6月27日(月)ベルリン・フィル八重奏団
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1.モーツァルト/ホルン五重奏曲 変ホ長調 K.407
2.モーツァルト/クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581
3.ベートーヴェン/七重奏曲 変ホ長調 Op.20
【アンコール】
シューベルト/八重奏曲~第3楽章 スケルツォ
Vn:ラティツァ・ホンダ=ローゼンベルク、ロマーノ・トマシー二/Vla:ヴィルフリード・シュトレーレ/Vc:クリストフ・イゲルブリンク/Cb:エスコ・ライネ/Cl:ヴェンツェル・フック/Hrn:シュテファン・イェジェルスキ/Fg:ヤッコ・ルオーマ
夫婦で出かけたベルリン・フィル八重奏団の演奏会は、予定されていたメンバーのうち3人が原発事故による来日拒否で交代した。その中には本公演の看板だったホルンのバボラークが含まれていたのはとりわけ残念。
バボラークを欠いたメンバーによるモーツァルトのホルン五重奏曲でホルンを吹いたイェジェルスキは、バボラークの完全無欠には及ばずとも、立派にバボラークの穴を埋めた。何より、バボラークが断った役を引き受けたことが嬉しい。大きな体で軽々とホルンを操り、柔らかな音色で軽やかに節を転がす名手ぶりは、さすがベルリンフィル。長い息で淀みのない旋律線を優雅に描いていく。弦のアンサンブルとのやり取りも実に自然で、小コンチェルトを聴いている気分を味わった。
次のクラリネット五重奏曲では予定どおりフックスがクラリネットを受け持った。この演奏にはもう言葉など必要ないがちょっとだけ…
フックスのクラリネットは、デリケート過ぎるほどに微妙なニュアンスに富み、淡い陰翳をアンサンブルに映し出す。前から3列目の席で聴いていても、息洩れの音は全く聞こえず、その最弱音のささやきは、もう神様の領域に入っていると言ってもいいほど。4人の弦のアンサンブルも素晴らしく、諦観を抱えたこの音楽を、どこまでも優しく包み込む。柔らかな息づかいから醸し出されるハーモニーは、どこまでも優美で穏やか。現世の激しい感情など忘れてしまったかのように天上の世界で、フックスの神様のささやきと共に美しい歌を奏でた。モーツァルトが五線に書き残した音たちは、こういう演奏でこそ真の居場所を見つけられるのだろう。
後半のベートーヴェンは、モーツァルトで内面へと向かっていたベクトルが外へ転じた。オペラの開始を告げる序曲のような心踊るワクワク感を伝えた冒頭の序奏から、嬉々とした高揚感が弾け飛ぶ終曲まで、7人のアンサンブルは終始楽しげに、ウキウキした音楽を自然な息づかいで繰り広げた。
アンサンブルをフィーチャーするファーストヴァイオリンのホンダ=ローゼンベルクは、プログラムの写真とは別人のような体格のいいオバチャンだが、その演奏は実に滑らかで軽やか。柔らかく澄んだ美音で縦横自在に駆け回り、魅力をふりまいていた。もう一人の主役はクラのフックスで、モーツァルトで聴かせた「陰」から「陽」へと転じ、存在感を発揮。この曲に限らず、あちこちで「いい味」を聴かせたヴィオラのシュトレーレ、明るい響きで雄弁に語るチェロのイゲルブリンク、艶やかな響きでくっきりとしたラインを描いたファゴットのルオーマ、抜群の安定感で要所を見事に押さえたホルンのイェジェルスキ、そしてアンサンブル全体を心地よく弾ませたコントラバスのライネ…
7人は思い思いに、自らの持ち味でやりたいことをやっているようでいながら、有機的につながり、バランスを保つところがすごい。時おり、誰かが仕掛けたイタズラに、さらにイタズラを加えて返す、という楽しげなやり取りまで感じられ、このアンサンブルが、まさに今この瞬間、音楽を生き生きと発信しているという臨場感にすっかり酔いしれてしまった。
アンコールではセカンドヴァイオリンのトマシー二も加わり、8人のメンバー総出で、ベートーヴェンのセプテットの姉妹曲ともいえるシューベルトのオクテットを聴かせてくれたのも嬉しかった。
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1.モーツァルト/ホルン五重奏曲 変ホ長調 K.407
2.モーツァルト/クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581
3.ベートーヴェン/七重奏曲 変ホ長調 Op.20
【アンコール】
シューベルト/八重奏曲~第3楽章 スケルツォ
Vn:ラティツァ・ホンダ=ローゼンベルク、ロマーノ・トマシー二/Vla:ヴィルフリード・シュトレーレ/Vc:クリストフ・イゲルブリンク/Cb:エスコ・ライネ/Cl:ヴェンツェル・フック/Hrn:シュテファン・イェジェルスキ/Fg:ヤッコ・ルオーマ
夫婦で出かけたベルリン・フィル八重奏団の演奏会は、予定されていたメンバーのうち3人が原発事故による来日拒否で交代した。その中には本公演の看板だったホルンのバボラークが含まれていたのはとりわけ残念。
バボラークを欠いたメンバーによるモーツァルトのホルン五重奏曲でホルンを吹いたイェジェルスキは、バボラークの完全無欠には及ばずとも、立派にバボラークの穴を埋めた。何より、バボラークが断った役を引き受けたことが嬉しい。大きな体で軽々とホルンを操り、柔らかな音色で軽やかに節を転がす名手ぶりは、さすがベルリンフィル。長い息で淀みのない旋律線を優雅に描いていく。弦のアンサンブルとのやり取りも実に自然で、小コンチェルトを聴いている気分を味わった。
次のクラリネット五重奏曲では予定どおりフックスがクラリネットを受け持った。この演奏にはもう言葉など必要ないがちょっとだけ…
フックスのクラリネットは、デリケート過ぎるほどに微妙なニュアンスに富み、淡い陰翳をアンサンブルに映し出す。前から3列目の席で聴いていても、息洩れの音は全く聞こえず、その最弱音のささやきは、もう神様の領域に入っていると言ってもいいほど。4人の弦のアンサンブルも素晴らしく、諦観を抱えたこの音楽を、どこまでも優しく包み込む。柔らかな息づかいから醸し出されるハーモニーは、どこまでも優美で穏やか。現世の激しい感情など忘れてしまったかのように天上の世界で、フックスの神様のささやきと共に美しい歌を奏でた。モーツァルトが五線に書き残した音たちは、こういう演奏でこそ真の居場所を見つけられるのだろう。
後半のベートーヴェンは、モーツァルトで内面へと向かっていたベクトルが外へ転じた。オペラの開始を告げる序曲のような心踊るワクワク感を伝えた冒頭の序奏から、嬉々とした高揚感が弾け飛ぶ終曲まで、7人のアンサンブルは終始楽しげに、ウキウキした音楽を自然な息づかいで繰り広げた。
アンサンブルをフィーチャーするファーストヴァイオリンのホンダ=ローゼンベルクは、プログラムの写真とは別人のような体格のいいオバチャンだが、その演奏は実に滑らかで軽やか。柔らかく澄んだ美音で縦横自在に駆け回り、魅力をふりまいていた。もう一人の主役はクラのフックスで、モーツァルトで聴かせた「陰」から「陽」へと転じ、存在感を発揮。この曲に限らず、あちこちで「いい味」を聴かせたヴィオラのシュトレーレ、明るい響きで雄弁に語るチェロのイゲルブリンク、艶やかな響きでくっきりとしたラインを描いたファゴットのルオーマ、抜群の安定感で要所を見事に押さえたホルンのイェジェルスキ、そしてアンサンブル全体を心地よく弾ませたコントラバスのライネ…
7人は思い思いに、自らの持ち味でやりたいことをやっているようでいながら、有機的につながり、バランスを保つところがすごい。時おり、誰かが仕掛けたイタズラに、さらにイタズラを加えて返す、という楽しげなやり取りまで感じられ、このアンサンブルが、まさに今この瞬間、音楽を生き生きと発信しているという臨場感にすっかり酔いしれてしまった。
アンコールではセカンドヴァイオリンのトマシー二も加わり、8人のメンバー総出で、ベートーヴェンのセプテットの姉妹曲ともいえるシューベルトのオクテットを聴かせてくれたのも嬉しかった。