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生誕120年 小野竹喬展

2010年03月25日 | pocknの気まぐれダイアリー
3月18日(木)

毎日新聞の美術展の案内で小野竹喬という日本画家を知った。対象を大きく捉え、余分なものを削ぎ落とした大胆な構図と、洗練された色彩、画面から立ち上ぼる香り… 新聞の印刷からでも、竹喬の作品の魅力は強烈に伝わってきて実物をどうしても見たくなり、国立近代美術館でたっぶり味わってきた。


《奥の細道句抄絵 田一枚植ゑて立ち去る柳かな》
国立近代美術館 展覧会情報のサイトより

竹喬は14歳で既に画家になる決意をしてから最晩年の89歳までの75年間、日本画の新たな可能性を模索し、常に画風を変化させて行った。竹喬28歳のときに文展に出品して落選になったという「郷土風景」からは、毎日新聞に紹介されていた竹喬後年の傑作群から感じるのと同質の洗練された鮮やかな空気感が既に伝わってきたが、何と言っても見る絵見る絵がどれも心を捉える竹喬60歳以降の作品群は素晴らしい。

泡立つ水しぶきに新芽が吹いた倒木が横たわる「奥入瀬の渓流」
懐の奥深くに包み込まれるような大海原だけを描いた「海」
澄んだ空気の下、夏山の山肌を爽やかな風が通り抜けるような「高原」
ダンスを踊っているように枝が戯れ、新緑が目に沁みる「朝」
葉を落とした白樺と常緑の松が鮮やかな対比を奏でる「樹」
曙の空に泰然と佇む山を描いた「比叡」
柔らかな雪面に、雪を溶かすほどの生命力を宿し生き生きと色鮮やかな幹を伸ばす「宿雪」

《宿雪》
国立近代美術館 展覧会情報のサイトより

さざなみ立つ透明感ある池の中で「私を見て!」という葦の叢のささやきが聴こえてくる「池」
野の雑草たちがそれぞれの歌を歌い、それらがハーモニーを奏でる「野辺」
深い水底まで鮮やかに見通せる沼に鮎が群泳しているかのような波紋を描く「沼」
紅葉の林が夕映えで燃え立ち迫ってくる「丘」
茜色の空と萌える楓の葉っぱたちと幹が鮮やかに饗宴を繰り広げる「樹幹の茜」
山の向こうに沈んだ太陽の光が名残惜しそうに湖面を彩る「春の湖面」・・・

そして最晩年に発表した芭蕉の句とのコラボレーション「奥の細道句抄絵」では、更に精神性を極め、芭蕉の句と見事な共鳴を奏でる傑作ばかり。

空の色と共に竹喬の澄み切った心をも映すような「田一枚植ゑて立ち去る柳かな」
じっと見ているとモノトーンの波のうねりのに引き込まれてしまいそうなエネルギーが伝わる「五月雨を集めて早し最上川」
幻の太陽を見ているように心が遠くへ導かれていく彼岸の境地を思わせる「暑き日を海にいれたり最上川」・・・

どれもが心を惹きつけ、絵の前にいつまでも佇んでいたくなる。
竹喬のこうした絵から伝わってくるメッセージは「水のハーモニー」。それは海や川、湖沼など実際に「水」を鮮やかに印象深く描いた絵だけでなく、若葉が芽吹く木々はおろか、冬枯れで葉を落とした幹にも、そこにそっと耳を当てれば命溢れる水の流れる音が聴こえるような、生命の源である水の存在を感じる。そして、その水に育まれた木々や草花や、もちろん水そのものが波や水しぶきとなって奏で合う豊かなハーモニー。
竹喬の絵からはそんな「音楽」が聴こえてくるようで、見ていて幸せな気持ちになった。

展覧会は4月11日まで東京国立近代美術館で開催中

生誕120年「小野竹喬展」公式サイト


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2 コメント

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竹喬 (一静庵)
2010-04-06 17:27:26
麦僊は知っていたのですが、竹喬は知りませんでした。デザイン的な要素もあり、おもしろく見ました。外の桜も見物してきました。
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Re: 竹喬 (pockn)
2010-04-07 18:04:24
麦僊ってよくわからずネットでちょっと見てみました。独特の魅力がありますね!「舞妓林泉」は切手で見覚えがありました。
日本画のいい作品に出会えると日本人で得した気分になります。
竹喬展では普段は買わない図録まで購入してしまいました。
返信する

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