チャイコフスキーのいわゆる「マンフレッド交響曲」は
4つの楽章から成る。その
【第2楽章】は3つの部分から成ってる。
1)主部:アルプスの魔女の主題
2)中間部:魔女の甘い誘惑の主題
3)主部の再現:魔女の主題
という、いわゆる[A-B-A]形式である。
私に服従すればお前の願いを叶えてやるよ、
と魔女はマンフレッドに誘いかける。が、
マンフレッドは拒否するのである。ときに、
言い出しっぺのバラキレフの指示書もバイロンの原作も、
順番としてはチャイコフスキーが書いた第3楽章のほうが
その第2楽章より前である。だからといって別段、
"シナリオが想いどおりにならずにとまどった"
というわけではないし、背丈が
160cmもないことを隠して(hide)るわけでも
ジキル博士からMr.hydeにさまがわりしたわけでもない。
第1楽章がアンダーンテなので緩徐楽章をあとまわしにした、
ということなのかもしれないし、あれほど
強烈な終わりかたをする第1楽章のあとに
"穏やかで平和に満ちた"楽想を連ねるのは
あまりに唐突だからなのかもしれない。
この楽章にもユルゲンソン社刊のスコアにはロシア語とフランス語で
(オイレンブルク社刊のにはドイツ語とフランス語で)標題が記されてる。
ロシア語を打ち込むのは面倒くさいのでフランス語のみ掲げる。
"La Fee des Alpes parait devant Manfred sous l'arc-en-ciel du torrent.
(ラ・フェ・デザルプ・パヘ・ドゥヴォン・マンフェド・ス・ラルク・オン・スィエル・デュ・トホン
=アルプスの魔女が滝にかかる虹の下のマンフレッドの前に現れる)"
ちなみに、
英語の原作ではこう説明されてる。
"the Witch of the Alps rises beneath the arch of the sunbow of the torrent."
この楽章はおよそ原作の第2幕第2場
A lower Valley in the Alps.-- A Cataract.
(ア・ロウア・ヴァリー・イン・ディ・アルプス……ア・ケタレクト
=アルプスの谷底寄りの瀑布)の
とりわけ以下の箇所を描いてる。
魔女:
"That is not in my province;
but if thou Wilt swear obedience to my will,
and do My bidding,
it may help thee to thy wishes.
(ダ゛ット・イズ・ノット・イン・マイ・プロヴィンス。
バット・イフ・ダウ・ウィルト・スウェア・オウビーディエンス・トゥ・マイ・ウィル、
アンド・ドゥ・マイ・ビディング、
イット・メイ・ヘルプ・ディー・トゥ・ダイ・ウィシズ)
「(拙大意)それは我が専門外のことであるぞよ。
が、そなたが我が意向への服従を誓い、
また、我が命令に従うなら、
汝の願いを叶えてやらぬでもないぞ」
マンフレッド:
"I will not swear--
Obey! and whom?
the spirits whose presence I command,
and be the slave of those who served me--
Never!
(アイ・ウィル・ノット・スウェア……
オウベイ! アンド・フーム?
ダ・スピリッツ・フーズ・プレズンス・アイ・コマンド、
アンド・ビー・ダ・スレイヴ・オヴ・ドウズ・フー・サーヴド・ミー……
ネヴァー!)
「(拙大意)私は誓ったりしない。
服従しろだと! いったい、誰に?
貴様はタカ&トシか!? 欧米か!?
私が現れろと命じた悪魔にか。
それとも私に仕えた奴隷のようになれというのか……
とんでもない! ファウストなんかと一緒にするな!」
魔女:
"Is this all?
Hast thou no gentler answer?--
Yet bethink thee,
And pause ere thou rejectest.
(イズ・ディス・オール?
ハスト・ダウ・ノウ・ジェントラー・アンサー?……
イェット・ビティンク・ディー、
アンド・ポーズ・エア・ダウ・リジェクティスト)
「(拙大意)それだけかい?
汝にはそんなにべもない言いかたしかできないのか?……
もう一度考え直してみてはどうなのだ、
拒否る前に一息いれてみるのだ」
マンフレッド:
"I have said it.
(アイ・ハヴ・セディット)
「(拙大意)答えは変わらん」
魔女:
Enough!--
I may retire then--
say!
(イナッフ!
アイ・メイ・リタア・デン……
セイ!)
「(拙大意)よかろう!
わらわは引き揚げるとするか、それでは……
のう!」
マンフレッド:
" Retire!"
(リタイア!)
「(拙大意)失せろ!」
[The WITCH disappears.]
(ダ・ウィッチ・ディサピアズ)
「(拙大意)魔女は姿を消す」
[Vivace con spirito(ヴィヴァーチェ・コン・スピーリト=快速に、生気をこめて)、
4分音符=120、2/4拍子、2♯(ロ短調)]
フルート2管+そのほぼオクターヴ下のクラリネット2管+動機の最後を補完するファゴット2管
によって、スタッカートの16分音符の動機が2小節にわたって
pからmfへと吹かれる。クラリネットはほぼフールートのオクターヴ下をユニゾってるので、
第1フルートと第2フルートにしぼって目をあててみる。
(第1フルート)♪●●レレ・<【レレ】>シシ│<【シシ】<【レレ】・>レレ<<【ファファ】│>ファファ♪
(第2フルート)♪●●【【ララ】】・>♭ラ♭ラ<【【ファファ】】│>ミミ<ララ・>【【♯ソ♯ソ】】<ドド│>【【シシ】】♪
というように、第2フルートと第1フルートがほぼ交互に
♪●●【【ララ】】・<【レレ】<【【ファファ】】│<【シシ】<【レレ】・>【【♯ソ♯ソ】】<【ファファ】│>【【シシ】】♪
というほぼ減七分散上昇旋律ラインを受け持たされてることが判る。と同時に、
第2フルートが吹く音型は、アスタルテの主題の主要動機である
♪ミ>レ<ラ>ソ♪
の変形
♪ラ>♯ソ<ファ>ミ♪もしくは♪ラ>♯ソ<ド>シ♪
でもある。これが、
裏打ちでシンコペ的に歪められ、
スタッカートをかけられた16分音符でダブルクリックされて
奏されるのである。
楽譜なしで聴く者にとっては、
じつに拍の捉えにくいものとなってる。これは、
実質嬰ヘ短調で第3フルート、イングリッシュホルンを加えて確保される。
対して、
副次的動機は最初フルート3管のユニゾンによる
3連符回転下降音型である。これは次いで、
2オクターヴ下でクラリネット2管のユニゾンで繰り返される。
これもクルクルと捉えどころのないものであり、
ピッツィカートの弦や木管などが
「眠れる森の美女」の「親指小僧と兄弟、人食い鬼」
の冒頭のような、チャイコフスキーの音楽にときどき現れる
無調もどきの音型を連ねる。そうでなくても、
1874-90年あたりまででこれほど
"前衛感のある"クラ音を書いたのは、
モーツァルト以外にはチャイコフスキーくらいなのではないだろうか。
ベートーヴェンは強烈な「不協和音」を使って
(たとえば「英雄」「運命」「田園」「合唱附き」など)
劇的な効果を演出してる作品も少なくないが、
それとは少し趣を異にする。ことによっては、
「マンフレッド交響曲」を作曲したのが、
敬愛するモーツァルトがK465を作曲してハイドンを招いて御前演奏をした
1785年からちょうど100年のアニヴァーサリーだったから、
"先輩"バラキレフに献呈するこの作品において、
チャイコフスキーはその"故事"に倣ったつもりだったのかもしれない。
(この第2楽章主部の主要主題を
チャイコフスキーのオーケストレイションほぼそのままに再現したものを
https://soundcloud.com/kamomenoiwao-1/tchaikovsky-manfredsymphony-2
にアップしておきました)
4つの楽章から成る。その
【第2楽章】は3つの部分から成ってる。
1)主部:アルプスの魔女の主題
2)中間部:魔女の甘い誘惑の主題
3)主部の再現:魔女の主題
という、いわゆる[A-B-A]形式である。
私に服従すればお前の願いを叶えてやるよ、
と魔女はマンフレッドに誘いかける。が、
マンフレッドは拒否するのである。ときに、
言い出しっぺのバラキレフの指示書もバイロンの原作も、
順番としてはチャイコフスキーが書いた第3楽章のほうが
その第2楽章より前である。だからといって別段、
"シナリオが想いどおりにならずにとまどった"
というわけではないし、背丈が
160cmもないことを隠して(hide)るわけでも
ジキル博士からMr.hydeにさまがわりしたわけでもない。
第1楽章がアンダーンテなので緩徐楽章をあとまわしにした、
ということなのかもしれないし、あれほど
強烈な終わりかたをする第1楽章のあとに
"穏やかで平和に満ちた"楽想を連ねるのは
あまりに唐突だからなのかもしれない。
この楽章にもユルゲンソン社刊のスコアにはロシア語とフランス語で
(オイレンブルク社刊のにはドイツ語とフランス語で)標題が記されてる。
ロシア語を打ち込むのは面倒くさいのでフランス語のみ掲げる。
"La Fee des Alpes parait devant Manfred sous l'arc-en-ciel du torrent.
(ラ・フェ・デザルプ・パヘ・ドゥヴォン・マンフェド・ス・ラルク・オン・スィエル・デュ・トホン
=アルプスの魔女が滝にかかる虹の下のマンフレッドの前に現れる)"
ちなみに、
英語の原作ではこう説明されてる。
"the Witch of the Alps rises beneath the arch of the sunbow of the torrent."
この楽章はおよそ原作の第2幕第2場
A lower Valley in the Alps.-- A Cataract.
(ア・ロウア・ヴァリー・イン・ディ・アルプス……ア・ケタレクト
=アルプスの谷底寄りの瀑布)の
とりわけ以下の箇所を描いてる。
魔女:
"That is not in my province;
but if thou Wilt swear obedience to my will,
and do My bidding,
it may help thee to thy wishes.
(ダ゛ット・イズ・ノット・イン・マイ・プロヴィンス。
バット・イフ・ダウ・ウィルト・スウェア・オウビーディエンス・トゥ・マイ・ウィル、
アンド・ドゥ・マイ・ビディング、
イット・メイ・ヘルプ・ディー・トゥ・ダイ・ウィシズ)
「(拙大意)それは我が専門外のことであるぞよ。
が、そなたが我が意向への服従を誓い、
また、我が命令に従うなら、
汝の願いを叶えてやらぬでもないぞ」
マンフレッド:
"I will not swear--
Obey! and whom?
the spirits whose presence I command,
and be the slave of those who served me--
Never!
(アイ・ウィル・ノット・スウェア……
オウベイ! アンド・フーム?
ダ・スピリッツ・フーズ・プレズンス・アイ・コマンド、
アンド・ビー・ダ・スレイヴ・オヴ・ドウズ・フー・サーヴド・ミー……
ネヴァー!)
「(拙大意)私は誓ったりしない。
服従しろだと! いったい、誰に?
貴様はタカ&トシか!? 欧米か!?
私が現れろと命じた悪魔にか。
それとも私に仕えた奴隷のようになれというのか……
とんでもない! ファウストなんかと一緒にするな!」
魔女:
"Is this all?
Hast thou no gentler answer?--
Yet bethink thee,
And pause ere thou rejectest.
(イズ・ディス・オール?
ハスト・ダウ・ノウ・ジェントラー・アンサー?……
イェット・ビティンク・ディー、
アンド・ポーズ・エア・ダウ・リジェクティスト)
「(拙大意)それだけかい?
汝にはそんなにべもない言いかたしかできないのか?……
もう一度考え直してみてはどうなのだ、
拒否る前に一息いれてみるのだ」
マンフレッド:
"I have said it.
(アイ・ハヴ・セディット)
「(拙大意)答えは変わらん」
魔女:
Enough!--
I may retire then--
say!
(イナッフ!
アイ・メイ・リタア・デン……
セイ!)
「(拙大意)よかろう!
わらわは引き揚げるとするか、それでは……
のう!」
マンフレッド:
" Retire!"
(リタイア!)
「(拙大意)失せろ!」
[The WITCH disappears.]
(ダ・ウィッチ・ディサピアズ)
「(拙大意)魔女は姿を消す」
[Vivace con spirito(ヴィヴァーチェ・コン・スピーリト=快速に、生気をこめて)、
4分音符=120、2/4拍子、2♯(ロ短調)]
フルート2管+そのほぼオクターヴ下のクラリネット2管+動機の最後を補完するファゴット2管
によって、スタッカートの16分音符の動機が2小節にわたって
pからmfへと吹かれる。クラリネットはほぼフールートのオクターヴ下をユニゾってるので、
第1フルートと第2フルートにしぼって目をあててみる。
(第1フルート)♪●●レレ・<【レレ】>シシ│<【シシ】<【レレ】・>レレ<<【ファファ】│>ファファ♪
(第2フルート)♪●●【【ララ】】・>♭ラ♭ラ<【【ファファ】】│>ミミ<ララ・>【【♯ソ♯ソ】】<ドド│>【【シシ】】♪
というように、第2フルートと第1フルートがほぼ交互に
♪●●【【ララ】】・<【レレ】<【【ファファ】】│<【シシ】<【レレ】・>【【♯ソ♯ソ】】<【ファファ】│>【【シシ】】♪
というほぼ減七分散上昇旋律ラインを受け持たされてることが判る。と同時に、
第2フルートが吹く音型は、アスタルテの主題の主要動機である
♪ミ>レ<ラ>ソ♪
の変形
♪ラ>♯ソ<ファ>ミ♪もしくは♪ラ>♯ソ<ド>シ♪
でもある。これが、
裏打ちでシンコペ的に歪められ、
スタッカートをかけられた16分音符でダブルクリックされて
奏されるのである。
楽譜なしで聴く者にとっては、
じつに拍の捉えにくいものとなってる。これは、
実質嬰ヘ短調で第3フルート、イングリッシュホルンを加えて確保される。
対して、
副次的動機は最初フルート3管のユニゾンによる
3連符回転下降音型である。これは次いで、
2オクターヴ下でクラリネット2管のユニゾンで繰り返される。
これもクルクルと捉えどころのないものであり、
ピッツィカートの弦や木管などが
「眠れる森の美女」の「親指小僧と兄弟、人食い鬼」
の冒頭のような、チャイコフスキーの音楽にときどき現れる
無調もどきの音型を連ねる。そうでなくても、
1874-90年あたりまででこれほど
"前衛感のある"クラ音を書いたのは、
モーツァルト以外にはチャイコフスキーくらいなのではないだろうか。
ベートーヴェンは強烈な「不協和音」を使って
(たとえば「英雄」「運命」「田園」「合唱附き」など)
劇的な効果を演出してる作品も少なくないが、
それとは少し趣を異にする。ことによっては、
「マンフレッド交響曲」を作曲したのが、
敬愛するモーツァルトがK465を作曲してハイドンを招いて御前演奏をした
1785年からちょうど100年のアニヴァーサリーだったから、
"先輩"バラキレフに献呈するこの作品において、
チャイコフスキーはその"故事"に倣ったつもりだったのかもしれない。
(この第2楽章主部の主要主題を
チャイコフスキーのオーケストレイションほぼそのままに再現したものを
https://soundcloud.com/kamomenoiwao-1/tchaikovsky-manfredsymphony-2
にアップしておきました)
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