先日、娘に誘われて映画を観に行った。
その映画とは”人生フルーツ”
津端修一さん90歳、英子さん87歳
風と雑木林と建築家夫婦の物語である。
この日が上映初日とあってか
上映時間の30分も前に行ったにもかかわらず
映画館前には開場を待つ人々がすでに40人も並んでいて
この映画の人気のほどにまず驚いた。
1960年代に夫の修一さんが自ら手がけた春日井市のニュータウン。
その一角に自分の土地を購入して家を建て
妻の英子さんと共に一本一本苗木を植えて雑木林や果樹を育て
荒れた土を耕してキッチンガーデンを造り
手作りと工夫に満ち溢れた
自分たちの理想とする丁寧な暮らしを
50年かけてコツコツと紡いできた津端さんご夫妻。
そんなふたりの来し方と暮らしぶりを
地元のテレビ局が撮ったドキュメンタリーである。
ちなみにこの作品はH27年度放送文化基金賞の
テレビエンターテインメント番組部門で最優秀賞を受賞している。
映画はご夫妻の日常のありのままの姿を
ひたすら静かに淡々とカメラを回して追いかけるだけ…。
雑木林に囲まれたステキな家や
70種の野菜、50種の果実に彩られた食卓。
暮らしを豊かにする手仕事や趣味。
そして、美しく年を重ねる老夫婦の生き生きとした姿。
目の前の映像に映し出された世界は
誰もが「いいなあ~」と憧れる
まさに今流行りのスローライフそのものであり
そこに作り手の作為は微塵も感じられない。
ただ、ところどころに挟まれる過去の時代背景や
ふたりの生い立ち、育ち、出会い、結婚
そして、ここに到るまでの経緯が事実として語られていく中で
私たちは少しずつ気づかされていく。
ただ単に憧れるだけの”人生の楽園”ではないことに…。
目に見える映像の奥にある人生の真実に…。
撮影期間の途中で夫の修一さんが突然亡くなった。
その安らかな死に顔をカメラは凝視する。
違和感を覚えるほどの長時間。
そこには明らかに作り手の意思が働いているのを感じた。
見る者の気持ちをざわつかせる意図を…。
でも不思議と自然な光景に思えた。
秋に枯れ葉が自然に落ちていくのと同じように
人もまた自然に命を閉じていくのだ。
”風が吹けば枯れ葉が落ちる。
枯れ葉が落ちれば土が肥える。
土が肥えれば果実が実る。
こつこつ、ゆっくり、人生、フルーツ。”
樹木希林さんの力強いナレーションの声が
今も私の耳に印象的に残っている。
素晴らしい生き方をしてきた人や
今している人に出会うたびに
私もそんな人生を生きてみたいものだと思う。
このご夫妻から見習いたいのは
こつこつ、丁寧な暮らしである。
私の山暮らしもガーデニングも
趣味の陶芸もステンドグラスも児童文学も
まだファッションの域を出ていない。
見せかけのスローライフに過ぎない。
”人生は だんだん美しくなる”
そんなふうに生きたい。
まだまだ手の届かぬ世界であるが
いつか必ず少しでも近づきたいと思った。
そんな思いを抱かせてくれた
久し振りに観た素晴らしい映画だった。