pocknのコンサート感想録アーカイブス ~ブログ開設以前の心に残った公演~ 1998年 10月22日(金) クラウディオ・アッバード指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 アンナ・ラーソン(A)/アーノルト・シェーンベルク合唱団/東京少年少女合唱隊 横浜みなとみらいホール ○マーラー/交響曲第3番二短調 ㊝ 2年ぶりのアバド/ベルリン・フィルを横浜みなとみらいホールで聴いた。長大なマーラーの交響曲の中でも100分にも及ぶこの第3シンフォニーはマーラー最長の音楽であり、最も美しい音楽と言ってもいいかもしれない。そんな「美しさ」を見事に具現し、この長い、しかも私としては今までに数回しか聴いたことがない音楽に「退屈さ」や「長さ」を一瞬たりとも感じさせなかったのは、アバド/ベルリン・フィルだけができ得たことに違いない。 第1楽章の厳しさ、激しさは圧倒的。一心不乱に何かに突き進んで行くような、毅然とした姿は近寄りがたいほどのものがあり、最も長いこの楽章が終わったあとも会場は圧倒されたように殆ど咳も聞こえない様子。 第2楽章でのベルリン・フィルならではの木管の妙技に続く第3楽章のポストホルンの響きは天国から鳴り響き、降り注ぐような夢を見ているような気分にさせられ、この世のものとは思えないほど。 一転してアルトソロの呼びかけ、そしてこの音楽で最も幸福感をもたらす女声と少年合唱による第5楽章。天使の響きというのはまさしくこういうものと思わせる、世にも美しく幸福感溢れる音楽! そこから続けてアタッカで演奏された終楽章のやわらかく慈しむような、愛に満ちた弦楽合奏の歌が始まったときは全身に鳥肌が立った。どこまでもどこまでも美しく深く熱い音楽。 東京少年少女合唱隊は清らかな歌声で清々しい音色を響かせ、シェーンベルク合唱団の嬉々とした歌声も素晴らしい。 アンナ・ラーソンの声の立ち上がりが悪いのがそれだけに気になってしまった。 全曲を通してベルリン・フィルの力量の凄さに圧倒された。弦も管も全ての楽器、全てのアンサンブルが例えようもなく雄弁で多彩に最高のテクニックで音楽を表現する時の力、「オーケストラの音っていうのはこういう音なんですよ」と思い知らされるような音、アバドの歌心、全く迷いのない確信に満ちた表現、すべてにおいて超一流、世界の頂点に立つ指揮者とオーケストラの演奏に酔った。 こう書いてくると文句の付け所がないと言いたいが、自分の心が完全に演奏と共振し呼応した時に感じる恍惚の状態にはなり切れなかっことを白状しなければならない。そして、これは自分のコンディションや座席のせいではなく、アバド/ベルリン・フィルが為し得る全ての条件が整ったときの最高の演奏、とまでは言えなかったことに起因するように思う。しかし、これは誰を責めるというものではないし、素晴らしい演奏の価値を下げるようなものではない。 con graのYukoさんや、con gra上で知り合いこの日のチケットを譲ってくれたisseiさんとのご対面、コンサート後の楽しい集いも合わせて思い出深い日となった。 |
98年のアバド/ベルリン・フィルの日本公演では、シューマンの「マンフレッド」序曲とピリスのピアノでピアノ協奏曲、ドビュッシーの「夜想曲」とラヴェルの「ラ・ヴァルス」という多彩なプログラム、モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲とブルックナーの第5交響曲というプログラム、それにこのマーラーの3番という3種類のプログラムで行われた。
みなとみらいホールで行われたこのマーラーの3番のコンサートは、アバドをこよなく愛するcon graziaのyukoさんや、現在熊本にプロのオケを作る運動を精力的に展開しているNPO法人「オーケストラ創造」理事長のisseiさんとお目にかかれたという意味でも記念すべき日となった。
感想の後半ではちょっとネガティブなことも書いてしまっているが、アバド/ベルリン・フィルというと、それ以前に「とんでもない名演」を体験しているために、そんな神がかり的な名演を期待していたせい、というのが大きい。今感想を読み返して思い出してみて、とても素晴らしいコンサートだったことを改めてかみ締めている。
(2014.1.27)
アバドが逝ってしまった・・・