facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

アンジェラ・ヒューイット ピアノリサイタル

2013年10月16日 | pocknのコンサート感想録2013
10月16日(水)アンジェラ・ヒューイット(Pf) 
王子ホール

【曲目】
1.バッハ/ケンプ編/いざ来たれ、異教徒の救い主よ BWV659
2. バッハ/ケンプ編/シチリアーノ ト短調(フルート・ソナタ 変ホ長調BWV1031より)
3. バッハ/ケンプ編/シンフォニア ニ長調(カンタータ 第29番「神よ、われら汝に感謝す」BWV29より)
4. ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第28番イ長調 Op.101
5. バッハ/フーガの技法 BWV1080 より(コントラプンクトゥスⅠ-Ⅹ)
【アンコール】
グルック/ケンプ編/精霊の踊り

ヒューイットのバッハは、平均律のCDをウォークマンに入れたやつをよく聴いていて馴染みがある。それで今回のリサイタルを聴きたいと思った。ステージに置かれたピアノには"FAZIOLI"の文字が。ヒューイットのリクエストで用意されたのだろうか。

まずはケンプのアレンジによるバッハの小品。最初の「来たれ、異教徒の救い主よ」を聴いて受けた印象は、リサイタル全体の印象と重なるほど象徴的で特徴的だった。一言で表せば、濃厚でアグレッシブに働きかけてくる重量感のある演奏。ピリオド演奏にしろ、モダンにしろ、近頃のバッハは軽快なテンポ感から生まれるメリハリの効いた活きのいい演奏が多いが、ヒューイットのバッハはオルガンの響きを思わせるように、重厚でドラマチックなアプローチを仕掛けてくる。ちょっともったいぶったように間を置いたり、フレーズのおしまいを溜めたりして、じっくりたっぷりバラード風に表現する。ひたひたと歩を進めるイメージがある最初の2曲が、濃厚な力量感を持って迫ってきた。そして3曲目のシンフォニアは、ステンドグラスの色鮮やかな光が降り注ぐ大伽藍の壮麗な聖堂に鳴り響くオルガンコンチェルトのごときゴージャスな演奏。CDからイメージしていたバッハとはかなり違うエンターテイメント性を感じた。

続いて、「フーガ」に因んで演奏されたベートーベンのフーガ付きのソナタ。ここでもヒューイットの演奏はダイナミック。両肩をガッシリ掴まれて揺すられ「ねっ、ねっ、いいでしょ、このベートーベン!?」とアピールしてくる感じ。音が大きくて、がっしりとした骨格のスケールの大きな演奏だが、かなり大味な印象を受けた。ベートーベンの後期にさしかかる頃の作品の思索的なところや、一つの音へのこだわりは感じられなかった。

前半の演奏を聴くと、バッハの作品のなかでも外面的な効果で引き付ける要素が殆どない「フーガの技法」がどんな演奏になるかが予測できなくなったが、聴いてみて、前半の演奏スタイルとの共通点を強く感じた。それは、骨太で振幅の大きなドラマチックな演奏。

今夜は前半の10曲が演奏されたが、ヒューイットは1曲1曲どの曲にも大きな見せ場、山場を作って、 それぞれを独立した完結した作品として演奏していった。立派なフーガ楽曲を10曲並べました、という感じでボリューム感は満点だが、横の繋がりが殆ど見えてこないし、その結果、「フーガの技法」という一つの大きな括りが見えてこない。これはこれでいいのかも知れないが、これではリサイタルの後半を「フーガの技法」一本で挑んできた意味がなくなってしまうのではないだろうか。それぞれの楽曲はドラマチックでダイナミックに聴かせてくれるが、曲の後半に向けてエネルギーを高めて行って山を築くやり方がどれも同じようで面白味に乏しい。

ウォークマンでよく聴いているヒューイットの平均律は、今夜聴いたバッハと比べて、もっとデリケートで表現のパレットも多彩で、楽曲同士の横の繋がりも計算されているように感じるだけに、CDを聴いて抱いていたヒューイットのイメージとのギャップの大きさに戸惑いを感じた今夜のリサイタルだった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2013年10月B定期(ノリントン... | トップ | マレイ・ペライア ピアノリ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

pocknのコンサート感想録2013」カテゴリの最新記事