OCTAVEBURG 外伝

ピアニスト羽石道代の書きたいことあれこれ。演奏会の予定は本編http://octaveburg.seesaa.net へ

ずるいぜチャイコフスキー

2019-07-23 | 日記

梅雨に時期は、夏はジメッとするもので。雨が降りやすい季節であることは事実なのだが。
私は雨女、とかいう類のものなのか、いやむしろ通り雨女系というか、一歩外に出るとなぜかポツポツないしはサアッといったタイプの雨に当たる確率が高い女だ。(ここ数日のすず様散歩は100%)なのに、それを見越して傘を持ったり、レインブーツを履いたら最後、降りやしない。ということは、雨女と言うより「私ばっかり」的な辱めを受けているただの「アンラッキー」な女なだけとも言える。とはいえ、人生的には結構ラッキーだという自覚はあるので、これくらいのアンラッキーは受けてしかるべきと、ありがてえありがてえと心で唱えつつ、今日もメガネが雨に濡れるわけです。

そんな中、先日素敵なバレエを見てかなり興奮したので久々に筆(?)を取ったのだが
一言、いや三言で言えば

言葉もありませんマシュー・ボーン
ずるいぜチャイコフスキー
やっぱり傑作なのね白鳥の湖。

つまり、マシュー・ボーンの「スワン・レイク」を見に行ったということです。

私があれこれ述べる必要が全くないので無駄に言わないようにいたしますが、毎回マシュー・ボーンの作品は凡人の想像の遥か先を行き、天才は常識とか既成概念とかこんなにも柔軟に越えていけるのかと、ショックなんか受ける筋合いもなく、もう胸がいっぱいになってしまってただただ無言で拍手を送るのみ。ほらやっぱりオリジナルがいいんじゃないの...と思ってしまうところもあるのに、嫌味なく全てが変わっていて、それがあたかもこの演出のために音楽も書かれたのではないかと錯覚してしまうフィット感に、もう驚くしかないのです。チャイコフスキー、起きてみた方がいいわよ!

そしてついついマイナーな世界に目が向きがちな私は、チャイコフスキーなんていうのは、また聴けるしね...とか思って後回しにしてしまう傾向にあるので、白鳥の湖を実は全幕ナマで見たのは初めてだったかもしれません。バランシン演出のあの情景の部分だけ、というのは見ましたが(それもとっても素敵。バランシンの振り付けは音楽的で楽譜を見ているみたい)、白鳥はね...いつでもね...なんて言って見てこなかった。ああ。名作の、この実力よ。ヴァイオリンソロとか。ハープのソロとか(*音楽は録音でした)もう。音楽だけでも美の世界はここにあったのか!と素直に思ってしまった。さらには h moll とH dur の効果的な演出効果に、私まんまと感動してしまって、ラストシーンで H dur になった時に泣きそうでした。(ステージではオスの白鳥たちが猛り狂ってましたけど。)

音楽でも常々ある問題としてオリジナルではない状態で行われる「アレンジもの」の扱いを改めて示された感じでした。極めれば、これですよ。細部まで整ってそれがもうすでに1つの人格(?)を持って息づいていれば、違和感がない。最終的には受け止め側の好き嫌いの問題になるのでそこまでは追いませんが、出す側の人間としては責任と能力、アイディアなど心して取り組むべきと背筋が伸びる気持ちです。(バレエダンサーの素敵さにももちろん背筋が伸びちゃうわけです。美の世界おそるべし。)

それと同時にそのアレンジ(とまでは行かずとも解釈という意味でも)に耐えられる曲というのもすごいと思っているのです。一通りではない、何か新しいインスピレーションを人に与えて、さらに発展する可能性があるという、それも面白いものだなと思います。もちろん、これはこれでなくちゃ!という世界もありますのでね。演奏者という作品と外界とが接する部分にいる立場では、常に作品に尊敬の気持ちを忘れず真剣に向き合うことが何よりも大事なことです。ええ。

あー世界の天才たちはすごいなー 言葉で説明されなくてもわかったもんなー 衣装も素敵だったなー舞踏会のシーンで女性客たちのブラックフォーマルの衣装が忘れられない。

天才のキラキラしたお裾分けをいただいて、私も頭も体も柔軟に生きたいものだと思っています。

*写真は本文とは関係ないけど美しの すず様