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女商人のエリーが、長い旅に出るそうだ。顔なじみの客も多かっただろうが、新天地でさらに儲けてくる、と言ったとか言わなかったとか。どちらにせよ商魂たくましい女性だった。
が、困ったことが一つ。エリーが格安で売っていた「クロン定食」が、もう手に入らないと言うことだ。
いや、クロン定食自体は広く一般に売られているが、1シルバーで売っていたのはエリーだけだった。どうやればその値段で売って儲けが出るのか、私にはついぞわからなかったが、エリーがいなくなってしまった結果、市場のクロン定食が瞬く間になくなり、価格が跳ね上がってしまったのだ。
様々な魔法的効果を持っているクロン定食は、いまの私の旅には必須の食料だ。特に、戦闘を補助する効果が食べるだけで得られるとあって、私だけではなく、多くの冒険者がクロン定食を好んで食べていた。だから、市場から消えてしまったのだ。
さて、クロン定食は、いくつかの地方の料理が混ざり合ってできているらしい。その組み合わせの一つが、メディア料理とバレンシア料理、そしてドリガン料理だ。なので、メディア料理とバレンシア料理もここのところ割高になってきている。
ドリガン料理に至っては、元々珍しい料理だったこともあって、こちらもすぐに市場から消えてしまった。
ならば、ドリガン料理を確保するしかない。私はそう思い、カルフェオンの図書館でドリガン料理について調べ、ドベンクルンでも料理の話をいくつか聞いて回った。
わかったことは、ラマチーズ串焼き、マーモット丸焼き、ワラビ炒め、ホルミック、蜂蜜酒の5つをまず作れるようにならないといけないらしい。私にとってはどれも初めて作るものばかりだ。
ワラビ炒めやラマチーズ串焼き、蜂蜜酒なんかは、市場に出回っている素材や近場で狩り・採集すればなんとかなるが、マーモット肉と、ホルミックに使うヤク肉の流通量が少なく、自分で調達することにした。
地元の猟師に生息地を聞いてみると、マーモットはトシュラ廃墟の近く、ヤクはシェレカンの墓の山近くに多く生息しているという。
本来であれば、駆除依頼などの仕事を受けて、必要のない部位をもらい受けることで素材を調達するのだが、私が出遅れたのか、すでに依頼は別の冒険者が請け負ったあとだった。しくじった。費用は完全に私の持ち出しだ。
慌てて馬に乗って、猟師から聞いた生息地へ急いだ。下手すると、狩り尽くされたあとかもしれない。焦る私をくねくねした山道がさらに焦らせる。
ところが、私がヤクの群れを見つけた時、付近には誰もいなかった。大きく迂回し、さらに外側の気配を探ったが、本当に誰もいないようだ。幸運に恵まれたようだ。
それからは、ひたすらヤクを狩った。崖を登り斜面を駈け、近くにいたシェレカン族に見つからないように、剣を振るった。
もともとヤクはおとなしい性格で、私が近づいても我関せずと言うようにこちらを見向きもしないので、抵抗らしい抵抗もせずただ私の剣に切られるだけだった。最初のうちは高揚感で夢中になって剣を振るっていたが、しばらくすると、無抵抗の生き物を虐殺する罪悪感が胸の中に溜まってきた。
人間の、その中でも力を持つ者の都合で、何の罪もない無垢な生命が消えていくのだ。エゴでしかない。
2回に分けて狩りをして、合わせて600片程度のヤクの肉を手に入れた。全身、ヤクの返り血を浴びてむせかえるような臭いが漂っていた。馬に乗ろうとした時に、馬がいなないてこちらを威嚇したほどだ。自分のやったことが何なのか、その時はよくわからなかった。その後、マーモット狩りに行くのにも、正直気乗りしなかった。
おおよその素材が集まったところで、借りた家に設置してある料理道具で、5種の料理を作っていった。とにかく作っては味見して失敗して、また作っては味見して納得がいかず、試行錯誤の連続だった。ふと、一級の冒険者でありながら料理の世界で道人と呼ばれる地位までのぼりつめる人が多いのは、こうしたことの積み重ねの結果なのか、と思った。
なんとか満足のいく料理ができあがったので、目的であるドリガン料理を作ろうと思ったのだが、作り始めてすぐに、これは私の手には負えない、と感じた。
私もそれなりに料理の経験を積んでいるつもりだが、その階級もまだ「職人」止まりだ。そんな私でも、この料理は、かなり腕が上達して初めて形にできる難易度の高い料理だ。「名匠」とよばれるぐらいには実力をつけないとダメだろう。
私は火を止め、大きく息をついて後ろを振り返った。そこには、美味しそうな匂いに釣られて集まったペットの動物たちがいた。
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はい、黒い砂漠日記です。
魔物退治や探索だけが冒険者の日常ではないので、たまにはこんなものも。
ラモー装備などの、エリーのイベントが終了し、クロン定食を市場で調達しようとしたら、一時期ホントに上記のような状態になりまして。5種の料理を作ってから、名匠レベルが必要だと知って(´・ω・`)てなりました。
生活コンテンツは金策としても優秀なので手を出しやすいですが、ある意味「沼」なので、ワタクシはあまり深入りしないようにしています。というか、狩りとか採集とかめんどいー。
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