10月19日(火)ラファウ・ブレハッチ ピアノリサイタル
~ショパン生誕200周年記念 オール・ショパン・プログラム~
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1.バラード第1番ト短調op.23
2.3つのワルツop.34
3.スケルツォ第1番ロ短調op.20
4.2つのポロネーズop.26
5.4つのマズルカop.41
6.バラード第2番ヘ長調op.38
【アンコール】
1.マズルカop.50-2
2.英雄ポロネーズ
3.ノクターン第20番(レント・コン・グラン・エスプレシオーネ)
だいぶ前のことだが、「ブレハッチいいよーっ!」と目を輝かせて感動を伝えてきた大学の小石先生の表情と言葉がかなり印象に残っていて、「ブレハッチ」という名前だけで、どんなピアニストか全く知らずに今回チケットを買い、リサイタルを聴いた。会場はかなり埋まっている。若い人も多く、なかなか人気があるようだ。そして腕前のほうは…
バラード第1番冒頭のC音が鳴り響いたとき、恐らくすでにこのピアニストの真価のかなりの部分がガーンと伝わってきた。豊かな響きは大地に深く染み渡り、大地を揺るがすほどに力がみなぎっている。そして語り始める物語は、ノスタルジックな回想ではなく、未来への夢を熱く語っている。
ブレハッチの弾くショパンは全てにおいて若々しい。均整の取れた美しい肉体にエネルギーが行き渡り、しなやかに力強く駆け抜け、跳び跳ねる。立ち止まって静かに語るときも、希望と熱い思いがある。完璧なテクニックと枝葉末節にまで行き届く細やかな神経で、理想的とも言える整った姿を形づくり、どんな動きをしても美しいフォームは乱れることがない。
スケルツォ第1番の苦しくあえいで登っているようなパッセージも、ブレハッチが弾けば、スキーでコブ斜面を果敢かつ鮮やかに攻め、クリアするアスリートを見ているようで胸がすく思いがする。そして憧れに満ちた中間部の、ふくよかな叙情。最近、暗い内面へと落ち込んで行くようなショパンをよく聴いていたので、こんな希望に溢れた若々しくポジティブなショパンを聴くと、こういうショパンがあっても絶対にいいんだ、という嬉しい気持ちになる。
休憩時間にチラシを読んでブレハッチのプロフィールを知った。2005年のショパンコンクール優勝者か・・・ 人気が高いわけだ。ポーランド人であること、ショパンコンクールでは「ショパンと同化した演奏」で審査員が涙を流したなんてエピソードまで読んでしまったせいで、後半は「健康的なショパン」というイメージに、どこかポーランドの民族の血を感じ取らなければいけないような気になってくる。これじゃあ血液型を聞いた途端、別人を見るように目付きが変わってしまう人を責めてばかりもいられないかも…
そんなわけで、休憩時間に得た情報の色眼鏡で聴いた後半のブレハッチの演奏からは、やっぱり民族的な臭いや、狂おしいほどに祖国を思うシビアさは感じ取れないが、そうした民族色とか生々しい感情を、洗練・昇華させ、命が吹き込まれているのは感じられた。ブリリアントなだけでなく、ズーンと心の奥底に届く深い思いが伝わってきたのは選曲のせいもあるのだろうか。
ポロネーズでもマズルカでも、熱く一途な思いと、いくつもの色が合わさった深い色調が感じられ、バラード第2番の人間的なあったか味も忘れ難い。そして、アンコールで弾いた英雄ポロネーズの、非の打ち所のない演奏!力強く誇らしげに先導するメロディーと、それに呼応しつつ優雅にエスコートする内声、そして軽やかかつ力強いステップを踏むバスの妙味が奏で合うまさしく饗宴。中間部の叙情的なところも熱っぽい思いがこもる。
アンコール最後の遺作のワルツも素晴らしい。仲道さんの心が透明になるほどの静謐さに涙がじわーっと出てしまう演奏がやっぱり大好きだが、ブレハッチの、心のざわめき、うわ言のように好きな人の名前を呼び続けるような熱い思いのこもった演奏も魅力的だった。
ショパンをこれほどまでに美しいフォルムで、瑞々しく、そして若々しい情熱を持って聴かせることのできるピアニストは他にいないかも知れない。ブレハッチの演奏でもっとショパンをいろいろ聴きたくなった。
ところで今夜も、この前の武満バースデーコンサートに続いて演奏中にケータイが鳴った!しかも、プログラム最後の一番終わりの静かな場面で!ショックと怒りはアンコールまで尾を引いてしまった。これはもう犯罪としか言いようがない。こんなことやって、お咎めなしなんて許されるのだろうか。本気で罰金制度かなにか設けてほしい。
~ショパン生誕200周年記念 オール・ショパン・プログラム~
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1.バラード第1番ト短調op.23
2.3つのワルツop.34
3.スケルツォ第1番ロ短調op.20
4.2つのポロネーズop.26
5.4つのマズルカop.41
6.バラード第2番ヘ長調op.38
【アンコール】
1.マズルカop.50-2
2.英雄ポロネーズ
3.ノクターン第20番(レント・コン・グラン・エスプレシオーネ)
だいぶ前のことだが、「ブレハッチいいよーっ!」と目を輝かせて感動を伝えてきた大学の小石先生の表情と言葉がかなり印象に残っていて、「ブレハッチ」という名前だけで、どんなピアニストか全く知らずに今回チケットを買い、リサイタルを聴いた。会場はかなり埋まっている。若い人も多く、なかなか人気があるようだ。そして腕前のほうは…
バラード第1番冒頭のC音が鳴り響いたとき、恐らくすでにこのピアニストの真価のかなりの部分がガーンと伝わってきた。豊かな響きは大地に深く染み渡り、大地を揺るがすほどに力がみなぎっている。そして語り始める物語は、ノスタルジックな回想ではなく、未来への夢を熱く語っている。
ブレハッチの弾くショパンは全てにおいて若々しい。均整の取れた美しい肉体にエネルギーが行き渡り、しなやかに力強く駆け抜け、跳び跳ねる。立ち止まって静かに語るときも、希望と熱い思いがある。完璧なテクニックと枝葉末節にまで行き届く細やかな神経で、理想的とも言える整った姿を形づくり、どんな動きをしても美しいフォームは乱れることがない。
スケルツォ第1番の苦しくあえいで登っているようなパッセージも、ブレハッチが弾けば、スキーでコブ斜面を果敢かつ鮮やかに攻め、クリアするアスリートを見ているようで胸がすく思いがする。そして憧れに満ちた中間部の、ふくよかな叙情。最近、暗い内面へと落ち込んで行くようなショパンをよく聴いていたので、こんな希望に溢れた若々しくポジティブなショパンを聴くと、こういうショパンがあっても絶対にいいんだ、という嬉しい気持ちになる。
休憩時間にチラシを読んでブレハッチのプロフィールを知った。2005年のショパンコンクール優勝者か・・・ 人気が高いわけだ。ポーランド人であること、ショパンコンクールでは「ショパンと同化した演奏」で審査員が涙を流したなんてエピソードまで読んでしまったせいで、後半は「健康的なショパン」というイメージに、どこかポーランドの民族の血を感じ取らなければいけないような気になってくる。これじゃあ血液型を聞いた途端、別人を見るように目付きが変わってしまう人を責めてばかりもいられないかも…
そんなわけで、休憩時間に得た情報の色眼鏡で聴いた後半のブレハッチの演奏からは、やっぱり民族的な臭いや、狂おしいほどに祖国を思うシビアさは感じ取れないが、そうした民族色とか生々しい感情を、洗練・昇華させ、命が吹き込まれているのは感じられた。ブリリアントなだけでなく、ズーンと心の奥底に届く深い思いが伝わってきたのは選曲のせいもあるのだろうか。
ポロネーズでもマズルカでも、熱く一途な思いと、いくつもの色が合わさった深い色調が感じられ、バラード第2番の人間的なあったか味も忘れ難い。そして、アンコールで弾いた英雄ポロネーズの、非の打ち所のない演奏!力強く誇らしげに先導するメロディーと、それに呼応しつつ優雅にエスコートする内声、そして軽やかかつ力強いステップを踏むバスの妙味が奏で合うまさしく饗宴。中間部の叙情的なところも熱っぽい思いがこもる。
アンコール最後の遺作のワルツも素晴らしい。仲道さんの心が透明になるほどの静謐さに涙がじわーっと出てしまう演奏がやっぱり大好きだが、ブレハッチの、心のざわめき、うわ言のように好きな人の名前を呼び続けるような熱い思いのこもった演奏も魅力的だった。
ショパンをこれほどまでに美しいフォルムで、瑞々しく、そして若々しい情熱を持って聴かせることのできるピアニストは他にいないかも知れない。ブレハッチの演奏でもっとショパンをいろいろ聴きたくなった。
ところで今夜も、この前の武満バースデーコンサートに続いて演奏中にケータイが鳴った!しかも、プログラム最後の一番終わりの静かな場面で!ショックと怒りはアンコールまで尾を引いてしまった。これはもう犯罪としか言いようがない。こんなことやって、お咎めなしなんて許されるのだろうか。本気で罰金制度かなにか設けてほしい。