10月22日(金)エマニュエル・パユ(Fl)&クリスティアン・リヴェ(G) デュオ・リサイタル
王子ホール
【曲目】
1.バッハ/フルートと通奏低音のためのソナタ ハ長調 BWV1033
2.バルトーク/ルーマニア民俗舞曲
3.ノヴァーク/フルートとギターのための「春の舞曲」
4.宮城道雄/春の海
5.武満 徹/エア(フルート独奏)
6.武満 徹/海へ
7.武満 徹/すべては薄明のなかで~Ⅱ暗く、Ⅳ少し速く(ギター独奏)
8.ラヴィ・シャンカール/魅惑の夜明け
【アンコール】
ピアソラ/タンゴの歴史~「1900年の酒場」
5月に聴いたバッハのリサイタルで、その魅力を存分に聴かせてくれたパユが、武満作品を中心に据えたギターとのデュオリサイタルをやるとなれば、これは聴き逃すわけには行かない。
まずはバッハで魅了!デリケートな筆致で優美に音楽を進めながら、動きのある場面では蓄えていた力がグイッと表に出てきて、俄然推進力を発揮する。そうしたコントロールが実に緻密でかつ鮮やかで、ひとつのドラマの世界に導いてくれた。「様式的な温度差」が贋作の疑いを呈しているなんて、全く感じる余地がないのは、演奏によるところも大かも知れない。
パユは、相変わらず息のコントロールが実に繊細、多彩で鮮やか。そして、それは実際に発せられる音に直結し、まさしく自由自在。そんな見事なタッチで次のバルトークやノヴァークの作品での変化に富んだ世界を堪能させてくれる。後半最初の宮城道雄の「春の海」では、「こぶし」の表現もお見事。そして、リサイタルはその後の武満作品で最高の高みへと向かう。
武満の遺作となってしまった「エア」では透き通るような美しさで、達観した静寂な世界の中に、「情」を忍ばせ、聴衆を武満ワールドへ引き込んだ。そして白眉は、パユがアルトフルートに持ち替え、ギターとのデュオで演奏した「海へ」だ。
海の底深く、わずかな光で照らされたマリンスノーが、静かに上昇するかのように、音にならない深い息から徐々に徐々に音が生まれ、漂い始めるその様子の、なんと深くファンタジックなことか。パユのフルートは、深海の揺らぎに身を任せながら漂う魚が、海水の流れの微妙な緩急や、水温の変化を敏感に感じ取るように、穏やかで多彩で深いグラデーションを聴かせる。第3曲では深海から海の表面まで上昇して、外気を感じ、悠然と泳ぐ鯨。そんなパユのフルートを深海では包み、まとわりつき、ゆらりゆらりと海面まで運び、鯨と戯れるのがリヴェのギターだ。
プログラム前半、楽譜を順番通り譜面台に揃えていなかったせいか、ステージ上での振る舞いはちょっとみっともなかったが、演奏の方はデリケートで自然、音色も多彩で、「海へ」ではパユと一体となって溶け合い、極上のデュオを聴かせてくれた。このあとギターソロで演奏した「すべては薄明のなかで」でも、リヴェのデリケートな表情が心に沁みた。
どっぷりと武満ワールドに浸かったあとは、インドのシタール奏者でもあるシャンカールのインド音楽の音階による「魅惑の夜明け」で、妖しいエネルギーに満ちたダンスの世界へと運ばれる。しなやかに身をくねらせながら巧みなステップで踊り続けるダンサー達の光景が眼に浮かんできた。パユもリヴェも完全にこの踊りの世界に入り、熱い血を伝えてきた。
アンコールにピアソラを選んだのも、プログラムの一連の流れでとてもマッチしていたし、パユの表現力の幅の広さに改めて舌を巻いた。
今夜のデュオを聴いたことで、5月のバッハで得たパユ像がまた一段と多彩さと魅力を増したものになった。
エマニュエル・パユ/バッハ:フルートソナタ (2010.5.26 三鷹市芸術文化センター)
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【曲目】
1.バッハ/フルートと通奏低音のためのソナタ ハ長調 BWV1033
2.バルトーク/ルーマニア民俗舞曲
3.ノヴァーク/フルートとギターのための「春の舞曲」
4.宮城道雄/春の海
5.武満 徹/エア(フルート独奏)
6.武満 徹/海へ
7.武満 徹/すべては薄明のなかで~Ⅱ暗く、Ⅳ少し速く(ギター独奏)
8.ラヴィ・シャンカール/魅惑の夜明け
【アンコール】
ピアソラ/タンゴの歴史~「1900年の酒場」
5月に聴いたバッハのリサイタルで、その魅力を存分に聴かせてくれたパユが、武満作品を中心に据えたギターとのデュオリサイタルをやるとなれば、これは聴き逃すわけには行かない。
まずはバッハで魅了!デリケートな筆致で優美に音楽を進めながら、動きのある場面では蓄えていた力がグイッと表に出てきて、俄然推進力を発揮する。そうしたコントロールが実に緻密でかつ鮮やかで、ひとつのドラマの世界に導いてくれた。「様式的な温度差」が贋作の疑いを呈しているなんて、全く感じる余地がないのは、演奏によるところも大かも知れない。
パユは、相変わらず息のコントロールが実に繊細、多彩で鮮やか。そして、それは実際に発せられる音に直結し、まさしく自由自在。そんな見事なタッチで次のバルトークやノヴァークの作品での変化に富んだ世界を堪能させてくれる。後半最初の宮城道雄の「春の海」では、「こぶし」の表現もお見事。そして、リサイタルはその後の武満作品で最高の高みへと向かう。
武満の遺作となってしまった「エア」では透き通るような美しさで、達観した静寂な世界の中に、「情」を忍ばせ、聴衆を武満ワールドへ引き込んだ。そして白眉は、パユがアルトフルートに持ち替え、ギターとのデュオで演奏した「海へ」だ。
海の底深く、わずかな光で照らされたマリンスノーが、静かに上昇するかのように、音にならない深い息から徐々に徐々に音が生まれ、漂い始めるその様子の、なんと深くファンタジックなことか。パユのフルートは、深海の揺らぎに身を任せながら漂う魚が、海水の流れの微妙な緩急や、水温の変化を敏感に感じ取るように、穏やかで多彩で深いグラデーションを聴かせる。第3曲では深海から海の表面まで上昇して、外気を感じ、悠然と泳ぐ鯨。そんなパユのフルートを深海では包み、まとわりつき、ゆらりゆらりと海面まで運び、鯨と戯れるのがリヴェのギターだ。
プログラム前半、楽譜を順番通り譜面台に揃えていなかったせいか、ステージ上での振る舞いはちょっとみっともなかったが、演奏の方はデリケートで自然、音色も多彩で、「海へ」ではパユと一体となって溶け合い、極上のデュオを聴かせてくれた。このあとギターソロで演奏した「すべては薄明のなかで」でも、リヴェのデリケートな表情が心に沁みた。
どっぷりと武満ワールドに浸かったあとは、インドのシタール奏者でもあるシャンカールのインド音楽の音階による「魅惑の夜明け」で、妖しいエネルギーに満ちたダンスの世界へと運ばれる。しなやかに身をくねらせながら巧みなステップで踊り続けるダンサー達の光景が眼に浮かんできた。パユもリヴェも完全にこの踊りの世界に入り、熱い血を伝えてきた。
アンコールにピアソラを選んだのも、プログラムの一連の流れでとてもマッチしていたし、パユの表現力の幅の広さに改めて舌を巻いた。
今夜のデュオを聴いたことで、5月のバッハで得たパユ像がまた一段と多彩さと魅力を増したものになった。
エマニュエル・パユ/バッハ:フルートソナタ (2010.5.26 三鷹市芸術文化センター)
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