さくらんぼと株主総会

　　　　　　　　　　＜美味しいさくらんぼ～佐藤錦です。＞
　　　　　　　　　　　　　　　
昨日、今日とピークをむかえている株主総会。
さくらんぼの季節は株主総会の季節でもある。

さくらんぼのタネをプッと飛ばすと
あまりに未熟なあのころの私の背中がみえてくる。

はじめて株主総会というものに行ったのは私が新入社員だった頃。
会社の社内向け広報の取材で人事部長に連れられ、
会場に赴いたのが最初である。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

受付にはいつも仲良しな総務部や秘書課の女の子。
「キャー！」と手を振りたいところをグッと我慢しながらも
ちょっとホッとしながら会場の中へ入った。

・・・・とはいっても１万人規模の会社。
株主さんの数もたいへんなもので、
ちょくちょくお目にかかる社長や専務、常務などは
緊張の面持ちではるか遠くに見える壇上にいるのだった。

ありゃりゃ、困ったな・・・・。

先輩から渡された小さな取材用カメラを片手に
しばし悩む私・・・・。

私にとって見慣れた会社の経営陣ははるか彼方だし、
会場はとにかくだだっ広い・・・。

そこから先が新入社員の浅はかさ、というもの。
“株主さんたちの表情”を撮ろうと思いついてしまった。

パッと立ち上がり、タタタッ！と脇の通路を通り前に出て、
シャッターを押そうと思ったその瞬間！
目の前にものすごい顔で仁王立ちする人事部長。
「ちょっと、待った～～！」

「株主さんは撮っちゃダメダメ！」

かすれたしわがれ声のボルテージを上げ（大きな声はだせないので）
必死に阻止しようとする人事部長。
その表情からは「青い血」が透けてみえるようだった。

・・・・え～そうだったんだ～。

そんなことも知らなかった新入社員のダメダメな私。
そう言われちゃ～と思い、背後からの撮影に切り替えるのだった。

帰り道、人事部長がつぶやいた。

「はぁ～首が飛ぶところだったよ～。」

あのときの形相のすさまじさとその言葉をきいて
はじめて事の重大さに気がついた私。

それまで、会社の中枢部にいながら
その仕事の重みを感じることなくすごしていた私は
そのときはじめて「冷や汗」というものをかいたのであった。

帰ると自分のデスクに誰かのおみやげだという
「さくらんぼ」が置いてあった。

小さな小さなさくらんぼは、口に含むと、
それはそれはぎゅぎゅっと甘さの詰まった濃密な味だった。

はあ～。

まわりのせわしなさをよそに、
ちょっと落ち込んでいた私はさくらんぼを頬張りながらため息をつく。

でもふと見ると、みんな動いている。働いている。
うちのビルだけじゃない。
あのビルの人たちも、あのオフィスの人たちも・・・。

ひとりひとりの濃密な仕事の時間が
「会社の価値」を生み出すことをほんとうの意味で痛感した日。

今の私にできることは
「しっかりと見てきた会社の今」を伝えること・・・。

落ち込んでなんかいられない！

タネを口からプッと飛ばし、ペンを走らせるのだった。

　　　　　　　　　　

あ～そんなこともあったな～～。

さくらんぼのタネをプッと飛ばしながら、
あの頃お世話になった人たち、元気かな？
・・・・なんて考える水無月の夜であった。　　　　　　　　　　



　　　　　
　ちょっとセンチメンタルな水無月の夜でありました～。
いつも応援ありがとうございます！よろしくお願いします。