僕がいつも行ってるトリミングのお店は、
ママのお店がある京町堀の通りをそのままずっと西へ。
なにわ筋も越えて、まだまだまっすぐ行ったところにある。
僕の足では6、7分ってトコかな。信号も渡るんだけどね。
可愛いお姉さんが僕を担当してくれる。
お店のドアを入った右手にトリミングの金額のメニューがある。
シャンプー&トリートメントが犬種によって分かれている。
僕はミニチュアシュナウザー。
ママは初めての時に、ミニチュアシュナウザーの料金を見て支払いをしようとして、
中型犬料金を請求されたらしい。
「ミニチュアじゃないの?」とママは言ったんだ。
僕も思わず横でそう言ったよ。
するとお姉さんが「
オーディンちゃんはミニチュアですが、見た目は十分中型犬だと思うんです。
この料金ってシャンプーの量にも応じてるんですよ~」と言われて、
「そう言われると確かにね~」
妙に納得して帰ってきた僕ら。ママ一度全身僕のトリミングしてみてよ。
「オーディンのトリミングなんて私できないわ。じっとしてないでしょ。」
まぁ、確かにお姉さんだから僕らもじっと我慢しているけど、ママにされたら暴れるね。
だってついついワガママでちゃうよ。
だから、やっぱりトリミングのお店が必要なんだ。
ママのお店にもトリマーさんのお客さんがいる。
来た時には僕の身体をマッサージしてくれる。とっても気持ちがいいんだよ。
だから僕にとってはマッサージのお姉さんなんだ。
仕事柄、ママの得意とするジャケットやスーツを着る機会がほとんどない。
たまたまTVを見ていてママのお店を知ったそうだ。
インタビューされてるママの後ろにかかっていたブラウスがとっても気になって
見に来たのが最初の出逢いだった。
初めて来た時はなんとも場違いな感じがして早々にお店を出なきゃ、って思ったんだって。
「この辺りは初めてですか?」というママを見てドキっとしたそうだ。
ちょうどママが着ていたブラウスがお目当てのブラウスだったから。
「TV を見て。」
とお姉さんは小さな声で言った。そして
「TVで見たそのブラウスを見に来ました。」と。
ママの着ていたブラウスは、
洗濯後にアイロン要らずのポリエステルのフリル付きのブラウス。
名前は「究極のブラウス」。
フクシャピンクの色合いがとっても綺麗なブラウスだ。
そのブラウスは今でもリピーターがあるほどの定番オーダーブラウスだ。
色は30色の中から好きな色を選べる。
どんな時に着るのか、どんな風に着たいのか、スタイリングも含めて
ママはいろいろと聞いていた。
そして、お姉さんはオフホワイトを選んだ。
ブラウスの色を選ぶ間にお姉さんはママにポツリポツリと
この白いブラウスに寄せる思いを話し出した。
そのお姉さんは結婚する予定だった時があったそうだ。
可愛いミニのウェディングドレスを着て
素敵な高原にある教会で結婚式をするという夢を持っていた。
ところが、プロポーズされた次の休みの日。
いくら待っても約束の場所に彼はやって来なかった。
電話をしても通じない。無感情なアナウンスが流れるばかり。
一人暮らしをしていた彼のマンションで待っていても帰って来なかった。
「どうしたんだろ?何かあった?」
不安な予感は次の日の朝のニュースで衝撃に変わった。
30代男性、飲酒運転の車に跳ねられて死亡・・・耳を疑った。
次の瞬間、世の中が真っ白になったそうだ。
どうやって病院まで辿り着いたか今でもわからないという。
病室には家族らしい人たちがいて、入りたいけど入れなかった。
病室の外で声を殺して泣いた。お通夜とお葬式にも行けなかった。
まだ家族の人たちには紹介される前だったから。
それから1年。
ショックが大きすぎて立ち直れなかった。
仕事も手につかず、休業中。外へ出るのが恐くなった。
車を見るのが、恐い。彼を奪った車が。。。
これじゃダメだとようやく心の傷が癒えかかった時に、あのTVを見た。
そのブラウスは、彼と一緒に挙げるはずだった結婚式で
着たかった可愛いミニのウェディングドレスのイメージそのものだったそうだ。
今ここでこんな服と巡り会うなんて、、、
お姉さんの話にママも涙ぐんでいる。
ただただ話を聞いている。
ちょうどラジオからサイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」が流れて来た。
ママはお姉さんが明日に向かっていく1枚として受け取った。
素敵なブラウスがきっと想い出のウェディングかもしれない。
だけど、それはお姉さんにとって一歩踏み出すための希望のブラウスなんだ。
あれから何年も経ってお姉さんはそのブラウスを着て、新しい恋を見つけた。
ママは、お姉さんのために可愛いミニのウェディングドレスをデザインした。
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