Pixysのポジティブライフ

困難に立ち向かうアラフィフの日常
働いて働いて働いて働いて、たまに旅に出る

命日

2007-03-20 00:07:30 | 変な話
「ねむいなあ。濃いーコーヒー入れてくれる?」といいながら、先輩は私の頭をなでた。「こいーのね!OK!」それが20年前に交わした先輩との最後の会話だった。そうなんだ、あれからもう20年もたつのか。私にとってその当時の先輩達はすごい憧れ的な存在で、コーヒーいれてって言われるだけでめちゃ嬉しかった。あの時いつもより濃い目のブラックコーヒーを入れながら、先輩の顔を見あげた時、なんというか背中をすっと不安のようなものが走っていった。ひやっとしたその一瞬を思い出す。「なんであの時に気がつかなかったんだろう・・・。」お墓参りにいくたびにそう考えるようになっていた。
あの日、「夕方には戻る」そういった先輩がなかなかやってこないので、別の先輩と一緒に公衆電話まで電話をかけに行った。自宅に電話を入れた先輩は、今はもう見ない赤電話の受話器を握ったまま、ブルブル震えその場に座り込んでしまった。「どうしたの。」先輩は何もしゃべらなかった。何か大変な事が起きている事をまた背中で感じていた。先輩を抱え起こすと今度はとっとと歩いていってしまった。その電話での会話から大体の状況は把握できていたが「まさか、まさか。」と心の中で繰り返しながら稽古場に戻った。

亡くなったあとすぐに小屋入りで、くしくも追悼公演となってしまった。私は仕込み中のセット裏と本番カーテンコールの時に客席の一番後ろで先輩を目撃していた。今考えると一緒に舞台を作りたいと願った先輩の残留意識だったのかもしれない。「いいな、見られてうらやましい。」そんな事を言われたのも初めてだった。その後、先輩の姿は見えなくなった。夢に一度出てきた事があったがその後はすっかり姿を消してしまった。もしかしたらもう誰かに生れ変わっているのかもしれない。これからその人に会える時が来たら気がつくだろうか。そしたらあのコーヒーを入れていた時に気がつかなかったことを、もう後悔する事もなくなるのだろう。そんな根も葉もないことを考えながら、今日は一日ぼんやり過ごしていた。