<2-3県職員が出先で体育イベントなめ過ぎてしっぺ返し編>----------
●福利厚生行事でリフレッシュ?
出先機関での一変ぶりは仕事の中身や進め方だけではなかった。ある日、球技大会の参加案内が回覧されてきた。野球、硬・軟テニス、バレーボール、卓球など数多い種目が、夏場から秋にかけて出先事務所の管内にある運動公園や体育施設などで、平日昼間に順次開催されるという。(当時の話です)
各種出先機関が入る合同庁舎内における、職場対抗の球技大会の案内を見て、スポーツ好きの限られた職員達が有給休暇を得て参加する類いだろうな…と思い、一目のみで先輩同僚に供覧資料を回すと、「出場種目に名前を書くんだよ」と言ってきた。「いやあ、特に私は…」と遠慮すると、思いのほか口調を強くしてきた。
「これは"元気回復行事"でれっきとした福利厚生事業の一環。給料から天引きされてる互助会費や組合費で費用が賄われるものでもあり、できる限り参加すべき。他の事務所職員とチームを組んだりして、世代も越えた親睦や交流ができる良い機会。何よりも出先に居る間の数少ない楽しみだよ」とかなり強めの誘いだ。
残業続きの本庁時代は、平日は日の明るい内に帰宅など殆ど無く、土日や祭日もたまに休めたとしても、生活必需品の買い出しか、死んだように寝ているかの生活をしていた私には、職場の福利厚生行事として平日の昼間から球技大会というカルチャーが、にわかに信じられない精神状態となっていたが…。
前にも記したが、私は割り切りと切り替えは早いほうだ。職員の元気回復のために公に推奨されている球技大会ということであれば、やれる限り徹底してやってみるか、という思考モードに転換し、業務の予定との関係で都合のつく日程には、種目の得手不得手に関わらず、全てエントリーすることにした。
野球、ソフトテニス、卓球。野球や卓球は小中校生時代に放課後にお遊びでやった程度、ソフトテニスはほぼ未経験。それでも元気回復・福利厚生が主眼なのだから、下手クソでも当日に楽しんで行なえればいいのだろうとお気楽に考えていたら、他事務所の渋い声の年輩から早速の電話が掛かってきて「練習日程を伝達する」という。
お楽しみ会的な体育系行事について、当日の現場合わせでなく予め練習を、しかも複数回重ねるとは!!ひょっとしてジョーク??と聞き返すと、電話の向こうから渋い声の年輩職員は大真面目であることが判明。それどころか、この球技大会の優勝を目指して本気になっている様子なので少し"引いて"しまった。
「馬鹿にすんなね~(しないようにね)」と先輩同僚。県職員の中には、たとえ互助会の催しでも本気で取組む人がいる。たかが遊びと嘗めた態度を取ると火傷するよ、というのだ。給料分の職責を果たせば職場との関わりは最小限にしたいと考えていた私には、就業時間外に球技大会の練習をするのは驚きだった。
新人類といわれた世代ではないが、生来のドライな気質である。ただ、損得勘定のない人の熱意には敬意を感じ、それなりに応援したい気持ちもあった。入れ込む年輩職員の言う事を聞いて素直に練習に参加してやるか…との上から目線には、大卒の上級職で採用されているとの驕り意識が多少あったかも…。
職場対抗球技大会に向けて数日にわたり設定された終業時間後の練習へは、参加したいと意識したものの、当時、新潟市内から車で小一時間かけて通勤していて、新潟市内での友人等との付き合いや所用もある中で、職場から更に住居とは反対方面になりがちな練習会場へ足を向けるのは億劫になってしまった。
球技大会のための事前練習は、とりわけソフトテニスについては一回しか参加できず、この種目に入れ込む40歳過ぎと思しき他職場の職員からは、大会日の段取りなどを伝えてきた電話ごしにて、温厚なもの言いの中にも手厳しいご指摘を頂いた。その応答で、私も申し訳ない思いから「棄権したい」と話した。
ソフトテニスの同じチームメンバーには、若い人の参加を優先とするも、いざ欠員が出たときのためのベテラン職員が補欠で控えていた。確実に足手まといになる練習不足の私を棄権させてその人を出場させてはどうかと打診すると、意外にも渋い声のリーダーは「練習不足でも良いので君が出場しなさい」と言う。
漏れ聞けば、ソフトテニスの渋い声のリーダーも、補欠控えの職員も、いわゆる「組合活動」に熱心な方だという。組合は昨今の新採用や若手職員の組合離れ対策に腐心しているとも聞く。組合も関わる球技大会において、若い職員の練習不足に寛大に接することで、延いては組合への引き留めも狙うのか…と穿ってみる。
稽古不足で臨んだソフトテニス大会で私のペアは案の定ボロ負けであった。ばつが悪く、そそくさと引き上げ準備を始めた私にリーダーの年輩職員が近寄ってきた。まあ親睦会だから…などと慰め言葉の予想とは裏腹に「練習しないと駄目なことが身に染みたろう」と、いつもの渋く抑揚の無い口調で刺してきた。
この年輩職員は、職場対抗球技大会という遊びに近い物事とはいえ、どこか嘗めた意識で臨む若者を、敗北経験を持って諭したかったのか。今の若い人は色々考えた上でドライに構えている事を知らない古風な人にありがちな、めんどくさい説教の類いか…と少しウンザリもしたが、確かに、遊びにしても練習不足で負けて「後味が悪い」。
仕事、特に事務系業務は、絶対的答えが無く判断に依る事案が多い。そこでは敗北めいた結果に至ると、判断した上司や関係者のせいにしたり、時の運などと言って気持ちにケリを付けがちだ。一方で、スポーツはポジションパワーや不条理とは関係なく、上手か下手かで勝つか負けるかの世界であり、属人的な忠実さがある。
新採用から3年の本庁勤務で、激務であり自分に仕事の裁量権など殆ど無かったとはいえ、どこか形式と理屈で物事をやり過ごす事に慣れすぎていた私は、感覚や体力をもって臨むことに真摯さを失っていたのかもしれない。遊び事のように嘗めていたスポーツでの一瞬ほろ苦い経験がまさかの猛省をもたらした。
(「県職員が出先で体育イベントなめ過ぎてしっぺ返し編」終わり。いよいよ福祉ケースワーカー業務の核心に触れる「福祉ケースワーカー新米青年は物思う「1生活保護」」編に続きます。)