。
閉ざされた窓の雄弁蟻地獄 あちゃこ
○(ちせい)沈黙の蟻地獄か印象的でした。
穂麦畑脳裏に戦車連なりて アゼリア
(選外)(道人)稔りの麦畑を眺めていると、時節柄ウクライナ戦争を思う。「脳裏に」の作者の立ち位置が難しい。
忘れたと言えば病葉落ちにけり 仙翁
〇(楊子)このもの悲しさは共感からだろうか。
訳ありの青梅雹が降ったという 藤三彩
○(泉)雹が降れば被害も甚大です。
冷奴妻に求めるエビデンス あき子
〇(瞳人)そんな理詰めで、おかわいそうかと
○(アダー女)暑い日には冷や奴は旨い。でも毎夜毎夜となるといささか飽きてくる。「これはそんなに健康にいいのかい?そんな実証済みの効能でもあるのかい?」と妻に言って見たくなる気持ちはよ~くわかります。でも毎夜毎夜、亭主の酒のあてやビールのつまみ考える妻の気持ちもわかってあげてくださいな。
○(敏)久保田万太郎の「湯豆腐」とは真逆で、「妻」の本意を糺したいのでしょうか。緊張感のある一句です。
◯(道人)どんなエビデンスにしろ愛妻家なのは間違いなし。
☆☆次回をお楽しみに。
広島は蒸し暑い日々が続いています。今年はあまり梅雨らしい雨が降りませんが、気候変動の影響もあるのでしょう。私としては雨が降らない方がいいのですが、農家の人々には雨が必要でしょう。しかし、日本は平和で何よりです。