おいしい朝ごはん

おいしい朝ごはん食べましたか 私はまだです

2006年06月03日 06時22分43秒 | へちま亭文章塾
けして広くない店の中央に店長専用のカウンターを作っていた天ぷら屋が銀座にあった。ほかの店員たちは壁際のカウンターで揚げていた。
迷わず店長が揚げるカウンターにすわった。ところが、店長は天かすをすくっている。なんで店長がてんかすを作るのか。
店長はてんぷらのネタを氷水と小麦粉の中に漬け、引き上げるとき、水切りをしない。ぽたぽたとたれているまま熱い油に入れている。これでは、小麦粉が粘りようがない。そのかわり、切れていない小麦粉水の汁が瞬時にてんかすとなって鍋を覆う。店長の天ぷらを揚げている時間のほとんどは、上がってくる天ぷらかすをすくうことに費やされる。だから店長がてんかすを作っているように見えたわけだ。
本職は天ぷらの衣はこうやってつくるのか。家庭では、こんなわがままな揚げ方はできない。
が、揚がったてんぷらをいただくと、たしかに衣にまったく粘りがない。当たり前だ。本当に一度も混ぜていない天衣無縫の天ぷらなのだから。

さる方のドレスの姿を拝見したとき天衣無縫の言葉が浮かんだ。確かに回りはたいへんであろう。しかし、いい仕事を期待するのであれば手間と暇を惜しんではならなぬ。天ぷら屋の店長は納得の行く仕事をするためにはてんかす作りをいとわない。そうでなければいい衣はつくれない。いい衣がなければいいてんぷらにならない。
だから、彼女のドレスの姿に毅然たる決意と強い意気込みを見出したのだ。