いい日旅立ち

日常のふとした気づき、温かいエピソードの紹介に努めます。

詩 母をおもう

2019-08-29 21:54:51 | 


母をおもう

夜中に目を覚ましてかじりついた
あのむっとするふところの中のお乳

「父さんと母さんとどっちが好き」と
夕暮れの背中の上でよく聞かされたあの路地は。

のみで怪我をしたおれのうしろから
切り火をうって学校へ出してくれたあの朝。

酔いしれて帰ってきたアトリエに
金釘流のあの手紙が待っていた巴里の一夜。

立身出世しない俺をいつまでも信じ切り、
自分の一生の望みもすてたあの凹んだ目。

やっとおれのうちの上り段をあがり、
おれの太い腕に抱かれたがったあの小さな
 からだ

そうして今死のうというときの
あの思いがけない権威ある変貌。

母を思い出すとおれは愚にかえり、
人生の底が抜けて
怖いものがなくなる。
どんなことがあろうともみんな
死んだ母が知っているような気がする。

















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