カミさんの通勤コースには
カミさんが勝手に名付けた犬がいる
…
最初の頃は『こまったちゃん』っていう犬がいて
いや、俺もそのこまったちゃんに会ってみたいと思ったんだけど
カミさんの説明だけではよく分からない
とにかく困った顔をしているらしいのだ
『今日は、こまったちゃんが散歩していた』
と報告をされるも、俺には分からず
でも一度だけそれらしき犬を見かけた事がある
カミさんがいうこまったちゃんの家の辺りで
どうしようもなく困ったような顔をした白い犬が散歩していた
…もしやコレがこまったちゃんか??
困ったと言うか
老犬で、眉が下がっていて
それで困ったように見えるこまったちゃんのようだ
しかし、最近こまったちゃんを見たと言わなくなった
元気で暮らしてくれていればいいのだけれど
それから最近になって新しく名付けられた犬がいる
カネちゃんである
その犬が住んでいる地名から取ったようだ
…
初めにそのカネちゃんを教えてもらった時の説明は
痴呆になったのか、変に首を傾けて
ずっとグルグルグルグル同じところを回っているワンコがいるという事だった
そんな犬がいるのか…と、サラッと聞いただけだった
またある日は
こんな暑い日なのに外にカネちゃんを出しっぱなしにしていて可哀想すぎる
…と、訴えるのだった
まだ見ぬカネちゃんは俺の頭の中でひどい仕打ちをされているように思えた
秋になって気温が下がってきたころには
カネちゃん寒くて死んじゃうかもしれないと心配しているのだった
…
そう言われても俺もどうしようもない
とある日の事
俺はその道路を通る事があった
ふと、カミさんが話していたカネちゃんの事を思い出した
目印になる看板を教えてもらっていたので
近くに差し掛かった時にゆっくりと走りながらカネちゃんを探した
…
いた!!
紛れも無くカミさんの言ってたカネちゃんだ
犬小屋の中から首だけを出して
その首を変に傾けて
目も変な方向を見つめている
明らかに異常に見える
カミさんが言うように痴呆と言われれば確かにそう見える
そうか…ワンコにも痴呆ってあるんだな
なんで外に出しっぱなしにしてるんだろう
可哀想だ
カミさんは俺に言うんだけど
その家にはその家の事情があるだろう
そういう痴呆のワンコだと変な時間に吠えたりするのかもしれない
それは何とも言えない
暑さも寒さも我慢してもらうしかない状況なんだろうきっと
今日もカネちゃんの近くを通ってみた
あの姿を一度見てしまうと、どうしても気になってしまう
カネちゃんの姿は見えなかった
薄暗い小屋の入り口に白っぽい前足のようなものが見えた気がした
横になって休んでいたのかな
なんか、胸がギュウっと痛くなる
これからもカネちゃんを時々見に行こうと思う
通りがかりの俺には何もしてあげられないけれど
とっても気になってしょうがないのだ