町(まち)役人か町(ちょう)役人か
写真㊤:同心の出勤の服装
どちらの読みが正しいか? 江戸時代の話だ。
藤沢周平の「刺客 用心棒日月抄」の『薄暮の決闘』の章に次のような記述がある。
《町の者が喧嘩を遠巻きにし、その野次馬(やじうま)の中には町役人も混じっていて、時どき静止の声をかけているのだが、頭に血がのぼっている男たちは振りむきもしない。
獣じみた声をはり上げて得物を振り回している。喧嘩の渦(うず)があちらに移り、こちらに移るたびに、人垣が崩れて悲鳴が上がり、町役人も一緒になって逃げまどう始末始末だった。》(原文通り)
さて上記の文中の「町役人」は、まち役人と読むべきか、ちょう役人と読むべきか? 大概ルビ(仮名)が振ってあるのだが、生憎この箇所にはルビがない。
正解は、「ちょう役人」だ。当時、家持や家主などは、「町役人」(ちょうやくにん)と呼ばれ、行政組織の末端に位置する者だった。これを「まち役人」と読んではならない。
これに対して、町奉行所属の与力・同心は「町(まち)役人」もしくは「町方(まちかた)役人」といった。
上記藤沢周平の作品は、「町役人」の描写から見て奉行所同心でないことは明白だ。したがって、ちょうやくにんと読むのが正しい。
06.11.19