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ピエール=ロラン・エマール バッハの平均律第1巻全曲演奏会

2014年10月04日 | pocknのコンサート感想録2014

10月4日(土)ピエール=ロラン・エマール(Pf)
~バッハ《平均律クラヴィーア曲集第1巻》全曲演奏会~
彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール

【曲目】
◎バッハ/平均律クラヴィーア曲集第1巻


バロックでも現代曲でもドビュッシーでも、その音楽の持つ魅力をエモーショナルに聴かせ、いつもエキサイティングなリサイタルをやってくれるピエール=ロラン・エマール。2008年に「フーガの技法」を現代曲と交互に演奏したときのリサイタルが素晴らしく、更に映画「ピアノマニア」で、エマールのバッハへの並々ならぬこだわり方を見て、今回の平均律の全曲プログラムは是非聴きたいと思った。KAJIMOTO主催の東京公演は1万円といういつにない高額だったので買うのを躊躇していたら、さいたま芸術劇場で同じ曲目が6000円だったのですかさずこれを購入した。

平均律全曲といえば、2011年に聴いたアンドラーシュ・シフの演奏が未だに忘れられないが、エマールはまた違ったアプローチでこの音楽の魅力を届けてくれると期待。冒頭のハ長調のプレリュードで、エマールらしからぬほころびが目立ってコンディションが気になったが、その後は大きな乱れはなく、休憩を挟んで全24曲のプレリュードとフーガを演奏し終えた。

演奏にエマールらしい「感性の煌き」を感じることはあったが、正直なところエマールの「平均律」は手放しで賞賛する気持ちにはなれなかった。音楽を冷静に見つめ、全ての声部の全ての音の役割に光を当てる知的なアプローチで聴かせつつ10本の指から繰り出されるバッハは、この対位法で書かれた音楽の構造的な面白さを引き出し、更にその瞬間瞬間に現れるハーモニーの魅力を聴かせることには成功していた。またコントラストやリズムを明瞭に弾き分け、それぞれに相応しい息づかいを巧みに使い分けることで、この曲集の多彩な顔を披露し、聴き手を楽しませることもうまく行っていたと思う。チェンバロで弦を爪が弾くような感触をスタインウェイのピアノから引き出していたのも面白かった。

けれどそれを聴いている自分の気持ちは「それで?」となってしまう。それでエマールは何を伝えたいのか、というところでの共感にまで至らない。バッハの音楽には、人間の喜怒哀楽を全て包み込んだ深い愛とか信仰心(宗教を限定する必要はない)といった、普遍的な「声」を呼び起こす力があると思う。平均律のような様々に多彩な顔を持った曲集であっても、その全曲を通して定旋律のように貫くそうした「声」が聴こえてきてこそ、その演奏に共感できるのではないか、という気持ちになった。その意味でエマールが楽曲ごとに投げ掛けてくる技を尽くした数々の変化球が、反って煩わしくさえ感じてしまった。

以前聴いた「フーガの技法」で感銘を受けたのは6年前。エマールのバッハへのアプローチが変わったのか、或いはバッハだけの全曲演奏会ではまた違ったものが求められるのか、今日の演奏会ではよくわからなかったが、エマールは「平均律」でCDも出ているのでもう一度聴いてみたい。なんと言ってもエマールは何度もリサイタルを聴いているお気に入りのピアニストだから。

ピエール=ロラン・エマール リサイタル 2012.11.22 トッパンホール

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