聖書に忠実な絵本として
数あるクリスマス絵本の中から、わざわざこの絵本をおススメするのは…
「親切な宿屋の主人」が登場しないから、だ。
ほとんどの「キリスト生誕物語」には、「宿屋の主人」が登場する。
マリアとヨセフがベツレヘムにやって来て、宿がなくて困っていたところ、「満室で、すみませんね。でも、馬小屋なら空いてますんで、良かったらどうぞ~」と、小さな親切を示す人。
しかし、聖書の中に、そんな人は登場しない。
「ところが、彼らがそこ(ベツレヘム)にいる間に、マリアは月が満ちて、男子の初子を産んだ。そして、その子を布にくるんで飼い葉桶に寝かせた。宿屋には彼らのいる場所がなかったからである。」 ルカの福音書2章7節(新改訳聖書2017)
二人は、どこにも居場所のない、ホームレス状態だった。この出産は、ほぼ路上出産だった―。聖書記者ルカは、控えめに、そう語っているのだ。(*註1)
小さなイエスが生まれて来たのは、こんなにも非人間的で、冷たくて暗くて汚い現実の中だった。だから、「ちょっと親切な宿屋の主人」を登場させて、「宿屋の離れの馬小屋に案内されて、きれいなフカフカの藁も敷いてもらって…」みたいな、「ちょっとだけ良い話」にすり替えてはならない、と思う。たとえ子供向けの絵本であっても。否、子供向けだからこそ。
救い主キリストのお生まれに気づき、そのために行動できたのは、天から直接、お告げ・啓示を受けた人たちだけ、だった。カトリック神父さんたちが作られたこの絵本は、フィナーレまで、聖書の事実に忠実だ。
この絵本をおススメしたい理由がもう一つ。表紙絵からもおわかりでしょう。小さなキリストの降誕は、この地に「降ってわいた大きな僥倖」でした。巨匠・やなせたかしの絵が、その迫力を伝えています。
残念ながら(残念すぎる!)絶版ですが、図書館で借りられます(*註2)。
教会やカトリック幼稚園の本棚にも、眠っているかもしれませんね。
ぜひ、探してみてください。
「女子パウロ会」さーん、CDなしで、再版してくださーい!
註1 実は聖書には「馬小屋」という言葉さえ、出て来ません。そこが屋根の下であったかどうかも、疑わしいのです。このあたりの事情は、M・バジレア・シュリンク著「救い主の母の道 ―キリストとともに キリストのために―」(マリア福音姉妹会)に詳しいです。
註2 タイトルが示す通り、この絵本は歌うために作られています。巻末に楽譜が掲載されており、歌を収録したCD(別売り)はまだ販売されています。
しかし、歌詞として練られたテキストは歯切れよく、わざわざ歌わなくても、読み聞かせにぴったりです!