2月23日(火)Vn:イザベル・ファウスト/Vc:ジャン=ギアン・ケラス/
Pf:アレクサンドル・メルニコフ
~都民芸術音楽サークル第644回公演~
東京文化会館大ホール
【曲目】
1.シューマン/ピアノ三重奏曲第3番ト短調 Op.110
2.エリオット・カーター/エピグラム(2012)
3.シューベルト/ピアノ三重奏曲第1番変ロ長調 D898
【アンコール】
シューマン/ピアノ三重奏曲第2番ヘ長調Op.80~第3楽章
ヴァイオリンのファウスト、チェロのケラス、ピアノのメルニコフ。今やそれぞれの世界で最も注目され、精力的な活動をしている気鋭の3人のプレイヤーがトリオをやるとなれば、それぞれの個性をぶつけ合い、白熱したエキサイティングなアンサンブルを聴かせてくれるかと思いきや、そうしたイメージとは対極の、世にも稀なほどの調和の世界を聴くこととなった。
プログラムの前後に置かれたシューマンとシューベルトのトリオは、ロマン派たけなわの、心から歌い上げ、ロマンチックな情感が全開してもいい音楽だが、耳に馴染みのフレーズが別の音楽のように声を潜めて語りかけてきた。3人は個性の火花を散らして競い合う代わりに、弱音を主体に、重力や力みなどから完全に解放され、天使たちが優美に舞い、楽しげに浮遊する天上の楽園のシーンを思わせる演奏を繰り広げて行った。
それは気まぐれや思い付きの気楽さではなく、3人はお互いに敏感で繊細なアンテナを張って相手の出方を瞬時に察知し合い、一番美しい響きが生まれるポイントに音を合わせ、響きを作り出す。そして、ちょっとした呼吸の間やアゴーギクの微妙な変化から独特の空気感を生み出し、或いは時に強烈なアクセントで演奏にスパイスを効かせたりする。
こうしたアプローチは、作品に新たな光を当て、それまで気づかなかった曲の魅力を聴き手に伝える。まるで新しい音楽を聴いているような感覚になるほど新鮮だ。このような演奏を実現するには、プレイヤー個々のセンシティヴな抜群のセンスと卓越したテクニックだけでなく、3人が共鳴し合い、同じ次元で音楽を作ることが必要だろう。世界でも超多忙な3人だが、このメンバーでもう10年以上トリオを続けているということで、曲から同じ匂いを感じ取り、それを醸成してきたことが窺える。
一方で、聴き慣れた演奏とこうも異なり、いろいろな意味で期待を裏切ってくると、戸惑うことも少なくない。ハーフタッチ?と思うほどの撫でるようなメルニコフのピアノのタッチを始め、音量がとにかく小さくて、こういうタイプの演奏はフォルテピアノを使い、もっと小さなホールでやると、印象はもっと違ったのではないだろうか。
その点、2曲目に演奏したカーターの作品は初めて聴く現代曲ということもあって、先入観なしに楽しむことができた。エリオット・カーター102歳の時の作品ということだが、音楽は非常にセンシティヴでかつ生き生きと輝いている。3人のプレイヤーは、シューマンやシューベルトと同様に精巧で緻密で、デリケートなアンサンブルを繰り広げ、初めて接する音世界の魅力をピュアに引き出していた。
今夜は「都民劇場」という鑑賞団体の定期公演。いい演奏会を沢山提供しているが、どうもお客のテンションが低い。こんな稀有な音楽体験をさせてくれた演奏にも儀礼的な拍手をしてすぐに終わってしまうように思えたのが残念だった。
イザベル・ファウスト&クリスティアン・ベザイデンホウト デュオ 2016.10.11 王子ホール
イザベル・ファウスト&アレクサンドル・メルニコフ デュオ 2014.6.28 王子ホール
ジャン=ギアン・ケラス 無伴奏チェロ 2016.11.22 杉並公会堂
ジャン=ギアン・ケラス 無伴奏チェロ 2013.11.22 東京オペラシティコンサートホール
CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~
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【曲目】
1.シューマン/ピアノ三重奏曲第3番ト短調 Op.110
2.エリオット・カーター/エピグラム(2012)
3.シューベルト/ピアノ三重奏曲第1番変ロ長調 D898
【アンコール】
シューマン/ピアノ三重奏曲第2番ヘ長調Op.80~第3楽章
ヴァイオリンのファウスト、チェロのケラス、ピアノのメルニコフ。今やそれぞれの世界で最も注目され、精力的な活動をしている気鋭の3人のプレイヤーがトリオをやるとなれば、それぞれの個性をぶつけ合い、白熱したエキサイティングなアンサンブルを聴かせてくれるかと思いきや、そうしたイメージとは対極の、世にも稀なほどの調和の世界を聴くこととなった。
プログラムの前後に置かれたシューマンとシューベルトのトリオは、ロマン派たけなわの、心から歌い上げ、ロマンチックな情感が全開してもいい音楽だが、耳に馴染みのフレーズが別の音楽のように声を潜めて語りかけてきた。3人は個性の火花を散らして競い合う代わりに、弱音を主体に、重力や力みなどから完全に解放され、天使たちが優美に舞い、楽しげに浮遊する天上の楽園のシーンを思わせる演奏を繰り広げて行った。
それは気まぐれや思い付きの気楽さではなく、3人はお互いに敏感で繊細なアンテナを張って相手の出方を瞬時に察知し合い、一番美しい響きが生まれるポイントに音を合わせ、響きを作り出す。そして、ちょっとした呼吸の間やアゴーギクの微妙な変化から独特の空気感を生み出し、或いは時に強烈なアクセントで演奏にスパイスを効かせたりする。
こうしたアプローチは、作品に新たな光を当て、それまで気づかなかった曲の魅力を聴き手に伝える。まるで新しい音楽を聴いているような感覚になるほど新鮮だ。このような演奏を実現するには、プレイヤー個々のセンシティヴな抜群のセンスと卓越したテクニックだけでなく、3人が共鳴し合い、同じ次元で音楽を作ることが必要だろう。世界でも超多忙な3人だが、このメンバーでもう10年以上トリオを続けているということで、曲から同じ匂いを感じ取り、それを醸成してきたことが窺える。
一方で、聴き慣れた演奏とこうも異なり、いろいろな意味で期待を裏切ってくると、戸惑うことも少なくない。ハーフタッチ?と思うほどの撫でるようなメルニコフのピアノのタッチを始め、音量がとにかく小さくて、こういうタイプの演奏はフォルテピアノを使い、もっと小さなホールでやると、印象はもっと違ったのではないだろうか。
その点、2曲目に演奏したカーターの作品は初めて聴く現代曲ということもあって、先入観なしに楽しむことができた。エリオット・カーター102歳の時の作品ということだが、音楽は非常にセンシティヴでかつ生き生きと輝いている。3人のプレイヤーは、シューマンやシューベルトと同様に精巧で緻密で、デリケートなアンサンブルを繰り広げ、初めて接する音世界の魅力をピュアに引き出していた。
今夜は「都民劇場」という鑑賞団体の定期公演。いい演奏会を沢山提供しているが、どうもお客のテンションが低い。こんな稀有な音楽体験をさせてくれた演奏にも儀礼的な拍手をしてすぐに終わってしまうように思えたのが残念だった。
イザベル・ファウスト&クリスティアン・ベザイデンホウト デュオ 2016.10.11 王子ホール
イザベル・ファウスト&アレクサンドル・メルニコフ デュオ 2014.6.28 王子ホール
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