のヮの@no05071730


五十路男の独り言集。
乱筆乱文はご容赦ください。

黒い砂漠日記 ~幕間:魂(アタラクシア)の寄る辺

2023年07月04日 00時46分15秒 | ゲーム

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「ノール! ようやく私も名匠の銘を手に入れたぞ。これで共に来てくれるんだったな!」

 

周りのふっと音が消えた気がして、私は一瞬遅れて内心でため息をついた。ノーヴァンスティンは言いにくいからノールでいいだろう、とはいささか乱暴だと思うのだが。

 

カルフェオンにあるフレデリス・ハーバルの酒場。川に沿った商い通りのテラス席に居た私に向かって、レミオネーラは屈託のない笑顔で歩み寄ってきた。オレンジの髪、よく通る凜とした声、戦乙女を名乗っておきながら、貴族の間でも評判の衣装をさらっと着こなしていれば、否が応でも周囲の目をひく。特に若い男性の目を、だ。一部、若い女性も。

まして、午後の強い日差しにも負けない彼女から漂うオーラが周囲を圧倒し、彼女が「共に来てほしい」と声をかけた相手はどんな奴だ、と興味と羨望と嫉妬がない交ぜになった視線が私を取り囲む。

彼女から、レハノステル一門のカルフェオン守護の名代に名を連ねたことと、趣味の狩猟で名匠のランクに上がったという連絡を受けて、ひと言お祝いでもしようと待ち合わせただけなのだが、どうしてこうなった。

「…そうだな、名匠にふさわしい銃を作りに、素材を獲りに行くんだったな」

「そうだぞ」

私の言葉とそれに応えた彼女の声がどう影響したかわからないが、私たちを取り巻いていた形容しがたい圧が緩んでいった。高揚した面持ちで向かいの席について、狩猟の魅力をまくし立てる彼女は、あまり周りに注意がいっていない。ニヤつきながらコップを持ってくるフレデリスも眼中にないようだ。

否。自分の敵足る存在ではないと理解しているので、まったく気にしていないだけだ。その証拠に、フレデリスがあと一歩でテーブルに到着するというところで、

「やあフレデリス、水をありがとう」

と、自然な所作でフレデリスに向けて手を伸ばしてコップを受け取った。彼は強ばったニヤつきを顔に張り付かせたまま私を見てきたが、私は軽く肩をすくめるだけだ。

「“アタラクシア”の15年もののワイン、出してほしいんだが。今日はそれで祝いたいんだ」

不意にレミオネーラがフレデリスに向かって言った。今度は私が動きを止める番だった。フレデリスは目を右上にやり、わかったと答えて離れていった。

「…この名を知っているな」

先ほどまでの明るい雰囲気はどこへやら、ギシ、と椅子の背もたれを鳴らして彼女は嘆息していた。なんというか、どうしてこうなった・

「ああ、知ってる」

「…ほう、飲んだことがあるのか。あのワインはカーマスリビアの中でも、一部にしか存在を知られていないどマイナーなワインだぞ。私はフレデリスに伝手があるのを知っているから頼んだのだし、フレデリスも私が知っていることを知っているから、すんなり出してくれるだけで、普通はすっとぼけるところだ」

「いや、ワインの名前は知らないが…」

「彼女のことは知っている、と」

「……」

「まあ冗談だ、許せ…とでも言うと思っているのか」

「…?」

「ずいぶんと彼女に不義理をしていたようだな。彼女の魂は、漆黒の灰の近くに居た」

理解が追いつかなかった。レミオネーラは、少し険のある目つきで私を見ながら、ことのあらましを語り始めた。

 

故あって、ウィオレンティア女王と謁見したあとに漆黒の灰を訪ねたとき、レミオネーラはふと呼びかける声に気づいたそうだ。アイツの気配がしたと思ったけど。ゆらゆらと揺れる白い火の玉のような気配はそう言ったそうだ。

アタラクシアの残滓が、彼女自身の記憶を辿るよう、レミオネーラを導いていった。

ベア村で、メディアのアスラ高源で困っているものたちを助けたこと。
砂粒バザールに立ち寄り、殉教者の避難所で、初めての砂漠に少しの不安と…やっぱり中くらいの不安を感じたこと。
バレンシアでは、宿屋の主人が彼女たちのためにイチジクパイ100個作らされたらしい。
アンカト内港からベリアに貿易品を運んで大金とワインを手に入れたようだ。
もふもふたちを連れ、漆黒の灰に戻ったあたりで記憶を取り戻したらしい。

そして、カーマスリブの木にたどり着く頃には、堕落者の罠にかかっていたようだ。

オーディリタで助けたドスリアは、カルフェオンのスラム街の聖女となっていた。
アタラクシアは貯めていたお金を使って、カルフェオンで貧しい人々を助けていたという。

 

「…とまあ、最後にまたオーディリタに向かうんだが…」

「…ああ、わかった。ありがとう…」

「……まったく」

アタラクシアの豊かな表情が、レミオネーラの話の端々で想像できる。不思議なものだ。顔を合わせていたのは私がオーディリタへ旅立ってからウィオレンティア女王に会うまでの、そう長くない時間だったというのに。

そこでようやく、街の喧騒が私たちの空間に混ざり始めた。いつの間にか置かれていたワインのボトルと、赤ワイン。フレデリスに目をやると、通りを歩くどこかで見た冒険者の向こうで、帳簿片手にこちらに向かって顎をくいっと上に動かした。

レミオネーラは無表情に私を見ていた。ああそうだ。

「確かに、不義理を、していたな」

「そうだ。不義理だ」

だから、と彼女は続けた。

「しくしくともふもふのそばに、イチジクパイの好きな楽器精霊がいるから、せめて“彼女”にパイを渡してくるんだな」

無表情だったレミオネーラの顔がだんだんとニヤついてくる。私は顔を下げて、こみ上げてくる苦笑いを隠すようにした。そして、ワイングラスを手に取り、宙にかかげて見せた。

「「チア」」

お互いのグラスを軽く鳴らし、一口にワインを流し込んだ。これでまた、旅をする理由が一つ増えてしまった。

 

 

そういえば、どこかで聞かなかったか。カーマスリブの姉妹が死ぬと、楽器精霊に生まれ変わるのだ、と…。

 

 

 

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はい、黒い砂漠日記です。

 

シーズンキャラのVKさんでアタラクシア追加シナリオをなぞってきました。というか、オーディリタシナリオが終わって、ホントにたまたま寄った漆黒の灰で依頼を受けたのがきっかけで、アタラクシアのシナリオだとは全く知りませんでした。

 

詳しくはご自身でシナリオを追っていただければと思うのですが、なんというか、ホントに個人的に、アタラクシアが絡むとなんだか落ち着きません。

 

あと、ワインのアタラクシアはリアルにあります。南アフリカ産らしいです。そこそこのお値段です。ツイッターでも言いましたが、運営は絶対狙ってるよねこれ(´・ω・`)

 



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