これまで魚の旨みとは何ぞやということを、魚屋や料理人に向けた話を伝えたいため、いろいろと書き連ねている。
前回、イノシン酸の説明で腐敗に触れたので、少しだけ説明したい。
「腐敗するという現象」
多くの細菌は10℃以下で増殖は低くなり、-15℃以下で停止するとされている。ご家庭では、10℃以下は冷蔵庫内の温度、-15℃以下は冷凍庫内の温度となっているだろう。
ただし、-15℃以下でも細菌は死滅しているわけではない。したがって、温度を高くすると増殖をはじめる。食中毒に関する細菌は、人間の体温に近い約35℃が最も増えやすいとされる。
細菌を死滅させる方法で最もポピュラーなのは、加熱である。食品の中心部温度を75℃で1分間以上、しっかりと加熱することが必要だ。また、ウイルス対策においては、約90℃で90秒間以上の加熱が望まれる。
しかし、80℃前後になると、魚は臭みが出てくることが多い。
このため、昔は臭みを出さないようにするため、90℃以上になるように加熱していた。獲れてから調理に取り掛かるまでの時間が昔と比べると劇的に短縮され、鮮度の良いまま調理に取り掛かれるようになっている。
さらに調理の技術、調理設備の改良がされているため、適した温度帯で調理することができるようになってきている。これをもとに、「臭みの出る80度前後の温度帯を避けて調理する工夫」が加わり、味の出し方、うま味の引き出し方にバリエーションがもてるようになってきている。
ちなみに臭みのもとになるのは、魚の脂、雑菌、水、魚の食べているエサに起因することが多い。近年、脂のある魚が好まれており、脂の多いサケ、ブリ、サンマ、下りガツオ、サバの消費量が多く、日本人の魚離れを抑えている要因である。
特にサケ(サーモン)は、海のない地域でも養殖(陸上養殖)が開始されおり、今後も消費量は増えるであろうが、やはり調理の段階で、臭みを抑える工夫も忘れてはならない。
しょうがを利用して臭みを抑えるというが、臭みを誤魔化すことはできるが消臭ではない。消臭は酒(日本酒)で行うことが一般的である。
臭みの一番の原因であるのは雑菌で、ヒレに多くいる。したがって、魚をよく洗いぬめりを取ることが最良である。
鮮度が良い魚は香りも高い。魚の香りは温度(熱)に弱く、生で食べる日本人だからこそ分かる感覚であろう。加熱調理が基本の外国では、魚の香りを楽しむという感覚がない。
彼らにとって、これまで経験したことのない感覚なので、和食や刺身が注目される要因の一つになっているのではないだろうか。
魚は、香りを通じてほのかに潜む味を感じ、楽しむもの。魚のおいしさの究極は、まさしく香りにあると思う。
この香りを利用すれば、魚(魚料理)はいくらでも演出ができる。肉からは香りは出ず、香りで肉料理は演出できない。
ちなみに魚を熟成させると香りはなくなる。一方、肉と違い魚の脂は味がなく、どの魚の脂も基本的には同じである。
また、魚の脂は寒くても溶けない。だから冷たい海でも自由に泳げるのである。
次回はグアニル酸に少しだけ触れたい。
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