いい日旅立ち

日常のふとした気づき、温かいエピソードの紹介に努めます。

詩 ある墓碑銘

2019-09-02 22:57:13 | 


ある墓碑銘

一生を棒に振りし男ここに眠る。
彼は無価値に生きたり。
彼は唯人生に遍満する不可視の理法に
貫かれて生きたり。
彼は、常に自己の形骸を放下せり。
彼は詩を作りたれど詩歌の城を認めず。
彼の造形芸術は木材と岩石との構造にまで
  還元せり
彼は人間の卑小性を怒り、
その根元を価値観に帰せり
かかるがゆえに彼は無価値に生きたり。
一生を棒にふりし男ここに眠る。




詩 郷愁

2019-09-02 22:34:56 | 


郷愁

蝶のような私の郷愁!……蝶はいくつかの垣を超え、午後の街角に海を見る……。わたしは壁に海を聴く……。私は本を閉じる。私は壁に凭れる。隣の部屋で2時が打つ。「海、遠い海よ!と私は紙にしたためる。-----海よ、僕らの使う文字では、お前の中に母がいる。そして母よ、フランス人の言葉ではあなたの中に海がある。」







詩 我が友よ

2019-09-02 22:24:01 | 


我が友よ

独立せるわが友、
淋しいであろう。
だが耐えてくれ!
そうしてあわよくば
そうしてあわよくば
笑ってくれ。
勝利者の笑いを!
立っていてくれ、
しかし立てないならば
はってくれ、ひとりで。
そうして立てるときが来たら
立て!
わが友よ。
起き上がろう、
起き上がろうとする、
踏みにじられた草のように。
わが友よ。

そうして生まれたことを、
笑ってっくれ。
死ぬときも、
しがみつきつつも、
生まれたことを呪わないでくれ、
わが友よ。

















詩 母をおもう

2019-08-29 21:54:51 | 


母をおもう

夜中に目を覚ましてかじりついた
あのむっとするふところの中のお乳

「父さんと母さんとどっちが好き」と
夕暮れの背中の上でよく聞かされたあの路地は。

のみで怪我をしたおれのうしろから
切り火をうって学校へ出してくれたあの朝。

酔いしれて帰ってきたアトリエに
金釘流のあの手紙が待っていた巴里の一夜。

立身出世しない俺をいつまでも信じ切り、
自分の一生の望みもすてたあの凹んだ目。

やっとおれのうちの上り段をあがり、
おれの太い腕に抱かれたがったあの小さな
 からだ

そうして今死のうというときの
あの思いがけない権威ある変貌。

母を思い出すとおれは愚にかえり、
人生の底が抜けて
怖いものがなくなる。
どんなことがあろうともみんな
死んだ母が知っているような気がする。

















詩 あなたのこども

2019-08-28 20:54:00 | 


あなたのこども

あ かごの頃から風邪が友達だったぼく
な いてないで謝りなさいと怒られたぼく
た いいくがあるとお腹が痛くなったぼく
の ろまで運動会が嫌いだったぼく
こ えが小さくて恥ずかしがり屋だったぼく
ど うしても口ごたえしてしまったぼく
も うお母さんと会えなくなったぼく

あなたのこどもで よかった






詩 いつも いつでも やさしくて

2019-08-28 20:35:14 | 


いつも いつでも やさしくて

ぼくが泣いて帰ってきたときも
怪我をして帰ってきたときも

いつも いつでも やさしくて

ぼくが初めてウルセーって言ったときも
初めて学校で問題を起こしたときも

いつも いつでも やさしくて

ぼくが落ち込んでいるときも
反抗したときも

いつも いつでも やさしくて

そんなやさしい母さんだから
ぼくもやさしくしようっていう気持ちになる

でも 僕の中には「俺」がいて
そんな「俺」は時々
なにかに当たり散らして
ブツかって生きたかったんだ
でも

あなたは いつも いつでも やさしくて

だから本気で ブツかれなくて
だから本気で わがまま言えなくて
だから本気で さびしくて

やさしさで包んでくれる母の愛
ぼくはしあわせだけど
その「愛」が「やさしさ」が
ぼくのなかの「俺」を不自由にする

「俺」を母さんの前で自由にして
本気で手足をバタバタさせたい

いつも いつでも

でも 少しでも母さんに迷惑かけたくないんだ
そう そのやさしさの前では

いつも いつでも やさしくて
















詩 はかなごと

2019-08-26 22:33:10 | 


はかなごと

つい言い出したことはなけれど
言い出さねばわからぬものか
言い出さぬままに
いつしか過ぎぬれば
昔の思いは夢のようにて
唄のようにて
こころにかかった名も知らぬなやみは
薄いほくろか ほろりととれける
さびしや







詩 他人の親切

2019-08-26 22:14:58 | 


他人の親切

自分のように他人に嫌われていい
人間は少ないと心の底から思うときに、
他人に親切にされると
心の底からうれしい。
涙が出てくる。
この涙あればこそ
自分は淋しい世界に生きていけるのだ。
自分はこの頃淋しいのだ。








薬物乱用だった子の あたりまえ

2019-08-19 23:17:17 | 


あたりまえ

食べられる
眠れる
歩ける
朝を迎えられる
母がいる
みんな あたりまえのこと

あたりまえのことは
あたりまえじゃないんだと

あたりまえのなかのしあわせに気づかずに
薬を使って偽もののしあわせを求めたぼくは
いまやっと 気がついた

あたりまえの しあわせ
あたりまえの しあわせ





今日の詩 1 なれは旅人

2019-08-17 23:07:18 | 


なれは旅人

されどなれは旅人
旅人よ
樹かげにいこへ
こはこれなれが国ならず
旅人よ
なべてのことをよそに見て
つめたき石にもいこへかし
まことになれが故郷はなほかなたに遠し
はるかなるその村ざとにかへりつくまでは
旅人よ
つつしみて言葉すくなく
信なきものの手なとりそ
ただかりそめのまこともて彼らが肩に手なおきそ
さみしき彼らのが背を見るにも慣れてあれ
されどなれは旅人
旅人よ
樹かげにいりて
つめたき石にもいこへかし